親が元気なうちは「まだ先のこと」と思いがちな介護の問題ですが、実際にはある日突然、直面することも少なくありません。準備が不十分なまま慌てて対応すると、仕事に支障をきたしたり、兄弟姉妹間で揉めたりすることもあります。特にお金の問題は、親の資産状況を事前に把握していないと、介護計画そのものが立てにくくなります。だからこそ、親が元気なうちに家族で話し合い、必要な情報を整理しておくことが大切です。

本記事では、いざ介護が必要になったときに落ち着いて対応できるよう、今から準備・確認しておきたい4つのポイントを紹介します。

  • もし親が介護になったら……?

    もし親が介護になったら?

今から準備・確認しておきたい4つのこと

親に介護の必要性が出てきた時は、住んでいる自治体に介護保険制度を利用するための申請をすることから始めます。その後の日常の変化、経済的な負担に対応するために、次の4つの準備・確認をしておきましょう。

  1. 要介護認定を受けるまでの流れを把握する
  2. 介護サービスと自己負担の目安を知る
  3. 親の年金や資産を把握して、支出の見通しを立てる
  4. 公的支援制度を最大限活用する

それぞれを詳しく解説します。

1.要介護認定を受けるまでの流れを把握する

介護保険による介護サービスを受けるためには、お住まいの市区町村から「要支援・要介護状態の認定」を受けなければなりません。申請から認定までの流れを説明します。

(1)要介護認定の申請
市区町村の窓口(高齢者福祉課や地域包括支援センター)に、要介護認定の申請書を提出します。申請には、介護保険被保険者証やマイナンバーが確認できる書類などが必要です。本人や家族以外に代理人でも申請できます。

(2)認定調査・主治医意見書
調査員が自宅や施設などを訪問して、心身の様子や日常生活の聞き取りを行います。主治医意見書は市区町村が主治医に依頼をします。主治医がいない場合は、市区町村の指定医の診察が必要になります。

(3)審査・判定
主に訪問調査の結果からコンピューターにより判定する一次判定と、一次判定の結果や主治医の意見書をもとに、専門家が介護の必要性について審査する二次判定によって最終的な介護認定を決定します。

(4)結果通知
申請から原則30日以内で結果が通知されます。認定は要支援1・2から要介護1~5までの7段階および非該当(自立)に区分されます。

要介護認定を受けたら、介護サービスを利用するために、介護サービス計画書(ケアプラン)を作成します。要介護1以上の介護サービス計画書は市区町村の指定を受けた居宅介護支援事業者へ依頼します。依頼を受けた介護支援専門員(ケアマネージャー)が本人や家族の希望、心身の状態を考慮して介護サービス計画書を作成し、それに基づいてサービスの利用が始まります。

2.介護サービスと自己負担の目安を知る

介護保険サービスを利用した場合の自己負担は、介護サービスにかかった費用の1割です。ただし、一定以上所得者の場合は2割または3割になります。

<一定以上所得者の年金収入の目安>
2割負担・・・単身で年金収入のみ場合は280万円以上344万円未満
3割負担・・・単身で年金収入のみ場合は344万円以上

※負担割合は「年金収入とそれ以外の所得の合計」と「世帯人数」によって決まります。

自己負担割合は要介護認定が下りたときに合わせて決定します。介護サービスは要介護度によって、利用できる限度額が決まっており、それを超えて介護サービスを利用した場合は、超えた分は全額自己負担となります。

以下は、居宅介護サービス(自宅で生活しながら受ける介護サービス)の利用限度額と自己負担額です。

  • 居宅介護サービスの1か月あたりの利用限度額と自己負担額 出所: 厚生労働省「サービスにかかる利用料」をもとに筆者作成

    居宅介護サービスの1か月あたりの利用限度額と自己負担額 出所: 厚生労働省「サービスにかかる利用料」をもとに筆者作成

1か月の介護に必要な費用

介護に必要な費用は、要介護度や自己負担割合のほか、介護を受ける場所(在宅介護or介護施設)によっても大きく変わってきます。

参考として、要介護度2〜3の場合に、介護施設を利用した場合と在宅介護の場合の1か月に必要な介護費用の一例を紹介します。

  • 1か月に必要な介護費用の一例 出所: 公明党 コメチャンネル「親の介護にお金はいくらかかる?費用や負担を減らす制度を解説」をもとに筆者作成

    1か月に必要な介護費用の一例 出所: 公明党 コメチャンネル「親の介護にお金はいくらかかる?費用や負担を減らす制度を解説」をもとに筆者作成

施設での介護の場合、施設の種類によって費用は大きく異なります。公的施設(特別養護老人ホームや介護老人保健施設など)の場合、初期費用はかかりませんが、民間施設(有料老人ホームなど)は初期費用に数十万円から数千万円、中には数億円かかる施設もあります。

また、介護サービス費は要介護度や自己負担割合で決められるので、施設による差はありませんが、居住費や食費、管理費などは施設ごとに設定されるため差が大きくなります。介護施設を選ぶ際は、次項で解説する「月々支払える金額」を明確にしてから、条件に合う施設を探すようにしましょう。

3.親の年金や資産を把握して、支出の見通しを立てる

計画的な介護を進めるためには、親の収入や資産を把握して、「介護費用として月々に支払える金額」の見通しを立てる必要があります。

次の項目について、事前に確認しておきましょう。

●預貯金、有価証券、不動産などの資産
●年金収入やその他の収入(賃貸収入や利子・配当金など)
●生命保険、医療保険などの保険契約
●ローン、その他の債務

これらの情報が得られれば、今後の収支状況から金融資産の残高が予測でき、資金がショートしないような月々の支出の見通しが立てられるでしょう。

4.公的支援制度を最大限活用する

親の収入・資産が少ない、介護費用の負担が重いなど、介護費用の悩みは、国や自治体の支援制度や軽減措置で対処できる場合があります。

以下に介護費用の負担を軽減する制度を紹介します。

*負担限度額認定制度
介護施設での住居費と食費の自己負担を軽減できる制度です。自己負担限度額は世帯の所得や預貯金をもとに決まり、資産の少ない低所得者ほど、住居費や食費が安くなる仕組みです。負担限度額認定制度は、公的保険施設(特別養護老人ホームや介護老人保健施設など)を利用している人のみ利用できます。市区町村に「負担限度額認定証」を申請することで利用できます。

*高額介護サービス費
同じ月に利用した介護サービスの自己負担額が一定額を超えた場合に、その超えた額が「高額介護サービス費」として払い戻される制度です。所得に応じて負担の上限額が段階的に定められています。利用するには、居住地の自治体で申請手続きをする必要があります。申請が認められると、2回目以降の払い戻しに該当する際には、口座に自動的に振り込まれます。

*高額医療・高額介護合算制度
医療保険と介護保険における1年間(8月~翌年7月まで)の自己負担の合算額が一定額を超えた場合に、その超えた分が医療保険と介護保険からそれぞれ支給される制度です。限度額は医療保険各制度や所得、年齢区分によってきめ細かく設定されています。そのため、該当するかどうかの判断が難しくなりますが、支給対象と見込まれる世帯には、通知が送られてくるので、その内容に従って申請するといいでしょう。

*介護保険の住宅改修費制度
在宅での生活に支障がないように、手すり取り付けなどの特定の住宅改修を行った場合に、20万円を限度に改修費用の9割(1割負担の場合)が払い戻される制度です。利用するには、介護保険の認定を受けていること、事前に申請をすることが条件となっています。着工後の申請は制度の対象とならないので注意しましょう。

この他にも、各自治体で介護負担を軽減する取り組みが行われている場合があるので、市区町村の介護保険課や地域包括支援センターに問い合わせてみるといいでしょう。

まとめ

親が元気なうちは、介護について話すのをつい先延ばしにしてしまいがちですが、介護はある日突然やってくることもあります。今回取り上げた4つのポイントを意識して備えておけば、いざという時の経済的・精神的な負担を減らすことができます。

介護が始まったときは、一人で抱え込まず、まずは家族や親族と話し合ってみましょう。もし身近に相談できる人がいない場合でも、自治体の窓口や地域包括支援センターに相談すれば、専門のスタッフが力になってくれます。

利用できる支援制度は積極的に活用し、公的なサービスや周りのサポートを取り入れながら、安心して介護の日々を続けられるようにしていきましょう。