さいたま市岩槻区で「地下鉄7号線延伸事業化実現特別講演会」が開催され、さいたま市長の清水勇人氏が登壇して「覚悟を持って着実に進める」と語った。2025年度中に事業計画案をまとめ、鉄道事業者に事業実施を要請する。2026年度中に都市鉄道等利便増進法にもとづく整備が認定された場合、早ければ2040年に開業できそうだ。
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埼玉高速鉄道(東京都市計画都市高速鉄道第7号線)の延伸計画。赤枠が岩槻区、赤い点線が事業申請予定区間、黒い点線は答申198号で示された区間。航空写真を見ると中間駅(仮称)周辺は田園地帯で、都市開発の余地はある(地理院地図をもとに筆者加工)
埼玉県とさいたま市が進める延伸計画は、埼玉高速鉄道を浦和美園駅から北へ延伸し、東武野田線の岩槻駅までを結ぶ。整備延長は約7.2kmで、埼玉スタジアム駅(仮称)と中間駅(仮称)を設置する。中間駅(仮称)は目白大学さいたま岩槻キャンパスの北側にあり、大学から徒歩圏とする見込み。浦和美園駅から岩槻駅既成市街地の南側までを高架区間とし、岩槻駅で地下に乗り入れる。岩槻~浦和美園間の所要時間は約7分を見込む。
さいたま市で最大面積の岩槻区は、東西に東武野田線があるだけで、南北を結ぶ鉄道がなかった。東京都心やさいたま市中心部に通勤通学する人のベッドタウンとして開発途上にあり、2000年度の区政調査では、通勤者のうち東京23区またはさいたま市中心部に向かう人が約3割になっていた。現在、岩槻駅から飯田橋駅までの所要時間は大宮駅経由で約70分かかるが、延伸区間と埼玉高速鉄道を経由すれば約50分となり、大幅に短縮できる。
ただし、短縮効果は東京メトロ南北線で直行できる駅に限られる。たとえば岩槻駅から大手町駅まで、または岩槻駅から新宿駅までのように、都心部で乗換えを必要とする駅では時間短縮効果が見られない。湘南新宿ラインと上野東京ラインの速度が功を奏したといえる。ライバルに勝つためには、埼玉高速鉄道も快速運転を実施し、文字通り高速な鉄道にしたいところ。活路があるとすれば、いままで鉄道系アクセスがなかった岩槻区南部、中間駅周辺の交通需要掘り起こしだろう。
コロナ禍前の試算では、費用便益比が「1」を超えた
2017年に「地下鉄7号線(埼玉高速鉄道線)延伸協議会」が試算したところ、鉄道建設のみの「すう勢ケース」では、費用便益比は30年間で「0.81」、50年間では「0.91」となり、国の支援の基準である「1.0」に満たなかった。ただし、中間駅周辺の開発、埼玉スタジアム駅の常設化、快速運転を実施した場合に、30年間の費用便益比は「1.07」、50年間で「1.22」、黒字転換まで20年という結果が得られた。
さいたま市の清水勇人市長は、2023年1月の年頭記者会見で、中間駅の積極的開発を見込んだ上で、2023年度内に埼玉高速鉄道に延伸事業を申請すると抱負を語った。しかし、実施されなかった。2017年の試算はコロナ禍以前だったから、市民の行動変容を考慮し、資金繰りの再計算が必要になる。資材価格と建設費が高騰し、人手不足により7年を見込んだ工期が18年に延びた。2017年当時は860億円だった事業費も1,300億円を超えた。
埼玉高速鉄道の利用者数も伸び悩んだ。2022年度の1日平均輸送人員は10万8,027人で、計画時の27万4,000人(2010年度まで)や、経営改革プランで下方修正した14万3,000人(2023年度まで)を下回った。鉄道業界全体の傾向として、新型コロナウイルス感染症による鉄道需要の落ち込みから完全に回復していなかった。
このような情勢を背景に、さいたま市は2024年1月24日、埼玉高速鉄道に対する事業化要請を「当面の間見送る」と発表した。同月、鉄道・運輸機構と埼玉高速鉄道に技術面の支援を要請した。双方からの前向きな回答を得て、再度検討を重ねた。
中間駅付近の開発計画の深度化
2023年、さいたま市は「地下鉄7号線中間駅まちづくり方針」を策定した。中間駅の両側に集合住宅エリア、そこに隣接して戸建住宅エリアを配置。その外側にリモートワークや小商いができるゆとり住宅街区を配置する。開発エリア南北端に産業エリアをつくり、目白大学と産学共同する企業を誘致する。中間駅と目白大学は歩行者専用道路を設定し、隣接して公園を配置する。商業エリアは高架下に誘致し、にぎわいエリアを形成する。
2025年3月25日に開催された「第1回 地下鉄7号線(埼玉高速鉄道線) 延伸連携会議」において、速達性向上計画の認定から開業までの期間を18年から14年に短縮することが報告された。これは鉄道・運輸機構と埼玉高速鉄道の技術支援が貢献した。おもな見直しは「岩槻駅周辺における施工方法」で、施エヤードの拡大、複数班同時施工など実施する。シールドトンネル到達立坑の早期構築も確認された。
一方、建設コストは1,390億円となった。2023年の試算は1,300億円とされ、いったんは1,200億円まで縮減できた。おもな内容は「岩槻駅施工時における土留め工法の変更」「高架橋スパン割の変更」「駅構造の精査」など。縮減された状況でも資材や建設費の単価が上昇し、1,390億円まで上昇した。ただし、これは1,200億円まで縮減できたからこそ1,390億円に落ち着いたわけで、縮減前の1,300億円のまま単価を上げれば1,500億円を突破していただろう。
頼みの綱は中間駅周辺の人口増加、鉄道需要の拡大である。こちらの試算結果は2つの想定で行われた。ケース1は物価上昇0%、定住人口1万人程度の場合で、延伸区間の費用便益比は「1.2」程度。かなり優秀といえるが、物価上昇なしという仮定は楽観的すぎるだろう。円安傾向が円高に転じ、輸入資材、原料価格が下がるという想定を見込んで、国内調達と相殺されて物価上昇なしとしたかもしれない。
もうひとつのケース2は慎重案で、1,390億円に物価上昇率10%を加えて、定住人口は8,000人程度とする。それでも費用便益比は「1.0」程度となる。これは頷ける話だろう。
2026年度に事業着手、2040年度開業へ
中間駅まちづくり方針策定時の検討で、建設費が上昇しても費用便益比が「1」を上回る可能性が出てきた。この結果を受けて、2025年4月8日、埼玉県の大野知事とさいたま市の清水市長が会談し、県と市の連名で事業実施を2025年度中に要請する方針を明らかにした。さいたま市のプロジェクトではなく、埼玉県のプロジェクトでもある。
今後の進め方として、「概算事業費について最新の単価を反映」「中間駅まちづくりの規模、計画人口の精査、まちづくり方針の改定」「JR東日本が2026年3月に実施する運賃改定を需要予測に反映」「収支採算性について物価上昇に伴う人件費、経費の上昇率、事業における借り入れ条件や金利などを精査」を実施する。経過のとりまとめ段階で、整備計画、収支計画、運行計画等を確定し、都市鉄道等利便増進法で定められた資料を作成する。
都市鉄道等利便増進法の適用を受けると、国から事業費の3分の1が補助される。自治体と整備主体はそれぞれ事業費の3分の1を負担。都市計画税、固定資産税の支援も実施される。
さいたま市は令和7年度予算のうち地下鉄7号線延伸にかかわる事項について「地下鉄7号線延伸線計画調査業務」の6,411万8,000円、「地下鉄7号線中間駅周辺地区まちづくり検討業務」の5,162万1,000円と、高速鉄道東京7号線整備基金への積立金として7億1,552万3,000円を原案通り可決した。積立金の残高は2021年度に約3,300万円、2022年度に約3,700万円、2023年度に約4,644万円、2024年度に約5,400万円と推移してきた。2025年度は7億円の大幅積み増しを実施した。埼玉県も、さいたま市との共同調査費として3,000万円を予算化している。
埼玉県とさいたま市の調査が2025年度に終了し、2026年度に県と市の共同で都市鉄道等利便増進法を申請して国土交通大臣に認定された場合、前述の短縮された工期が14年だから、順調に進めば2040年に岩槻駅まで開業できる見通しに。1969年に沿線自治体が「地下鉄7号線誘致期成同盟」を設立して以来、71年での悲願成就となる。
埼玉高速鉄道の延伸については、国土交通省の大臣諮問機関「交通政策審議会」が答申した「東京圏における今後の都市鉄道のあり方(答申198号)」で、「浦和美園~岩槻~蓮田」を「地域の成長に応じた鉄道ネットワークの充実に資するプロジェクト」と評価している。岩槻延伸のめどが立ったところで、次は蓮田方面へ向けた検討が始まる。
なお、答申に含まれていないが、埼玉高速鉄道を羽生市まで延伸する構想がある。「地下鉄7号線建設誘致期成同盟会」の構成自治体は羽生市、川口市、さいたま市、蓮田市、白岡市、久喜市、加須市。埼玉高速鉄道の開業がスタートライン、岩槻延伸がホップ、蓮田延伸がステップ、そして羽生市へジャンプしたいということだろう。
もっとも、サッカーファンなど埼玉スタジアム2002を訪れる人の多くが、「ひとまず浦和美園駅から埼玉スタジアム駅まで延伸してほしい」と思っているはず。そこから実績を積み上げても良さそうなものだ。まずは車両基地からほんの少し延伸し、臨時駅を設置してみてはいかがだろうか。