日本人の死因の上位にある脳卒中。命にかかわる病気ですが、症状や対処を知り、いざという時に速やかに行動に移すことが、その後の生命や後遺症に大きく影響します。家族やご自身に症状が出たとき、すぐに気づいて医療機関にかかれるように、代表的な初期症状を知っておきましょう。
■脳卒中とは?
脳卒中とは、脳の血管が破れたり詰まったりすることで血流が悪くなることです。脳の血流が滞ることで体の動きに支障をきたし、突然手足が動かなくなる、意識がなくなるといった発作が起こります。
<詰まる、破れる――2つの脳卒中>
脳卒中は大きく2種類に分けられます。脳の血管が破れて出血が起こる「出血性脳卒中」と脳の血管が詰まる「虚血性脳卒中」です。出血性脳卒中には、脳内出血とクモ膜下出血があります。虚血性脳卒中は脳梗塞を指します。
加齢とともに血管の弾力性も失われていくため、年齢が上がるにつれて脳卒中を発症しやすくなります。生活習慣病のひとつともいわれ、高血圧や脂質代謝異常、糖代謝異常のほか、不整脈や心筋梗塞といった心臓の病気などが危険因子となります。
■どんな異変が起こる? 脳卒中の主な症状
年齢が上がるほどリスクが高くなる脳卒中は、誰にでも起こる可能性があります。発作は突然起こりますが、脳卒中の治療には、発症後4~5時間以内に行わなくてはいけないものもあります。また、治療は早ければ早いほど効果が高くなり、後遺症も軽くなる可能性があります。脳卒中の症状に気づいたら、速やかに医療機関で治療を受けることが大切です。
<覚えておいてほしい「FAST」>
脳卒中が疑われる人がいるとき、「FAST」という言葉を思い出してください。頭文字が示す初期症状(F・A・S)と発症時刻(T)を確認し、文字通り「fast=速やかに」医療機関に行きましょう。
・Face=顔の麻痺、ゆがみ:顔の片側が下がったり、ゆがんだりしてうまく笑顔が作れない(どちらか一方の口角が上がらない)場合、脳卒中の疑いがあります。
・Arm=腕の麻痺:片腕に力が入らず、両腕を胸の高さに上げたままキープできないがあるときは、脳卒中の可能性が。
・Speech=言葉の障害:言葉が出てこない、ろれつが回らない、人から言われたことが理解できない、言葉の名前が出てこないときは、脳卒中を疑います。
・Time=発症時刻:上記の症状が見られたら、時間を記録して速やかに医療機関にかかることが推奨されています。
上記のほか、よく見られる症状として視野障害(片側の目が見えない、視野が半分欠けるなど)や経験したことのないような激しい頭痛があります。これらの症状は1つだけのこともあれば、複数のことも、また意識障害を伴うこともあります。1つでも症状が見られたら、早急に医療機関を受診してください。
発作を起こした本人には、脳の血流を保つために横になってもらいます。意識がない場合は吐いたものを詰まらせないよう横向けに寝かせてください。
■脳卒中の兆候「TIA」を見逃すな
脳卒中の発作は突然起こるものですが、もし兆候があれば知っておきたいですね。
<すぐに治まる症状でも放置しない>
脳梗塞の前段階として、脳卒中の症状が起こるものの、多くの場合1時間以内(長くても24時間以内)に消失する「一過性脳虚血発作(TIA:Transient Ischemic Attack)」があります。
TIAは脳卒中の“前触れ発作”とみなされており、一時的に症状は良くなるものの、放置するとそのあと脳梗塞を起こす可能性があります。割合としては、TIA発症後3カ月以内に1~2割、さらにその半数は2日以内に脳梗塞を起こすといわれています。
逆に早期に治療を始めることで、脳梗塞の発症と後遺症を防げる可能性が。本人は元気で上記の症状がすぐに治まったとしても、早めに病院を受診しましょう。
■脳卒中を防ぐためにできること
高血圧や糖尿病、脂質異常症は脳卒中のリスク要因です。脳卒中を予防するために、生活習慣から気をつけていきましょう。食事は適正なカロリーでバランスが良い内容を心がけ、塩分は控えめにします。また適度な運動をしてストレスをためないようにしましょう。過労も避けて、睡眠をしっかりとるようにします。加えて、夏は水分不足、冬は急な温度変化に注意を。
喫煙や飲酒によっても脳卒中の発症率が上がります。早めに禁煙をして受動喫煙も避け、大量の飲酒は控えましょう。
さらに、リスク要因がある人は定期的に脳ドックで検査を受けるといいでしょう。不整脈も脳梗塞のリスクになるので、健康診断も受けて心臓に疾患がある場合は治療を受けておきましょう。
■迅速な行動が大事。普段からの心がけを
脳卒中の発作は突然起こりますが、症状が出てから速やかに治療を受けることで後遺症を軽くできる可能性があります。初期症状を見逃さず、症状が出たらすぐに医療機関にかかることが大切です。そのためにも、あらかじめ脳卒中の初期症状を知っておきましょう。 また、脳卒中予防としてできる健康的な生活習慣は、脳卒中以外の病気も予防することにつながります。健やかな毎日を過ごすために、前向きに取り組んでみてください。
最後に脳卒中に関して、脳神経内科の専門医に聞いてみました。
脳卒中はある日突然発症することが多く、命に関わるだけでなく、重い後遺症を残す可能性のある深刻な病気です。特に脳梗塞では、発症からの時間が極めて重要であり、治療の可否や効果に直結します。顔のゆがみ、手足の脱力、ろれつが回らない、言葉が出にくい、視野が欠けるといった典型的な症状に加えて、持続するめまいや吐き気、急に話さなくなる、ぼんやりするなどの非典型的な症状も脳卒中の兆候であることがあります。
また、症状が一時的に現れてすぐに消失する「一過性脳虚血発作(TIA)」は、脳梗塞の前段階と考えられており、見逃してはなりません。この段階で適切な治療を受ければ、本格的な脳梗塞を予防できる可能性があります。症状が軽くても決して油断せず、早期に医療機関を受診し、評価と予防的治療を受けることが重要です。
脳卒中の予防には、高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病の適切な管理が不可欠です。日頃から健康診断や脳ドックを活用し、自身の健康状態を把握・管理することが重要です。