NHKのドラマ10『しあわせは食べて寝て待て』(4月1日スタート、総合 毎週火曜22:00~)で主演を務める桜井ユキにインタビュー。本作に参加して芽生えた思いや、役と重なる自身の経験、俳優業に対する思いなどを聞いた。

  • 桜井ユキ

    桜井ユキ

本作は、一生付き合わなければならない病気(膠原病)にかかったことで、会社務めから週4日のパート生活への変更を余儀なくされ、家賃5万円の団地暮らしを始めた38歳独身・麦巻さとこが、薬膳料理と団地や職場の人間関係を通して心身を取り戻し、身近にあった自分次第の幸せに気づいていく物語。主人公のさとこを桜井が演じ、隣に住む大家の美山鈴を加賀まりこ、鈴の同居人で“料理番”の羽白司を宮沢氷魚が演じる。

桜井はオファーを受けた当初、とても優しい作品という印象を抱いたものの、演じていく中で「優しくてほっこりした作品という一言で片付けてほしくない」という思いが芽生えたという。

「この作品は大きな事件も起きなければ、胸を打つような悲しい出来事も大恋愛もないですが、日常ってそうだよなと。さとこは膠原病を患い、傍から見たら健康体に見えますが、さとこの中で抱えている葛藤やつらさは本人にしかわからない。傍から見ただけではわからないことって世の中たくさんあると思っていて、さとこだけでなく、鈴さんも司も、みんな明るそうに見えるけど、本人が抱えているつらさはわからないなと思いました」

そして、さとこと団地の人たちとの日々を通じて、いろいろな気づきがあるという。

「今、世の中は人との付き合いが希薄になりつつあると思いますが、人が抱えているものに柔らかに寄り添って過ごしていく彼女たちの日々はすごく勇気をもらえるし、人との付き合いってやっぱり素敵だなと。人間は1人では生きていけないなと感じさせられる部分もたくさんあります」

ワークショップをきっかけに自然な笑顔ができるように

他人にはわからない悩みと向き合うさとこ。桜井も長らくそういったものを抱えていたという。

「幼少期から高校生ぐらいまで、親との関係や友人関係などで自分がうまく立ち振る舞えないことに対しての葛藤だったり、傍から見ればわからないようなことに悩んでいました。一時期、口角がうまく上がらず笑えない時期があって、自分のメンタルがすごく影響していたと思いますが、その悩みを説明してと言われるとできないモヤッとした暗いものをずっと抱えていて、もちろん種類は違いますが、さとこも近いものがあるのかなと。なので、さとこの気持ちをすごく理解できます」

さとこを演じるにあたって、自身が抱いていた葛藤を思い出したという。

「私はどういうことを周りに理解してほしいとか、どういうことを改善していきたいと思っていたのかということをもう一度思い出して、当時の感覚を今回に生かせないかなというのがありました」

先ほど「笑えない時期があった」と明かしていたが、それは高校時代から20代前半までで、演技のワークショップをきっかけに乗り越えることができたという。

「この仕事を始めたばかりの24~25歳くらいのときにワークショップに通っていたのですが、そこでこてんぱんにやられまして。口角を上げる練習をして形で笑うようにしていて、笑っているつもりになっていたんですけど、先生に『嘘くさい笑いをするんじゃない。私の前で一切笑うな』と笑顔を封じられたんです。そのときはすごく苦しかったですが、今までなんでそんなににこにこ笑おうとしていたんだろうということに気づかされ、力を抜いてそのときの感情や表情を出せるようになりました」

そして、「無理しなくていいんだ」と思えたことで、仕事でもプライベートでも自然な笑顔ができるように。「楽になりました。息の抜き方を教えてもらったというか、すごく大切なことを学べたなと思います」と振り返り、その経験がいまだに俳優業における一番の転機になっていると話した。