「肥満」と「肥満症」は同じではありません。太っている=病気とは限らず、健康障害が出たり予測される場合に医学的に「肥満症」と診断されます。放置すれば糖尿病や心筋梗塞など命に関わるリスクも。見落としがちな違いや、正しい治療・予防法について解説します。
■「肥満」と「肥満症」はどう違う?
日本肥満学会が定める肥満の定義は「脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態」でBMIが25以上の場合です。BMI(体格指数)は体重(kg)÷身長(m)²で計算した数値。35を超えると高度肥満となります。ただ、BMIの数値だけでは筋肉が多いのか脂肪が多いのかわかりません。肥満のポイントは脂肪が蓄積しているかどうか。BMIは男女ともに22が標準ですが、BMIで問題はなくても体脂肪率が高い「隠れ肥満」ということもあります。腹部CT検査などで内臓脂肪面積が100㎝²以上ある場合は「内臓脂肪型肥満」となります。
肥満の状態で、さらに肥満が関係する健康障害がある、または予測される場合は「肥満症」となります。BMI35以上で関連する健康障害があるか予測される場合は高度肥満症となります。肥満症は医学的に減量が必要とされる状態で、疾患として扱われます。
つまり、BMIが25以上でも健康上の問題がなければ「肥満」、医学的に見て肥満に関連する健康障害が出ているか予測される場合(特に内臓脂肪型肥満を伴う場合)に「肥満症」となるのです。
<肥満が引き起こす健康障害>
では、肥満はどんな健康障害を起こすのでしょうか。
肥満症の診断基準として定められている健康障害は11種類あります。具体的には、2型糖尿病や耐糖能異常などの耐糖能障害、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風、冠動脈疾患、脳梗塞、非アルコール性脂肪性肝疾患、月経異常・女性不妊、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、運動器疾患、腎臓病です。
また診断基準には含まれませんが、肥満と関連することがわかっている健康障害として、大腸がん・食道がん・子宮体がんなどの悪性疾患、胆石症、静脈血栓症・肺塞栓症、気管支喘息、黒色表皮腫などの皮膚疾患、男性不妊、胃食道逆流症、精神疾患が挙げられます。
■肥満症はどう治す? 治療方法について
肥満症と診断されると、医学的な減量治療対象になります。具体的には次のような治療法があります。
1. 生活習慣の改善
治療の基本は生活習慣の改善による減量です。日々の体重測定や腹囲計測に加えて、食事療法、運動療法、行動療法を行います。その内容は可能な限り一人ひとりの状況にあわせて、医師や保健師のほか、管理栄養士、理学療法士など各分野の専門家が指導を行います。指導内容を日々の生活で実行するのは患者さん本人。継続することが何より重要ですが、難しいことでもあります。急に食事内容や生活習慣を変えようとするとストレスになることも。無理なく、自然に日常生活の中に取り入れられることから変えていく意識を持ちましょう。
治療の目的は内臓脂肪を減らし、関連する健康障害を予防・改善することです。減量目標はBMI25以上35未満では体重の3%以上、BMI35以上では5~10%以上(合併症によって異なる)とされています。
2. 処方薬による治療
食事療法や運動療法を行っても効果が不十分な場合に検討されます。医師が必要と判断した場合に限り、食欲抑制薬や減量効果のある糖尿病治療薬、肥満症治療薬が処方されます。
3. 外科手術
胃の一部を切除して小さくするなどの外科手術は、BMI35以上の高度肥満症では長期的に減量効果を維持でき、合併する健康障害の改善効果も確認されています。対象は一般に18歳以上で、病気が原因の肥満ではなく、生活習慣改善や薬物治療を半年以上行っても効果が得られない場合です(2型糖尿病を合併する場合はBMI32以上から適応)。
■肥満対策は一人で抱え込まないで
肥満の最大の問題は、健康障害を引き起こし、寿命を縮めてしまう点です。原因は生活習慣にある場合が多いですが、忙しさやストレスなど社会的要因も大きく関わります。もはや個人の自己管理だけの問題ではありません。
肥満症と診断されたら、医療の力も借りながら、できることから少しずつ取り組み、健康のための減量を続けていきましょう。
最後に肥満症に関して、内分泌・糖尿病内科医に聞いてみました。
肥満は、遺伝的素因と環境的要因が複雑に絡み合って起こります。生まれつきの体質や生活環境、ストレスなどが大きく影響しており、原因は本人のだらしなさ、というわけではありません。
肥満症は、BMI>25に肥満に関連する健康障害が加わると診断されます。食事運動療法が基本となりますが、肥満症が高度になると単なる食事・運動療法でだけでは十分な減量が難しく、リバウンドしやすいことが課題でした。近年では、高い効果が期待できる新しい治療薬や減量手術などの選択肢が広がっており、個々の状況に応じた治療が可能になってきました。
一方で、減量に関する情報が氾濫し、科学的根拠に乏しい方法や個人の病状に合わない治療方法が拡散されています。誤った情報に基づくアプローチは却って健康を損なうリスクがあります。肥満症の治療は、早期から専門医のもとで正しい知識に基づいた治療を受けることが重要です。

