“オールドメディア”と揶揄される一方で、最新技術を積極的に導入しているテレビメディアの動向を取材するシリーズ「テレビ×サイセンタン」

今回は、10月に開催されたビデオリサーチ主催の「VR FORUM 2025」のセッションから、カンテレにおける番組分析業務での生成AIの活用事例をレポートする。

  • カンテレの吉本剛メディアマーケティング部長

    カンテレの吉本剛メディアマーケティング部長

「暗黙知」による分析を「形式知化」

テレビ各局では、マーケティングや編成担当者が、視聴率データなどを読み解きながら、番組の分析コメントを人力で作成している。カンテレの吉本剛メディアマーケティング部長は「このコメントを作るのは大変なんです。計測された視聴率が何に比べて高いのか、低いのか。過去回なのか、横並びなのかといったコメントを分析担当者が書くのですが、一人の担当者が長くやっていれば属人化するし、複数人でやると視点や表現がバラバラになります。それに、分析の対象番組が増えれば増えるほど時間がかかりますし、人的リソースも必要になります」と従来の課題を挙げる。

そこでカンテレでは、ビデオリサーチとタッグを組み、特定の番組の視聴傾向や内容、放送日の天気、時事情報などをもとに、視聴率などの番組分析コメントをAIが自動生成するシステムを、今年春に導入。直近の視聴率の傾向、番組内容からの毎分視聴率推移、競合番組との比較などの分析コメントを、AIが瞬時に生成するというもので、会場では全国ネットバラエティ番組『火曜は全力! 華大さんと千鳥くん』(毎週火曜22:00~)での事例を紹介した。

これにより、現場の経験や勘、個人のノウハウといった従来の「暗黙知」による分析が、誰もが理解・活用できるように「形式知化」され、言語化・構造化・共有可能な情報に変換されることが期待されるという。

さらに、このシステムでは、「前番組からの視聴者を引き込むためのクロスプロモーションや、強力な導入部の工夫が求められます」「視聴者が結果を予測し、共感・反応しやすいインタラクティブな要素を取り入れることで、番組全体の引き込み力を高めることができるでしょう」など、具体的な考察や改善提案までコメント。

吉本氏は「ここが一番面白いなと思いました。このコメントを受けて、“共感・反応しやすいインタラクティブな要素”を入れるためにどうすればいいのか、という議論が番組会議で始まるはずなんです」と、活用が進むきっかけになるポイントを挙げた。

「正直、まだうまくいってません(笑)」

導入して半年が経ち、「気付きはたくさんありましたが、正直、まだうまくいってません(笑)」と告白。それでも、「月曜の朝9時にビデオリサーチさんからデータが来て、文章を作るのは結構、憂鬱なんです。担当者が3~4人がかりで半年くらいかかります。僕は勝手に“月曜日の憂鬱”と呼んでいるのですが、これがなくなるとだいぶ時間が短縮されて、ほかにチャレンジすることができると思うので、楽しみにしています」と期待を示す。

その上で、「今の状態のまま制作現場に渡してもうまく使ってくれないので、これからいろいろ研究していければと思います」と活用方法を検討。「今はメディアマーケティング部で主に使っている状態ですが、先々はこのデータを制作現場の人間が主体的に使い、番組の改善に生かしていく状態が理想だと思います。コンテンツや広告の価値を上げるのが僕たちの目的で、視聴率を分析するのは手段なので、どんどん制作現場で使ってもらって、あわよくば営業の現場まで活用できたら一番いいなと思います」と将来を見据えた。

今年の「VR FORUM 2025」は、8日・9日の2日間で53人の登壇者による全19セッションを開催。オンラインを含む4,900人が参加した。アーカイブ動画は、来年1月12日まで公開されている。