Ghostが語る神秘のベールに包まれた創作論、「ロックの亡霊」が世界を席巻するまでの物語

スウェーデン出身のバンド、Ghost(ゴースト)が通算6作目の最新アルバム『Skeletá』(スケレタ)を発表。フロントマンのPapa V Perpetua(パパ5世パーペチュア)ことトビアス・フォージが、キャラクターを脱ぎ捨てること、Ghostの「死」、そしてポップ・ミュージックからの影響を語る。

Ghost:2006年にスウェーデン・リンシェーピングで結成されたロック・バンド。2010年のデビュー作『Opus Eponymous』以降、宗教的世界観と劇的なパフォーマンスで注目を集め、2016年の楽曲で「Cirice」でグラミー賞の最優秀メタル・パフォーマンス賞を受賞。2022年のアルバム『Impera』は全米アルバムチャート2位を獲得。キャリアを通じてグラミー賞5回ノミネート、ストリーミング総再生数は100億回を突破している。2014年にサマーソニック、2019年にDownload Japanに出演するため来日している。

スウェーデンから世界へ、Ghostが駆け抜けた20年の軌跡

ステージ上のPapa V Perpetuaは、死化粧を施した悪魔のような指揮者だ。謎に包まれたショーマンとして、覆面バンドメンバー”Nameless Ghouls(名もなき亡霊たち)”と共に、奇抜なロック・オペラを築き上げている。フロントマンとして彼は壮大な演出を心から楽しんでいる。オカルト、悪魔、破滅をテーマにした壮大な楽曲と芝居がかった演出を駆使し、Ghostは長年、匿名のまま派手な火花と共にショーを展開してきた。

だが2017年、カトリック風ゾンビ教皇としての仮面の裏に隠れていた「トビアス・フォージ」という正体が、裁判沙汰をきっかけに明かされた。しかし彼はそれに動じることなく、各アルバムに物語を付随させながら、恐怖とユーモアの仮面を使い分け、新たなイメージを次々に打ち出していった。

「再びこのような形で表に立てるのは名誉なことだと感じている。というのも、次があるかなんて誰にもわからないからね」と、トビアス・フォージはビデオ通話越しに厳かに語る。スウェーデンでは2月の昼下がり、彼はロンドンでの本誌UK版による撮影を含む、一連のプロモーション活動をそつなくこなしている最中だった。Ghostの爆発的な新作『Skeletá』のリリースが迫っているにもかかわらず、本人はあまり動じている様子がない。むしろ彼の心は別の場所にある──スウェーデンのプロアイスホッケーリーグだ。

「他の人たちと同じように、試合を観られないのはやっぱりつらい。でも、今年はたくさん遠征があるから仕方がないね。俺の応援しているチーム、リンシェーピングHCのチケットを持ってるんだけど……」と笑いながら話す。「プレーオフを見逃しそうなんだ! せめてホームゲームを一試合は観ておきたいんだけどね」

ローリングストーンUK版のデジタルカバー(Photo by Jennifer McCord)

ストックホルムの自宅に戻り、日常を満喫する彼は、悪魔のようなキャラクターとしての自分と、現実の暮らしとのギャップを率直に認める。実際の彼は、派手なショーを繰り広げる仮装の化身とは対照的な「家庭的で飼い慣らされた男」だと自認している。

「深く考えすぎないようにしている。それが俺のやり方だ。あまり考え込むと、時に気が重くなってしまうからね」と彼は言う。「あのキャラクターは、かなりの程度で即興性に支えられている。『誰が誰なのか』なんてことを考え始めると、少し頭が混乱してくる。だから、あまり考えすぎずに、出番が来たときだけ現れるようにしているんだ」

フォージはすでに20年近く、Ghostという存在の「白塗りの皮膚」に慣れ親しんできた。2006年に世に出たGhostは、彼の地元であるスウェーデン南部・リンシェーピングで、その奇抜な融合サウンドによって注目を集めた。若き日のフォージは、舞台音楽からブラックメタルまで、さまざまなジャンルを実験的に混ぜ合わせる音楽家だった。

「2010年の『Stand By Him』を書いたとき、古いニューウェーブと大人向けのロック、そしてオカルト要素、さらにはウェストエンド風の要素を融合させた曲が自分にも書けるんだと気づいたんだ」と、フォージは語る。「それ以来、新しいアルバムを始めるときはいつも、すでにいくつかある曲の断片や、無数にあるアイディアからスタートしている」

Photo by Jennifer McCord

それ以降、Ghostの耳に残るフュージョンサウンドは、「サタニックな現代版ABBA」や、皮肉を込めた「スクービー・ドゥーム」など、様々な呼び名で語られてきた。しかしバンドのカルト的な支持が広がるにつれ、ゴシックでグラムなロック・プロジェクトは次第に確固たる評価を得るようになった。2016年にはグラミー賞で最優秀メタル・パフォーマンス賞を受賞し、イギリスでは『Prequelle』『Impera』『Phantomime』『Rite Here Rite Now』の過去4作がトップ10入り。そして『Rite Here Rite Now』は、北米史上最も興行収入を上げたハードロック系映画作品となった。

「俺の頭のなかには常に、”次に何をするか”という思考がある。ステージを降りたその瞬間から、次のステップのことを考えている。これはGhostのすべてのツアーの終わりにおいて、毎回そうだった」と彼は話す。「ツアーがひと段落するたびに、”次のアルバムはどうしようか””どんな場所で演奏できるだろうか””他にどんなことが成し遂げられるか”と考えてきた」

しかし今、新たなアルバムを控える中で、フォージは「次を追い続ける」という姿勢から、「今を味わう」ことへと意識を転換しつつある。

「ようやくたどり着いたんだ。自信を持って誇れるアルバムが完成し、素晴らしいツアーが控えている。だから、ただそれを楽しもうと思っている。15年ものあいだ、俺はこのGhostというプロジェクトに全身全霊で取り組んできた。そしてずっと、自分のキャリアも勢いも、まるで捕まえどころのないもののように感じていた。勢いというものは、常に”コンテンツ”で満たされなければならない──俺はこの言葉が嫌いだけれど、わかりやすいから使う。中身があって、成果があるもので常に満たされていないと、すぐに終わってしまう。そう思い込んでいたんだ」

『Skeletá』で踏み込んだ「人間性」というテーマ

Ghostは奇抜でアニメ的な存在に見えるかもしれない。だがトビアス・フォージは、そんな先入観を裏切るように、陰鬱なロックの系譜を見事に受け継いでいる。幽霊のようなキャラクターを演じ続けて20年近く、Ghostは70〜80年代風のギターソロや、KISSやスリップノットを彷彿とさせるヘアメタル的ノスタルジーで、オルタナティブなリスナーを魅了し続けている。

当初から野心的だったフォージは、この異世界的な音楽宇宙のリーダー兼キュレーターとしての自分の役割をはっきりと自覚している。「極めて現実的に言うなら、俺は技術的にはソロ・アーティストなんだ。グループの視点で考える必要はない。でも、俺の仕事はあくまでも”共同作業”であることを、皆に理解してもらいたい」と語る。そして迷いなく、自らの創作的野心を支えてきた偉大な先人たち──ビートルズ、ローリング・ストーンズ、レッド・ツェッペリンの名を挙げ、Ghostのメンバーやスタッフの努力に敬意を示しつつも、自分がプロジェクトの核であることを明言する。

「俺たちはチームとして一緒に活動しているが、実際のところ、レコード会社がGhostにアルバム制作を依頼するとき、電話をかけるのは”チーム”ではなく、俺なんだ。責任を担うのが俺の役割だから。だから、クリエイターとして、作り手として、”終わり”というものは、本当の終わりが来るまでは存在しないと俺は思っている」

Photo by Jennifer McCord

だが、その”終わり”が訪れるのは、まだまだ先のことだ。最新アルバム『Skeletá』において、フォージはこれまでとは一線を画す、「人間性」という新たなテーマに踏み込む。ボーイソプラノの合唱とエレクトリックギターのパワーコードを交錯させながら、道徳と人間の内面にまつわる黙示録的な物語を描いていく。ドラム、シンセ、ストリングスが入り乱れ、まるで金属の祈りのように炸裂する。前作『Impera』の刺々しい攻撃性が今作では一転、希望、愛、内省へと舵を切っている。

『Skeletá』にあたって、フォージは「同じプロジェクトを二度繰り返す」ことの落とし穴から意識的に距離を取ろうとした。「前作には、社会的・政治的なメッセージがあふれていた。それを俺は100パーセント支持しているし、あの作品に何か問題があったとはまったく思っていない。でも同時に、『Impera PART 2』を書きたいとは思わなかった」と彼は説明する。彼が目指したのは、Ghostの各時代がそれぞれ明確に定義できるような、時代ごとの”神聖さ”を守ることだった。「『Skeletá』はもっと内省的で、癒しの要素を持った作品にしたかった。自分の内側にあるものに光を当てるような、新しい作品にしたかったんだ」

もし、オスカー・ワイルドの悪名高い獄中書簡にちなんだタイトル「De Profundis Borealis」を堂々と楽曲につけられる存在があるとすれば、それはGhostしかいないだろう。この楽曲は、人生の浮き沈みに言及したボン・ジョヴィ風の歌詞──〈明日が来れば君は気づくだろう/朝日が氷を溶かすのだと〉──を伴って、ゆるやかに展開していく。フォージ自身は、ワイルドから直接インスピレーションを得たわけではないという。しかし、アルバム全体からは、人間性や個という存在へのつながりが感じ取れる。冒頭からラストまで、リズミカルな叙事詩のように流れていき、あたかも人間存在を哲学しようとしながら、実のところはどこかパントマイム的なオデッセイの趣を湛えている。

「俺はこのアルバムを、”人間であること”をテーマにしていると説明してきた。人生はいつだって素晴らしいわけじゃない。俺たちはどこかで、人生は常に100パーセントポジティブであるべきだという考えに取り憑かれてしまった。そのせいで意図せずに、自分自身に不幸を与えてしまっていると思う」と、フォージはアルバムを振り返りながら語る。「人生というのは、良いことと悪いことのバランスで成り立っているもので、振り子のように揺れ動く。それを俺自身、いつも直感的に感じ取れるわけではない。でもそれは、生きているうえでごく自然な葛藤の一部であって、それでいいんだ」

Photo by Jennifer McCord

これまでのアルバムと比べると、Ghostの新たな方向性はより開かれた印象を与えるかもしれない。だがその根底には、”メタル”というバンドの原点が、いまも確かに息づいている。フォージは、人間の複雑な感情に焦点を当てた楽曲を巧みに織り上げ、濃密な感情を軸とするトラックリストを組み立てている。『Skeletá』において、フォージは「誰にでも伝わる、明快で筋の通った物語」を描くことを目指したという。「レコード作りというのは非常に動的なプロセスで、白紙の状態から始まることもある。でも俺はそういうタイプではない。ある程度の方向性やテーマ、コンセプトが必要なんだ。そうでないと、自分が思考を展開すべき”枠”があまりに伸縮自在になってしまう」と彼は語る。

「それはまるで、画家が真っ白なキャンバスに向かうようなものだ。アートというのは、それが排泄物であろうとモナ・リザであろうと、なんでも成立し得る。だから俺は、何かしらのコンセプトが必要なんだ。今回のレコードでいうなら、それは内省的で、裸で、シンプルで、基本的な人間の感情──愛、憎しみ、絶望、そして受容。これらは誰にでも理解できるテーマだけど、完全に掴むのはとても難しい」

ポップの世界からの学び、拡張されるGhostの神話

アルバム制作に取りかかるとき、フォージはいつも”ロックの頭”で考えてきた。だが近ごろは、ポップ・ミュージックの流動的な特性にも強く惹かれるようになっている。周囲にはポップ畑のミキサーやプロデューサーとして活動する親しい友人たちが多く、彼らに刺激される形で、フォージもビートや新たなプロダクション手法に足を踏み入れるようになった。「ロックのレコードを作るときは、すべてが”ギターの重さ”と”ドラムの大きさ”に集約されてしまう」と彼は説明する。

ポップ・ミュージックの柔軟性と多様性に魅了された彼は、Ghostのダイナミックな音楽性を広げる新たな可能性を見出した。「ポップの世界では、前提となるルールがない。バンド編成がドラム、ベース、2本のギターである必要もないんだ」と彼は続ける。「俺のコラボレーターの多くは、プロとしてポップ・シーンで活動している。だから自分たちの関係には素晴らしい相互作用がある。俺はロック要素のキュレーションを担当している──それが俺の”本分”だからだ。一方で彼らは、エンターテインメントにおける”スパーリング相手”なんだ。俺をワクワクさせてくれ! 俺の頭をぶっ飛ばすようなものを見せてくれ!──というふうにね」

いま、ネットを開けばGhostに関する話題は山ほど目にする──サタニズム、冒涜、堕落的な歌詞、といった噂の数々。結成からおよそ20年、Ghostが宗教的イメージを引用し、死人同然のセンセーショナルなキャラクターを演じてきたのは、もはや周知の事実だ。だからこそ、3月初旬にらしさ全開の新曲「Satanized」を発表した際の反応は、ある意味で想像に難くなかった。悪魔崇拝者というレッテルを何年も貼られてきたことで、ミュージシャンに何が起きるのか?「俺は経験の中で、その扱い方を学んできた。Ghostとして活動してきた年月のなかで、バンドのコンセプト全体に対する誤解や、面倒な勘違いは何度もあった。でもそれ自体が、俺が書いている作品の核心──”現実同士の衝突”というテーマ──の一部でもあるんだ」とフォージは語る。

しかし、彼がひとつだけはっきりさせておきたいことがある。それは、「暴力を肯定する気は一切ない」ということだ。「『Satanized』という曲のタイトルがついていたとしても、それは”憑依される”という話じゃない。『Satanized』は”恋に落ちること”についての曲なんだ。もしあなたが宗教的な人間なら、”悪魔に憑かれるような感覚”といえば理解できるかもしれない。ある力に支配され、自分をコントロールできなくなる。身体も心も、まるで別の存在に乗っ取られているかのような感覚。それはある意味、悪魔的な憑依体験に近い。俺はファンのことを言っているんじゃない。でも、もしそれを”実際の憑依”だと受け取る人がいたとしても、それで暴力的にならない限りは問題ない。俺が書いているのは、あなたを楽しませるための音楽なんだ。その曲をどう受け取るかは自由だし、別の意味で捉えてもらっても構わない」

Photo by Jennifer McCord

Ghostの緻密に構築された”神話”は、時として諸刃の剣となりうる。観客の中には、プロジェクトの持つ劇的な表現意図を誤解し、居心地の悪い反応を見せる者もいる。だがフォージは、Spotifyで830万人以上のリスナーを抱え、ライブにも足を運んでくれる多くのファンに対し、心から感謝していると語る。実際、この熱心なファン層こそが、Ghostの世界観を反映した映画『Rite Here Rite Now』を、北米ハードロック史上最高の興行収入作に押し上げた原動力となった。

そして、新たなアルバムとツアーを控えた今、Ghostは次のプロジェクトを始動させている。それは、コアなファンに捧げるグラフィック・ノベルだ。「もし俺に無限の時間と経済的制約が一切なかったら、あの物語を映画としてもっと広げるのも面白かったかもしれない。でも今回の映画では、いわゆる”エピソード”と呼んでいるものに言及していて、それはバンドと並行して展開しているもうひとつの現実なんだ。しばらく前から存在しているその世界観が、今回ついにグラフィック・ノベルとして具現化された」

ある意味で、Ghostが制作中のこの新しいグラフィック・ノベルは、まるでビデオゲームで購入する「隠しマップ」や拡張パックとも近い、”もうひとつの秘密の世界”のように感じられる。それはファンの興味に特化して作られている。フォージは、音楽以外のメディアを通じて、リスナーとつながる方法を模索したいと考えたのだ。「うちのファンの多くはコミックにも関心があって、なかには自作のコミックを描いてくれた人たちもいる。だから、ついにこちらも本格的に自分たちの作品を作ることになったんだ。今回のノベルでは、”シスター・インペラトール”というキャラクターと、彼女の出自についての物語を描くつもりだ」と彼は語る。

こうしてこのグラフィック・ノベルは、Ghostの新しく広がりつつある世界に、さらにもうひとつのレイヤーを加える存在となる。「これはアルバムのなかで俺が語った”人間的な側面”を、より深く理解する手がかりになると思っている。このノベルには、かなりの量の”闇”や”トラウマ”も描かれている。だからこそ、とても”人間らしい”内容になっているんだ。それは、俺が世界をどう捉えているのかを包括的に理解するうえでも、非常に重要なことだと思っている」

From Rolling Stone UK

Ghost

『Skeletá』

2025年4月25日(金)リリース

日本盤フォーマット : SHM-CD

日本盤のみ歌詞対訳、ライナーノーツ付

再生・購入:https://i.ghost-official.com/Skeleta