「スリープテックプロジェクト」に基づいた探究授業をモデル化した佐藤栄学園とNTT東日本 埼玉支店は、系列校のさとえ学園小学校で今年度の「睡眠×テクノロジー教育」授業を実施。子どもたちが睡眠関連企業に向けて自らのアイデアを発表した。

  • 自分たちの考えた製品を日亜化学工業にプレゼンする子どもたち

佐藤栄学園とNTT東日本が連携したスリープテックプロジェクト

埼玉県の佐藤栄学園とNTT東日本 埼玉支店は、「総合的な学習の時間」にて、2023年度より「睡眠データを活用し個別最適な睡眠改善を探究する授業」(以下、スリープテックプロジェクト)を進めている。

昨年度は1年間の集大成として、睡眠計測デバイスを用いた睡眠の質を研究する公開授業も行われ、先進的なデータドリブンに基づいた探究的な学びの事例として高い評価を受けた。

この成功を受け、佐藤栄学園とNTT東日本 埼玉支店は「専門的な知識・技能の学びも含めて教員が柔軟に実施できる授業のモデル化」への取り組みを進める。

そして、全26回分の指導マニュアル、動画コンテンツ、ワークシート、授業での投影資料などをセットにした指導用コンテンツを作り上げた。これは、教員自身の睡眠知識の有無を問わず、全国どの学校でも汎用的に使えるというもの。実際にさとえ学園小学校4年生の授業で使用されており、授業を通してコンテンツの改善も行われている。

  • 「睡眠×テクノロジー教育」の授業をモデル化し汎用性を持たせた指導用コンテンツ

さらに今年度の授業のポイントは、児童にとってよりリアルな深い学びを目的に実施した産学連携による特別授業である。今回は睡眠業界のコミュニティ「ZAKONE」に加盟する睡眠関連企業、日亜化学工業、太陽化学、Yogibo、ジンズ・日本睡眠協会、TENTIAL、広葉樹合板の6社が協力し、STEAM教育の“A”、Artsの観点を学ぶもので、デザイン思考を交えた内容が大きな特徴となる。

子どもたちは、各企業から製品の紹介と開発の背景、良い睡眠に繋がるポイントの講義を受け、より良い睡眠に繋がる製品を考え、最終的に企業に対して新製品提案のプレゼンテーションを行う。

  • スリープテックプロジェクトに協力したZAKONEに加盟する睡眠関連企業とその授業内容

2024年12月には、広葉樹合板が開発した世界初の立ち寝仮眠ボックス「giraffenap (ジラフナップ)」の講義の模様も公開され、その実践的な授業風景にも注目が集まった。

  • 2024年12月に行われた広葉樹合板による特別授業の模様

  • 子どもたちは世界初の立ち寝仮眠ボックス「giraffenap」を一人ずつ体験していた

  • 「giraffenap」の利用例。短時間で目覚めるために4点でゆったり身体を保持する

  • 体験後には子どもたちから広葉樹合板への質問が相次いだ

学校とNTT東日本、さらにその先も見据えた“Win-Win-Win”を目指す

2025年2月27日、ついにさとえ学園小学校4年生が企業に対してプレゼンを行う日が訪れた。子どもたちの最終発表に先立ち、佐藤栄学園 さとえ学園小学校 教育・広報科長の山中昭岳氏は授業にかける熱意を語る。

「前回のプロジェクトは初めての取り組みとなりましたが、今回は真の産学連携を目指してスタートしました。名付けて“Win-Win-Win”です。佐藤栄学園とNTT東日本さま、そしてその先の展開も視野に入れた日本の教育改革を目指しています」(佐藤栄学園 山中氏)

近年の教育業界では、「創造力」を育むための“主体的かつ対話的で深い学び”の実践が求められている。多くの小学校がその教育課程に頭を悩ませるなか、さとえ学園小学校は、総合的な学習の時間にスリープテックを掛け合わせることで、データドリブンな意思決定ができる子どもたちを育成するというアプローチを取ったという。

  • 他の教育機関への展開を想定してカリキュラムを作った点が大きなポイント

子どもたちの斬新なアイデアに企業も感心

子どもたちのプレゼンは各企業ごと1回につき20分、全3回に分けて行われた。1回目はチームが担当している企業のプレゼンに参加し、2回目以降は自由に他のチームの発表に参加するという形だ。子どもたちは緊張した面持ちでプレゼンに望む。

日亜化学工業への提案は、スマート照明システムを用いた「UFO型ライト」と、AIペットロボットを用いて人間の生活リズムを整える「サーカディアンパートナー」。その発想に関心を示した聞き手からは、想定されるユーザーや価格帯、ロボットのサイズ感などの質問が相次いだ。

  • 「サーカディアンパートナー」の3Dモデルなどを見せつつプレゼンを進める

  • 「UFO型ライト」はモックアップも用意された

この他、太陽化学にはVRを用いて食物繊維の知識を深める「目指せ食物繊維王!」、Yogiboには睡眠・仮眠が両方できる「yogiboベッド」、ジンズと睡眠協会には4種類の「進化メガネ」、TENTIALには「浴衣パジャマ」と「ブランケット」、そして広葉樹合板には「電動ベッドフレーム」が提案された。

  • ジンズと睡眠協会に対して行われた「進化メガネ」のプレゼン

  • 太陽化学へのプレゼンではVRを着用するシーンも

結果は、残念ながらすべて“不採用”となったものの、各企業の担当者からは「商品化はできないが、すごく素敵なアイデア」「ここまで勉強されていることに、すごく元気づけられた」「課題の見つけ方が非常に上手だった」「新しい視点をいただけた」といったコメントが寄せられた。

同時に各担当者は、よりよいプレゼンを行うための方法や、アイデアを発展させるための考え方を子どもたちに伝え、最終発表は幕を閉じた。

  • 各企業の担当者からのアドバイスを真剣に聞く子どもたち

  • 最終発表を終えた後も、子どもたちは各企業の担当者のもとで会話を続けていた

子どもたちのプレゼンを終え、広葉樹合板 常務取締役/関東支店長の野村嘉人氏が率直な感想を語ってくれた。

「正直に申し上げて、びっくりしました。発表内容が素晴らしいだけでなく、我々大人では考えもつかないような新しいアイデアが提案され、驚きを感じました。小学4年生には難しい部分ではありますが、価格面やコスト面、マーケティングの観点で若干不足している部分があったため今回は採用を見送りましたが、全体的には非常に優れたプレゼンテーションでした」(広葉樹合板 野村氏)

そのうえで、「大人は技術的制約やコストの問題から、どうしても“できない”という思考に陥りがちです。一方、子どもたちは“こういうものがあったらいいな”という発想をそのまま形にしています。そういった純粋な発想力に感銘を受けました」と述べた。

「私たちも、常識にとらわれない発想で製品作りに取り組んでいきたいと思いました。お声がけいただければ、ぜひまた参加させていただきたいと考えております」(広葉樹合板 野村氏)

  • 広葉樹合板 常務取締役/関東支店長 野村嘉人 氏 (写真は2024年12月)

佐藤栄学園とNTT東日本が見据える産学連携の未来

2度目となるスリープテックプロジェクトを成功に導いたさとえ学園小学校とNTT東日本 埼玉支店。佐藤栄学園の山中氏は、次のように今回の特別授業を振り返る。

「本物の企業の方々が来られて、児童を子ども扱いをすることなく、大人と同様な形で接していただいたことで、児童の意欲は倍増しました。『もっとやりたい』『もう一度プレゼンをさせてほしい』という声も挙がっており、本物の出会いが学びを生んだと実感しています」(佐藤栄学園 山中氏)

小学4年生の子どもたちにとって、プレゼンはまだまだ難しい。さとえ学園小学校では普段から1分間スピーチなどの機会を与えているものの、今回は「大きな声で喋れない」「iPadに表示させた原稿を見ながら話してしまう」という場面が多かった。だが山中氏は、「それも効果的なプレゼンテーションの方法に気づくきっかけになれば」と期待している。

あわせて、NTT東日本との連携のなかで、今後期待することを述べる。

「最近は、AIをどう教育の中に入れていくかを考えており、児童たちがAIとの適切な付き合い方を学べる機会や体験の場を作りたいと思っています。そして、いつか将来は子どもたちを宇宙に連れて行ってあげたいですね」(佐藤栄学園 山中氏)

  • 佐藤栄学園 さとえ学園小学校 教育・広報科長 山中昭岳 氏

また、NTT東日本 埼玉支店 第二ビジネスイノベーション部 産業基盤ビジネスグループ 産業基盤ビジネス担当 田村聡美氏は、2年間の取り組みを感慨深く語る。

「子どもたちにとって本当に価値のある取り組みだったと実感しています。昨年度も高い評価をいただきましたが、2年間を通じて子どもたちが睡眠をより身近に感じられるようになったと感じます」(NTT東日本 田村氏)

田村氏もまた子どもたちの斬新な発想力を評価していたが、一方でデジタルツールの活用方法にも注目。学習中も紙を使用することがほとんどなく、iPadを活用してスライドや3Dモデルを制作するなど、先進的な取り組みが見られたことに関心を寄せる。

「佐藤栄学園さまも私たちNTT東日本も、探究的な学びに力を入れています。スリープテックに留まることなく、子どもたちの関心とテクノロジーを掛け合わせたテーマでの学習に力を入れていきたいと考え、さまざまな可能性を検討中です」(NTT東日本 田村氏)

  • NTT東日本 埼玉支店 第二ビジネスイノベーション部 産業基盤ビジネスグループ 産業基盤ビジネス担当 田村聡美 氏

佐藤栄学園とNTT東日本 埼玉支店の取り組みは2者に留まることなく、多くの睡眠関連企業をも輪に加えた新しい産学連携を実現した。この“Win-Win-Win”の輪が、他の学校や企業にも広がっていくことを期待したい。