今日の少子高齢化は、社会のさまざまな領域に影を落としている。例えば、労働市場もそのひとつ。
リクルートワークス研究所では、2040年に約1,100万人の労働者が不足すると予測し、「労働供給制約社会」と名付けた。当然、新卒者の就職環境や採用環境にも大きな影響を与える。
同グループの研究機関である就職みらい研究所の『就職白書2025』の発表から、就活生の新たな志向が見えてきた。
空前の売り手市場の一方で、入社納得度は低下
『就職白書』は就職みらい研究所が毎年、学生の就職活動および企業の採用活動の実態を調査・発表しているもの。
ときどきの時代に対応した就活生の考え方や、企業の採用活動への取り組みがわかる調査資料になっている。発表会は同研究所の所長である栗田貴祥氏の2025年卒の振り返りから始まった。
「2025年卒学生の就職確定率は91.7%で、2012年卒の調査開始以来の最高値となり、学生優位の就職環境が続いています。一方で、入社予定企業等に就職することへの納得度は、『当てはまる・計』が73.6%で、前年から-3.5ポイントになりました」(栗田氏)
空前の売り手市場にもかかわらず、就職への納得度が前年比で低下したことは非常に興味深いデータだ。同白書では、その原因を考察できる質問も行っている。
生成AIの安易な就活への使用はミスマッチを招く要因に
ひとつは最近話題となっている生成AI(人工知能)の使用に関する設問だ。
「就職活動における生成AIの使用は34.5%と前年から20ポイント増加し影響力が増すとともに、使用される場面も広がりを見せています」(栗田氏)
栗田氏は、これらのデータから生成AIの活用には就職活動の負担を軽減するプラスの面と活動が安易になるマイナスの面の2つがあると指摘する。
確かに、安易な就職活動は入社後のミスマッチにつながりかねないリスクがある。
また、就職先決定に対する自己認識も、入社予定企業への納得度が低下した原因のひとつに考えられる結果になった。
「就職先決定に対する自己認識で『就職先決定を振り返ると、安易に決めてしまったと感じる』かを問う設問に対し、半数近い43.6%が『当てはまる』もしくは『どちらかというと当てはまる』と回答しました。さらに、重視した基準をわかっていたかどうかで分けて分析すると、基準がわからなかった学生では安易に決定した割合が65.8%に達しました」(栗田氏)
重視したい基準を見つけることができないのは、エントリーシート等の作成で安易に生成AIを使った弊害なのかもしれない。
いまのところ生成AIの使用は、マイナス面のほうが大きそうだ。
入社後のキャリアと真摯に向き合うことが入社意向を高める
『就職白書2025』では、学生の就職活動だけでなく、企業側の採用活動についても調査している。空前の売り手市場の中で、企業側の取り組みも興味を引く結果になった。
「採用充足のために初任配属に関する取り組みを行う企業が増えています。なかでも、『本人のキャリアや成長の観点から、なぜそのポジションに配属されたかを説明している』の割合は、採用充足企業で47.4%、未充足企業で39.6%と明らかな差が出ました」(栗田氏)
ここで注視したいのは、初任配属を確約した割合は、充足企業より未充足企業が多かったこと。
入社意向を高めるには、単に配属の希望を叶えるだけでなく、入社する学生一人ひとりのキャリアとしっかり向き合う会社であることを理解させる必要があるようだ。
このキャリア志向は、学生の就職活動においても表れている。
「インターンシップ等のキャリア形成支援プログラムに参加した学生は73.6%で、参加社数の平均は5.64社でした。また、参加企業へ入社する予定の学生は41.2%で、参加企業ではないが同業種の企業への入社予定も含めると75.8%に達しました」(栗田氏)
生成AIの安易な活用とは逆に、こうしたキャリア形成支援プログラムへの参加は入社後のミスマッチを防ぐのに好ましい傾向と言える。
いずれにしても、リクルートワークス研究所が言う「労働供給制約社会」の到来が見込まれる中、今後も新卒者の売り手市場が続く公算が大きい。
就職する学生にとっても、採用する企業にとっても、その影響がポジティブな方向に向かうことを期待したい。