9日、都内ホテルで行われた「第51回放送文化基金賞」の贈呈式。昨今話題に上ることが多い「人権」「差別」といった問題に対し、放送やエンタテインメントができる役割について言及する受賞者が相次いだ。
差別や蔑視がたくさん行われる社会が近づいている
ドラマ部門・最優秀賞に輝いたNHK連続テレビ小説『虎に翼』は、日本初の女性弁護士として、女性裁判官の草分けとして、困難な時代を力強く生き抜いた主人公・寅子の生涯から、法とは何かを問い続けた物語。
制作統括の尾崎裕和氏は「作りながら私も勇気づけられることがすごくありました。寅子やいろんな登場人物たちの闘いを見て、今の世の中にも差別や不平等や矛盾などいろんなことがあると思うのですが、それに対して声を上げていいんだ、闘っていいんだという強いメッセージがあったと思います。私もこれからも、世の中を少しでも良くしていけるような作品を作れるように頑張っていきたいと思います」と挨拶。
脚本の吉田恵里香氏は「世の中で格差や省かれてしまっている人たちにスポットライトを当てて、平等な社会、平和な社会を祈る作品を、エンタテインメントとして作りたいとずっと思っていました。この賞を頂けたことは本当に本当にうれしいのですが、残念ながら今の社会は平等とは程遠く、差別や蔑視がたくさんたくさん行われている社会が、どんどんどんどん近づいているような気がしています。私はエンタテインメントが大好きで、いろんな作品があっていいと思っています。楽しいもの、くだらないもの、過激なもの、さわやかなもの、何でもあっていいと思うのですが、それが作られる前提としてあるのは、平等で平和な社会だと思っています。なので、私たちこの業界にいる人たちが、もっと声を上げて平等で平和な社会を作っていけたらいいなと思っています」と呼びかけた。
エンターテインメント部門・優秀賞の『バリバラ 最終回スペシャル』(NHK)からは、番組のご意見番・玉木幸則さんが登壇。脳性まひを持つ玉木さんは、NHKやスタッフに感謝の言葉を述べた後、「最後に一言だけ。最近、“多様性”とか“マイノリティ”とかを否定するような発言が、テレビとかインターネットとかバンバン流れています。そこで皆さんには“あかんことは絶対あかん”と言い続けていただけたらいいなと思うので、お願いします」と要望した。
「社会は変えられる。皆さんが教えてくれたことです」
ほかにも、各受賞者から以下の通りコメントが寄せられている。
12年間の服役後に再審無罪が確定した西山美香さんの20年を振り返る『CBCラジオ特集「20年目」』(CBCラジオ、ラジオ部門・最優秀賞)で、出演者賞を受賞した井戸謙一弁護士は「この受賞は、この事件に現れた供述弱者の問題に皆様が関心をお持ちいただいたからこそであると考えております。その問題だけでなく、日本の刑事司法には、再審法改正、人質司法等多くの課題があります。このラジオドキュメンタリーを機に、多くの方々がこれらの問題に心を寄せていただければ、これに勝る喜びはありません」。
命懸けで国境を越える旅路=デスロードに同行した『国境デスロード トランプの壁突破デスロード』(ABEMA、エンターテインメント部門・奨励賞)の企画・総合演出の大前プジョルジョ健太氏は「この番組を通じて、ニュースでしばしば目にする“移民”、“不法滞在”という文字がただの文字ではなく、“アメリカに渡ったダニエル君”というふうに、顔の思い浮かぶ具体的な名前に置き換わることを願っています。今日も命懸けで国境を越える皆さんに敬意を表して」。
『NHK「性暴力」プロジェクト』(放送文化部門)のNHKグローバルメディアサービスの飛田陽子氏は「残念ながら、いまも性暴力は起きています。けれど刑法は改正され、トラウマへの理解も広がりつつあります。社会は変えられる。皆さんが教えてくれたことです」。
旧優生保護法を歴史的に検証した『ETV特集「“法”の下の沈黙 ~優生保護法の罪 1948-2024~」』(NHK、ドキュメンタリー部門・奨励賞)のNHK・鈴木洋介ディレクターは「沈黙を続ける人の中には、“障害のある自分が悪いのだから”と支援を断る人もいます。岩盤のように社会が動かない中、事態を変えたのは、沈黙を破った当事者たちの勇気。映像の力で、彼らの生き様や尊厳が少しでも伝わり、問題を考えるきっかけになることを願っています」と、それぞれが思いを述べた。
審査委員長の作家・桐野夏生氏は「時代としっかり向き合う作品が多くを占めましたが、各部門でジェンダーに関する問題意識を持った作品が特に高評価を集めました。ドラマ部門の最優秀賞『虎に翼』は、女性の生き方、ジェンダーに関する問題を丁寧に描き、多くの人を勇気づけました。ドキュメンタリー部門の奨励賞『いのちつないで』は、“内密出産”の現場に寄り添い、女性だけに出産のリスクを負わせている現状を問いかけました。放送文化部門では、NHK『性暴力』プロジェクトが受賞しました。性暴力被害者の声を丁寧に記録し、多くの番組で発信、社会の意識変革や法改正にもつながった継続的な取り組みが評価されました」と講評している。