フジテレビ系ドラマ『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(毎週水曜22:00~ ※TVer、FOD、Netflixで配信)が、1日にスタートした。

今作は、『古畑任三郎』シリーズ(94~06年、フジテレビ系)をはじめ、映画『THE 有頂天ホテル』(06年)、『ザ・マジックアワー』(08年)、『ステキな金縛り』(11年)などで知られる三谷幸喜の脚本に、菅田将暉、二階堂ふみ、神木隆之介、浜辺美波、小池栄子、市原隼人、井上順、坂東彌十郎、小林薫といった豪華キャストが集まった話題作。1984年の渋谷を舞台にした青春群像劇で、三谷自身の経験に基づいたオリジナルストーリー。

話題性抜群で大きな注目を集めていた作品だが、いい意味でも悪い意味でも裏切られた中でのラスト、菅田将暉が見せた“目”に興奮を覚えた。

  • 菅田将暉

    菅田将暉 (C)フジテレビ

■トレンドへの絶妙な「ズレ」が際立つ

昨今、『今日から俺は!!』(18年 日本テレビ系)や、『不適切にもほどがある!』(24年 TBS系)が話題を集めたほか、竹内まりやを代表とするシティポップ系ミュージックが再注目されるなど、「昭和レトロ」が一つのジャンルとして成立している。それは、単なる懐古主義を超えた現象で、Z世代らの手によって、SNSで「純喫茶巡り」がバズっていたり、町中華、銭湯、昭和風内装のカフェ、昭和風インテリア、ガラス食器、使い捨てカメラ、アナログ音源などのアナログなデザインを「新鮮」「エモい」と愛好する若者も。

そうした「昭和レトロ」×「三谷幸喜」×「豪華キャスト」の三拍子がそろっているせいか、放送前から期待値が非常に高かった本作。いざ蓋を開けると、いい意味でも悪い意味でも裏切られた視聴者がいたようだった。

まず、三谷幸喜らしさは確実にあるのだが、ブームに乗るような「昭和レトロ」に安易に乗っかっていない。ドラマの開幕から、舞台となる1984年渋谷のストリップ小屋のネオンが光る商店街「八分坂」のオープンセットのこだわりようと、徐々にライトが点灯していく演出は、まさに「異世界」。セットを初めて見た三谷いわく「大人のファンタジー」のめくるめく世界が広がっていたのだ。これは演出である西浦正記による力が大きい。ライトの点灯のアイデアも西浦のものだ。

また、豪華キャストが集まっているから単純に「華々しい」かと言えば、それは違う。例えば主人公の菅田が演じる久部三成は、成功を夢見る劇団演出家だが、その性格は口先だけで、憧れの蜷川幸雄氏を模倣し、声がガラガラになるほど怒鳴る、よく分からないダメ出しをする、そのくせまだ中身はなく、落ち込むと分かりやすく自暴自棄になるダメっぷり。結果、自分が立ち上げた劇団を追い出される羽目になってしまう。

これが物語のスタートになるのだが、この久部が実に、人間臭い。三谷脚本らしい人物造形の一つひとつの仕草から、久部のダメで「ワナビー」(want to be【…になりたい】を短縮した英語の俗語)で、まだ何者でもない青年に“ナマ”の人間臭さを与えているのは、まさに菅田の面目躍如と言えるだろう。

  • (C)フジテレビ

    (C)フジテレビ

■単なる人物紹介回かと思いきや…一気に視点が切り替わる

群像劇ということもあるかもしれないが、二階堂ふみ、神木隆之介、浜辺美波といったスターをも、単なる町のモブかのように描かれているような感覚を受ける。人物、一人ひとりの個性は強いし、キャラも濃い。慌ただしいやり取りは続くのだが、視聴者はそれに圧倒されて、眺めることしかできない。つまり、この「八分坂」の風景や人間模様の「観察」を余儀なくされていたのだ。

ゆえに、SNSなどで見られる視聴者の意見は賛否両論。三谷作品特有の「演劇的セリフ回し、舞台性」をじっくり味わえたという声や、「二階堂ふみが特別光って美しく見える」「浜辺美波の巫女姿に癒やされる」という好意的な声がある反面、「人数が多い分、ただの人物紹介に終止して面白さが分からない」「冗長」「豪華キャストだが魅力が感じられない」などの厳しい声も。

だが、これは意図的だったのではないか、とも思う。あえて「客観的」に人物を描くことで、視聴者の視点は俯瞰(ふかん)からにならざるを得ない。だから感情移入は楽じゃなかっただろう。

しかし、ラスト。久部が、逃げ込んだ先のストリップ劇場で、二階堂扮する倖田リカが舞台でパフォーマンスをしているのを見た瞬間から、ガラリと視線が主人公目線(=主観)へと変わる! 久部は照明室が空っぽで、リカの美しいパフォーマンスが台無しになっているのに、演出家として気が気ではなくなる。そして、照明室へ走り、自らがライトでリカのパフォーマンスを最大化し…。

そのシーンの久部の、形容しがたい真剣と狂気と悦びが入り混じった目は、まさに、ファム・ファタル(男の人生を生かしも壊しもする運命の女)との邂逅であり、ボーイ・ミーツ・ガールを示唆する瞳の色、そのものであった。

そしてこれから、運命の歯車が回り始める。久部とリカ、そして潰れかけたストリップ劇場の再建。「八分坂」のクセのある人々が、これからこの物語にどのように絡み合っていくのか。『鎌倉殿の13人』(三谷作品)のように、登場人物たちの綿密なサイドストーリーが最終的に集束する、あっと驚くカタルシスがここでも待っているのか。「八分坂」という三谷幸喜の「おもちゃ箱」の中で、存分に振り回されてみたい。

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