東武鉄道、栃木県、宇都宮市は3月27日、「第2回 ライトラインのJR宇都宮駅西側延伸と連携した広域公共交通協議会」を実施した。その席上、東武鉄道から「東武宇都宮線で宇都宮ライトレールの車両の運行は技術的に可能」と説明があったと報じられた。宇都宮ライトレールと東武宇都宮線は軌間が同じで電圧が異なるが、このような条件で直通した前例もある。今後は「技術以外の課題」に取り組む必要がある。

  • <!-- Original start --></picture></span>宇都宮ライトレールの車両HU300形。直流750V対応で、東武宇都宮線へ直通するには1,500V対応工事が必要<!-- Original end -->

    宇都宮ライトレールの車両HU300形。直流750V対応で、東武宇都宮線へ直通するには1,500V対応工事が必要

宇都宮ライトレールは2023年8月に開業したLRT路線。「ライトライン」の愛称を持つHU300形によって運行され、現在は宇都宮駅東口~芳賀・高根沢工業団地間を結んでいる。通勤路線として順調に利用者数を増やし、開業から2年後の2025年8月に累積利用者数1,000万人を突破。想定より半年早いペースで到達したという。

次の整備段階として、宇都宮ライトレールには宇都宮駅西側への延伸計画がある。宇都宮駅東口からJR線を越え、宇都宮駅西口のペデストリアンデッキに停留場を設置。そこから大通りを西へ直進し、約4km進んだ教育会館前までが「駅西側整備区間」。さらにその先、大谷石の産地である大谷観光地までが「次期延伸検討区間」となっている。

「駅西側整備区間」の途中に東武宇都宮駅前停留場が設置される予定。東武宇都宮駅はJR線の宇都宮駅から1.5kmほど離れており、徒歩で約25分、バスで約15分かかる。この区間が軌道系交通で結ばれ、宇都宮駅の東側から乗換えなしで移動できれば便利になる。

ただし、東武宇都宮駅前停留場はJR宇都宮駅前から続く大通り(旧奥州街道)上にあり、東武宇都宮駅から230mほど離れている。ならば宇都宮ライトレールを大通りから分岐させ、そのまま東武宇都宮駅に乗り入れ、東武宇都宮線へ直通したほうがもっと便利だろう。

東京新聞4月3日朝刊によると、「ライトラインのJR宇都宮駅西側延伸と連携した広域公共交通協議会」で、人流ビッグデータをもとにした推計で「東武宇都宮線沿線で移動する1日22万3,000回(往復で2回)のうち、直通運転でメリットが期待できる移動が約44%にあたる1日9万9,000回」との結果を栃木県が示したという。需要を見込めることが明確になった。

東武鉄道の言う「技術的に可能」とは

東武鉄道が説明した「技術的に可能」とは何か。簡単に言うと、「軌間が同じ。電圧の差は対応可能」ということになる。日本の鉄道において、おもな軌間はJR在来線と同じ1,067mm、世界標準軌の1,435mm、馬車鉄道由来の1,372mm。路面電車も建設時の歴史的背景が異なるため、この3種類になった。宇都宮ライトレールはこれらの中から軌間1,067mmを選んだ。JR在来線や東武鉄道との直通運転を想定したからである。軌間が異なっても、青函トンネルのようにレールを3本敷けば両方に対応できるが、線路周辺設備の移設などが必要になり、保守コストも大きい。最初から軌間を同じにしたほうが容易になる。

架線から電車に供給する電圧は異なる。宇都宮ライトレールは750Vで、JR在来線や東武鉄道が採用した1,500Vの半分。いっそ宇都宮ライトレールも1,500Vで建設すればいいと思うかもしれないが、市街地をゆっくり走る路面電車で1,500Vは過剰だし、そもそも市街地で高圧電流は危険とされている。電気設備技術基準(電気設備に関する技術基準を定める省令)で、直流750V以下・交流600V以下を「低圧」とし、これらの数値を超えると「高圧」となる。

高圧電流は保安設備のコストが高くなる。路面電車のほとんどが750Vまたは600Vを採用している。あらかじめ1,500Vと750Vに対応する電車を導入すれば、宇都宮ライトレールとの直通運転が可能になる。設備面において、電圧は下げやすく上げにくいから、1,500Vに対応する電車を製造し、降圧設備を搭載することで対応できる。

宇都宮ライトレールと東武宇都宮線は他にも信号保安設備、車両の建築限界、車両の性能などで差異があるものの、これらも含めて「技術的に可能」とされている。信号保安設備は線路側と車両側の組み合わせになるが、車両側に両方の設備を搭載すればいい。車両の建築限界も小さいほうの車両の規格に合わせる。あるいは大きい車両に対応するためにホームを削り、線路際の設備を移設するなどで対応できる。小さい車両を使うほうが、手間は少ない。

車両の性能について、路面電車は一般に最高速度40km/h程度で運用されることが多く、これ以上の速度性能を持たない。直通運転先でノロノロ運転になってしまい、他の電車の速度についていけなくなりそうだが、宇都宮ライトレールのHU300形は70km/hに対応している。これも将来の直通運転を見越した仕様といえる。さらに言うと、HU300形は車両の高さも西側延伸時にJR在来線・新幹線の高架橋の間を通る前提になっている。

設備面において、ホームの高さも解決する必要がある。宇都宮ライトレールは低床車両であり、道路とホームの段差が小さい。一方、JR在来線や東武鉄道のホームは高い位置にある。これは「両方に対応するホームを設ける」ことで対応できる。

  • <!-- Original start --></picture></span>えちぜん鉄道の鷲塚針原駅。福井鉄道の低床車両が乗り入れる<!-- Original end -->

    えちぜん鉄道の鷲塚針原駅。福井鉄道の低床車両が乗り入れる

こうした「鉄道と軌道の直通運転」には実績がある。JR在来線と同等の規格を持つえちぜん鉄道三国芦原線(鷲塚針原~田原町間)と、併用軌道区間のある福井鉄道が2016年から直通運転を実施している。双方とも軌間と電圧は同じだったので、田原町駅で双方の線路をつなぎ、えちぜん鉄道側に低床車両用のホームを追加した。あわせて両社とも直通運転用の低床車両を新たに導入している。これは性能を統一してダイヤを設定しやすくするためと、お互いの電車を自社の線路で走らせる際の車両使用料を相殺するためでもある。

過去には名鉄が美濃町線・田神線から各務原線の新岐阜(現・名鉄岐阜)駅へ直通運転を実施していた。軌道の美濃町線を鉄道の各務原線へ直通させるため、車両検修工場に出入りする線路を連絡線として整備し、田神線とした。軌間は各路線とも1,067mm。電圧は美濃町線・田神線が600V、各務原線が1,500Vだった。直通にあたり、美濃町線・田神線に複電圧対応の車両を新製、または既存車両を複電圧に対応させた。

  • <!-- Original start --></picture></span>名鉄各務原線に乗り入れた田神線のルートを赤い太線で示した(地理院地図をもとに筆者加工)<!-- Original end -->

    名鉄各務原線に乗り入れた田神線のルートを赤い太線で示した(地理院地図をもとに筆者加工)

京阪京津線では、併用軌道区間に4両編成の地下鉄直通車両が乗り入れているが、これは特例的な措置で、宇都宮ライトレールに東武宇都宮線の車両が乗り入れるとは考えにくい。ともあれ、鉄道と路面電車の直通運転に限らず、未開発の技術を待たない計画であれば、既存の技術を使い、手間とお金をかければ実現可能。問題はむしろ「手間とお金」のほうだろう。

解決すべき課題は東武宇都宮百貨店の建替え再開発

東武鉄道が言う「技術的に可能」の背景には、技術以外の課題がある。他に課題がないなら、単純に「可能」と説明できた。では、技術以外の問題とは何か。

第一に「どこで接続させるか」。東武鉄道側の設備変更を最小にしたい場合、宇都宮ライトレールを池上町交差点から分岐させ、国道119号を南下、松ヶ崎1丁目交差点で東へ転じて「いちょう通り」に勾配を設け、東武宇都宮駅の南側で東武宇都宮線に合流する方法も考えられる。しかし、いまのところは「東武宇都宮百貨店を東武宇都宮駅ごと建て替え、宇都宮ライトレールと接続する」が有力な案といえるだろう。

東武宇都宮百貨店は1959(昭和34)年に開業したターミナルデパートで、今年で67年目となる。頑丈な建物ではあるものの、耐震補強工事を実施するよりも建て替えたいとして、親会社の東武鉄道は現建物の東側(現在はコインパーキングとして使用)に建設用地を確保している。宇都宮市街地にはかつて百貨店などが数店舗あったが、いまは東武宇都宮百貨店が残るのみ。建替え中の休館は避けたい。

この機会に、東武宇都宮百貨店を中心とした再開発構想が提案された。2017年に栃木県経済同友会が栃木県知事の福田富一氏に提出した「トチギの未来夢計画 ~多様な生活の可能性にあふれた『選ばれるとちぎ』を目指して~」である。この中に「東武・松ヶ峰地区の再開発」としてイメージ図が示されている。

イメージ図によると、東武宇都宮百貨店は確保済みの東側に移転する。仮店舗ではなく「新・東武宇都宮百貨店」となる。現・東武宇都宮百貨店の跡地に再開発ビルを建て、ホテル棟、マンション棟、大規模コンベンションホールを入れる。その中に東武宇都宮駅も組み入れる。宇都宮ライトレールは国道119号の東側にある「東武馬車道通り」を通って直進し、新しい東武宇都宮百貨店の西側に停留場を設置。さらに再開発ビル内の東武宇都宮駅に接続する。これは福田知事の6期目の選挙公約でもあった。

イメージ図では建物に隠れているが、一部報道で東武宇都宮駅を地平とし、宇都宮ライトレールと共用するという話もあった。しかし、東武宇都宮線は東武宇都宮駅の南側で築堤を通り、道路と立体交差している。東武宇都宮駅を地平にする場合、踏切が必要になると考えられるため、実現のハードルは高いとみられる。地平に宇都宮ライトレール、2階に東武宇都宮駅の2層式とし、駅南側で合流するほうが合理的だろう。このあたりは今後、「ライトラインのJR宇都宮駅西側延伸と連携した広域公共交通協議会」で検討されるのではないかと予想する。

  • <!-- Original start --></picture></span>東武宇都宮百貨店を建て替え、馬車道通りに連絡線を建設する案(緑色)が有力と考えられる(地理院地図をもとに筆者加工)<!-- Original end -->

    東武宇都宮百貨店を建て替え、馬車道通りに連絡線を建設する案(緑色)が有力と考えられる(地理院地図をもとに筆者加工)

大規模な再開発となる案件で、綿密な協議に加え、費用負担割合や工期の調整も必要になる。まさに「手間とお金」の問題である。東武宇都宮百貨店ビルの老朽化は待ったなし。一方で、名鉄名古屋駅の再開発が遅れているように、建替えに必要な人材確保の課題もある。

検討課題としてはもうひとつ、「東武宇都宮線のどこまで乗り入れるか」もある。東武宇都宮線は新栃木駅で東武日光線から分岐し、東武宇都宮駅までの営業キロは24.3km。全区間乗り入れる場合、宇都宮ライトレール・東武鉄道ともに用意する車両数の負担が大きすぎる。電車の定員も大きく異なる。東武宇都宮線に宇都宮ライトレールの車両を走らせれば、その列車だけ定員が減り、混雑を招く。乗入れは混雑時間帯を避けるなど制約があるかもしれない。

  • <!-- Original start --></picture></span>宇都宮ライトレールの開業区間(青線)、整備区間(赤い太点線)、検討区間(赤い細点線)、新た構想された芳賀町区間(赤い細点線)と、東武宇都宮線の位置関係(地理院地図をもとに筆者加工)<!-- Original end -->

    宇都宮ライトレールの開業区間(青線)、整備区間(赤い太点線)、検討区間(赤い細点線)、新た構想された芳賀町区間(赤い細点線)と、東武宇都宮線の位置関係(地理院地図をもとに筆者加工)

列車ダイヤの面で見ると、東武宇都宮線は単線だが全駅に列車交換設備がある。ダイヤ構成からも増発できる余地はあるように見えるが、宇都宮市の経済圏を越えて壬生・新栃木方面まで走らせる必要があるかは見極めが必要だろう。東武宇都宮線を航空写真で見る限り、将来的に複線化できそうな余地もあるから、直通運転に関して「宇都宮ライトレール専用線路を並行に敷設する」も検討できるかもしれない。

「トチギの未来夢計画 ~多様な生活の可能性にあふれた『選ばれるとちぎ』を目指して~」を見ると、東武宇都宮線とJR日光線の交点に新駅(すばる駅)を設置する構想もある。ひとまずここまで宇都宮ライトレールを直通させても良さそうに思える。

宇都宮ライトレールに関しては、他にも日本経済新聞電子版4月5日付「宇都宮LRT、芳賀町中心部への延伸計画浮上 廃止バス路線の代替に」で報じられた東側の支線構想も浮上している。栃木県は東武鉄道に対し、日光いろは坂のロープウェイ構想も提案するなど、県政への協力を求めているという。宇都宮ライトレール周辺で目が離せない状況になってきた。