スポーツには健康的なイメージがありますが、実際にはスポーツをすることでケガをしたり体にダメージを受けることもあります。これを「スポーツ外傷・障害」と言います。
ここでは「スポーツ外傷・障害」とは具体的にどんな状態なのか、また、その原因や症状、予防方法についてお伝えします。「スポーツ外傷・障害」について理解を深め、無理することなく安全にスポーツを楽しみましょう。
■スポーツ外傷・障害とは
「スポーツ外傷」と「スポーツ障害」は、スポーツによって起こる運動器のトラブルを指します。2つとも似た言葉ですが次のように少し異なります。なお外傷はケガ、障害は故障を指す言葉で、2つをまとめて「スポーツ傷害」と呼ぶこともあります。
<スポーツ外傷>
スポ-ツ中に転んだり足などをひねったり、ボールなどが強く当たったり、他のプレーヤーとぶつかるなど、外から力が加わるような事故によって身体にケガをすることです。
<スポーツ障害>
長期間スポーツ活動を続けることで、体へのダメージが積み重なって身体を傷めた状態です。ほとんどの症状は「痛み」です。最初は「疲労」だったのがやがて「過労」となり、やがて「病気」へと進んでいきます。
<スポーツ障害の原因>
スポーツ障害の原因はスポーツ中に外から力が加わることですが、スポーツ障害の原因は様々です。主なものは次のものとなります。
・靴やスポーツ用品など、用具の状態が悪い。
・コートや球場など、スポーツを行うための環境の状態が悪い。
・関節が硬い、筋力が弱いなど、身体の状態がスポーツをするには不十分な場合。
・スポーツをする際の技術が身についておらず、身体の動きがよくない。
・アライメント異常(もともとの骨格や関節などの状態に問題がある)。
・無理のある練習内容や練習量が多すぎるなど、練習内容に問題がある。
<スポーツ障害・外傷になる人の傾向>
スポーツ障害・外傷の件数を見ると、男女合わせると小学校高学年(10~12歳)に最も多く、続いて40歳代が続いています。性別ごとに見ると次の通りとなります。
・男性の場合
1位)小学校高学年(10~12歳) 発生頻度3,680件/10万人
2位)大学生(19~22歳) 4.302件/10万人
の2つに偏っています。
・女性の場合
1位)30代 発生頻度3,669件/10万人
2位)40代 4,442件/10万人
3位)50代 4,603件/10万人
4位)小学校高学年(10~12歳) 3,225件/10万人
が多く見られました(「スポーツ障害統計データ集 平成29年度版」スポーツ安全協会/日本スポーツ協会 )。
<スポーツ障害・外傷になりやすい箇所とは>
もっとも多いのが手・指で全体の20%です。それ以外には、足関節、膝、頭頚部、足・指の順によくスポーツ外傷が起こっています(「スポーツ障害統計データ集 平成29年度版」スポーツ安全協会/日本スポーツ協会)。
<よくあるスポーツ障害・外傷の種類>
スポーツ安全保険に申請されたスポーツ障害・外傷の種類を多い順に見ると、次の通りとなります。
1位)捻挫 34%
2位)骨折 33%
3位)打撲 12%
部位と種類別に見ると、次の通りです。
1位)手・指の骨折・ヒビ 13%
2位)突き指(捻挫・打撲や靭帯・腱損傷を含む )17%
3位)足関節捻挫 11%(骨折・ヒビや靭帯損傷を含む場合は15%)
(「スポーツ障害統計データ集 平成29年度版」スポーツ安全協会/日本スポーツ協会 )。
■スポーツ外傷・障害の症状
スポーツ外傷・障害に分類されるケガや障害の種類はたくさんあります。 中でも代表的なものを見ていきましょう。
<代表的なスポーツ外傷>
・捻挫
・打撲(挫傷)
・骨折
・脱臼
・靱帯損傷
・筋・腱損傷(肉ばなれや腱断裂 など)
・創傷(切創、擦過創、挫創 など)
中でも「突き指」「足関節の捻挫」「膝関節の靱帯・半月板損傷」はよく起こります。一見たいしたことがないケガのように思えても、放置したり自己判断で手当てをすると、治りが悪くなったり手術が必要になることもあります。また「前十字靭帯損傷」のように、痛みは少ないのに放置すると他の箇所まで損傷が広がることもあるのです。
<代表的なスポーツ障害>
ジャンパー膝、ランナー膝、野球肩、水泳肩、野球肘、テニス肘、サッカー足など、スポーツの名前がついたポーツ障害は少なくありません。こうした障害は、医学的には次のような名前となります。
・腱(鞘)炎、靭帯炎、関節炎、疲労骨折、離断性骨軟骨炎、骨端炎、骨端症、筋(膜)炎、オスグッド病 など
そのうち代表的なスポーツ障害としては、「シンスプリント(別名「過労性骨膜炎」)」「疲労骨折」「腰痛」「オスグッド病」「離断性骨軟骨炎」などがあげられます。こうした障害は子どもにも見られ、放置すると成長後も治らなかったり悪化することがあります。 スポーツ外傷・障害では痛みや腫れ、違和感を感じたら適切な応急処置をするのはもちろん、早めに整形外科を受診することが大切です。
■スポーツ外傷・障害を予防するには
スポーツを上達するには、スポーツ外傷・障害に強くなることも大切です。そのためにも次の予防方法を普段から心がけましょう。
<子どものうちからできること>
・準備運動をしっかり行う。
・疲れや痛みがあったら休む。
・水分補給は十分に。
・反則や粗暴な行為はせず、ルールを守る。
<本人はもちろんスポーツ指導者も注意すること>
・それぞれのスポーツに必要な基礎トレ-ニングを知り、行う。
・競技の正しいフォームやテクニックを身に着ける。
・医学・運動生理学・運動力学などをもとにした、効果的で安全性の高いトレーニングを行う。
・スポーツ中に油断しない。
・能力に合った運動を行う。
・スポーツ中は自分のコンディションを意識する。定期的にメディカルチェックを受け、睡眠や食事、生活リズムを整え、運動前のストレッチや準備運動、運動後のクールダウンを欠かさない。
・無理のない練習計画を立てる。
・用具や設備、運動環境、天気などもチェックする。必要に応じてプロテクターやサポ-ターの使用、テ-ピングなどをする。
最後にスポーツ外傷・障害の予防法に関して、整形外科の専門医に聞いてみました。
スポーツ外傷・障害の予防は小学生と中高年とで対応が異なります。小学生は成長過程にあり、骨や筋肉が未発達なため、無理な運動や繰り返しの動作がスポーツ障害につながることがあります。特に、過度な練習や不適切なフォームによって、オスグッド病や野球肩・野球肘などの障害が起こりやすくなります。
予防のためには、まず適切なウォームアップを行い、筋肉や関節を十分に準備することが大切です。また、スポーツの基本的な動作や正しいフォームを身につけることが、関節や筋肉への負担を軽減します。さらに、同じ動作の繰り返しを避け、多様な運動を取り入れることで、特定の部位への過度な負荷を防ぐことができます。また、小学生は体力が十分でなく、疲労を感じにくいこともあるため、適度な休息を取ることが重要です。特に、成長期において無理な運動は障害のリスクを高めるため、保護者や指導者が練習量を管理することが求められます。
中高年では、加齢に伴う筋力低下や柔軟性の低下により、スポーツ時の怪我のリスクが高まります。特に、肩の腱板損傷、アキレス腱断裂、膝関節痛などが起こりやすくなります。予防のためには、運動前のウォームアップとストレッチを十分に行うことが不可欠です。特に、肩や膝などの関節の可動域を広げることで、急な動作による怪我を防げます。また、無理のない運動強度で行い、急に激しい運動を始めないことが重要です。さらに、筋力トレーニングとバランス運動を取り入れることで、関節や筋肉を保護し、転倒や怪我のリスクを低減できます。運動後のクールダウンや十分な休息も大切であり、痛みが生じたら無理をせず、早めに専門家のアドバイスを受けることも重要です。