食道は喉と胃の間を繋いでいる管のような形の臓器で、この食道内にできるがんが「食道がん」です。食道がんが進行すると、食道の内側が狭まって食べ物・飲み物が通り抜けにくくなります。悪化すると最終的には水さえも通らなくなるのです。
食道がんについて知ることで、食道がんになりにくい体を作るとともに、食道がんになっても早めに治療に取り組めるようにしましょう。
■食道がんとは
「食道がん」は食道内にできるがんです。食道の長さは咽頭と胃の間の25cmぐらいで、太さは2~3cm、厚さは約4mmとなっています。長さ約20cmは胸の中にあり、約3cmは首、約2cmは腹部に位置しています。
<食道がんのできる位置と種類>
食道がんは胸の中の食道の真ん中にもっとも多くでき、約半数を占めています。食道がんの組織的な種類は次の通りです。
・「扁平(へんぺい)上皮がん」
食道内の粘膜組織からできる。食道がんの86%がこのがん。
・「腺がん」
腺組織という上皮組織からできる。食道がんの約7%を占めます。
・その他の種類
まれに「扁平上皮がん」「腺がん」以外のがんも発生します。
<食道がんの進行>
食道がんは、食道の内面をおおっている粘膜の表面からできます。がんが大きくなると、粘膜の外側の粘膜下層や筋肉層(固有筋層)に入り込みます。さらには食道の外まで拡がり、食道の周りにある気管や気管支、胚、心臓、大動脈などにも入り込んでいきます。 食道がんは、その進行状況によって次のように呼ばれます。
・「早期がん」
食道の粘膜だけにできている場合。
・「表在がん」
食道の粘膜と粘膜下層だけにあるがん。
・「進行がん」
食道の粘膜と粘膜下層を超えて、筋層に少しでも入り込んだがん。早期がんに近いものから、末期がんまで幅広い進行状況を指します。
<患者さんの傾向>
食道がんは男性の場合、肺がん、大腸がん、胃がん、膵臓がん、前立腺がんに次いで多く、すべてのがんの4%を占めています。女性の場合は、大腸がん、肺がん、膵臓がん、乳房がん、胃がんなどが多く、食道がんは全がんのうちの1%となります。
女性よりも男性に多く見られ、患者さんの約70%は60~70歳代です。男性の患者数は横ばい~減少傾向となっており、女性は横ばい~非常に緩やかな増加傾向が見られます。 全食道がんのうちの死亡率が2.8人、男性は3.9%、女性は1.3%です(「がんの統計2024」公益財団法人 がん研究振興財団より)。
■食道がんの症状を知ろう
食道がんの症状は、次のように進行に伴い変わっていきます。
<ごく初期段階>
自覚症状はほとんどありません。
<進行とともに見られる症状>
・食べたり飲んだりすると胸に違和感を感じる
・胸の奥がチクチク痛む、熱いものを飲み込むとしみる
・飲食時に食べた物、飲んだ物がつかえる感じがする
・体重減少
・胸や背中が痛む
・咳が増える
・声がかすれる(嗄声(させい))
食道がんが大きくなるにつれて、食べた物・飲んだ物がつかえる感じが増してきます。食道がんによって食道の内側が狭まるため、食べ物や飲み物がつかえやすくなるからです。 進行すると軟らかい食べ物しか喉を通らなくなり、悪化すると水や唾液も飲み込めなくなるのです。
食道がんが進行し、気管・気管支炎や肺、背骨、大動脈などに広がると「胸や背中が傷む」ようになります。大きくなった食道がんが気管・気管支を圧迫したり、気管・気管支まで拡がると、「咳が増える・声がかすれる」といった症状も出るのです。
<早期発見・早期治療のためにできること>
「食べたり飲んだりすると胸に違和感を感じる、胸の奥がチクチク痛む・熱いものを飲み込むとしみる」という症状を感じたら、すぐ診察を受けましょう。早期発見・早期治療に繫がります。
そのほか、違和感や気になる痛み・症状は見過ごさず、医療機関に相談するのがおすすめです。
■食道がんを予防するためにできること
日本での食道がんの要因のトップは「飲酒」「喫煙」です。また、食生活も要因と言われています。食道がんの予防のために次のことを心がけましょう。
・禁煙
喫煙を続けるとすべてのがんが発生しやすくなります。できるだけ早く禁煙に取り組みましょう。「食道癌診療ガイドライン(2022年版)」でも、食道がん予防のため、禁煙を強く推奨しています。
・節度のある飲酒
飲酒をすると体内に生まれるアセトアルデヒドは発がん性物質です。日常的に飲酒をしている人の中でアセトアルデヒドの分解酵素の働きが生まれつき弱い人は、食道がんのリスクが高いことが知られています。
・栄養バランスの取れた食事
緑黄色野菜や果物を積極的に採ることで、食道がんができにくくなると言う報告があります。栄養状態が悪い、野菜を接種せずビタミンが不足しがちといった食生活も、食道がんのリスクを高めるためです。
・毎年1回のがん検診
年1回がん検診を受けることで、初期段階のうちに食道がんを含むがんを見つけやすくなります。
その他、適度な運動、太りすぎず痩せすぎていないほどよい体形の維持、感染予防を心がけましょう。普段と違う症状があれば早めに医療機関に伝え、受診するのも大切です。
最後に食道がんの予防方法に関して、消化器内科の専門医に聞いてみました。
日本人の食道がんの大部分を占める扁平上皮がんの主な原因は、飲酒・喫煙と考えられています。特にお酒が体内で代謝されてできるアセトアルデヒドは強い発がん性があり、食道、のど、口の中の粘膜に影響して発がんを来すと考えられています。
喫煙の発癌リスクは世の中に広く知れ渡ってきていますが、お酒の発がんリスクはまだ知らない人が多いのが実情です。お酒を飲んで赤くなる人(日本人の40%)は発がん物質であるアセトアルデヒドの代謝が遅いため、飲酒の習慣により発癌リスクが高いと考えられます。アセトアルデヒドは喫煙によっても体内に入り、飲酒と喫煙両方を行う事で大きく発癌リスクが高まる(約200倍)ものと考えられています。習慣的な飲酒を行う人、特に飲酒により顔が赤くなる人は飲酒量の減量と、禁煙を心がける必要があります。
近年では内視鏡の画像の質の向上、画像を強調する検査の普及により、食道がんは早期に発見する事が可能となり、内視鏡的に治療が可能となってきています。また、飲酒に関連のない扁平上皮癌や、欧米で多かった腺癌の発症も頻度は低いものの認められており、これらも早期に発見することで内視鏡治療が可能です。発がんのリスクとなる飲酒、喫煙の生活習慣の認識と改善、がんの早期発見のための定期的な検診が必要です。