日産自動車の人気ミニバン「セレナ」に四輪駆動の「e-4ORCE」モデルが追加となった。ファミリーカーのイメージが強いミニバンという車種に、電動4WDシステムの技術はうまくマッチするのか。四輪駆動化でセレナの魅力は増したのか。雪の北海道で試してきた。
日産の電動4WDシステムは2つある
まずは、日産のハイブリッド車と4WDシステムの基本的なところを押さえておきたい。
日産独自のハイブリッドシステム「e-POWER」を搭載するクルマには、2種類の2モーター4WDシステムがある。「ノート」「ノート オーラ」「キックス」などが搭載する「e-POWER 4WD」と、「セレナ」「エクストレイル」などが搭載する「e-4ORCE」だ。
どちらも前後アクスルに搭載する2つのモーターで駆動する4WDシステムなのだが、何が違うのかというと、「e-POWER 4WD」が前後モーターと左右ブレーキの制御を前後2つの独立したコンピューターでそれぞれ個別に制御しているのに対して、「e-4ORCE」はひとつのコンピューターで両方を統合制御している。
日産によると、ノートやキックスは車体が軽量なので、e-POWER 4WDでも十分な性能が発揮できる。一方、車重の重いセレナやエクストレイルを四駆化するには、さらに速いスピードで「目標とする車両挙動となるよう、ブレーキとトルクの協調制御を実現」する必要がある。それがe-4ORCE化で可能になり、4輪の能力をフルにいかすことができているそうだ。2つの頭で別々に制御するより、優秀なひとつの頭で統合して制御した方が、より良い結果をより早く得られる。まあ、考えたらわかる話だ。
e-4ORCE化によるメリットは以下の通り。
ボディ上屋の挙動がコントロールできるので、乗る人すべてに快適な乗り心地が提供できる
高精度なモニタリングで4輪のグリップ限界を算出しながら駆動力をコントロールするので、卓越したハンドリング性能が発揮できる
緻密なトルクコントロールによって濡れた路面、荒れた路面、雪路・氷結路など路面を問わない安心感のある走りが実現できる
つまり、全方位的な進化が期待できるというわけだ。
セレナe-4ORCEが目指した姿は?
セレナe-4ORCEのボディは全長4,765mm、全幅1,715mm、全高1,885mm、ホイールベース2,870mmで、基本的なサイズは2WD(前輪駆動)モデルと変わらない。その一方で、凹凸路や雪道での走破性を高めるため、最低地上高は135mm(2WD)から150mm(4WD)へと15mmアップしている。
-
「セレナ」e-POWER車のe-4ORCE搭載モデルは「X」(361.46万円)、「XV」(391.49万円)、「ハイウェイスターV」(408.87万円)の3グレード展開。写真は「ハイウェイスターV」
搭載する2つのモーターの最高出力/最大トルクはフロント120kW(163PS)/315Nm、リア60kW(82PS)/195Nmというから、かなり強力。発電用のエンジンは変更なしで、98PSを発生する1.4リッターの直列3気筒エンジンだ。
高出力のリアモーターを追加するにあたっては、リアフロアとリアサスペンション(トーションビーム式)を専用設計するとともに、搭載位置を工夫して最適なレイアウトを目指した。ゆえにパッケージングに対するマイナス部分は最小限に抑えられている。3列目シートの足元がわずかに高くなっている程度だ。2列目のキャプテンシートなど、メインとなる居住スペースへの影響は出ていない。
その2列目、3列目に座ることが多い家族に対しては、頭部の動きをピッチング(縦方向)、ローリング(横方向)ともに10%も軽減させることができたという。その結果、クルマ酔いのしにくさがさらに向上している。特に減速時には、後輪にも回生ブレーキが効かせられるので、車体をフラットに保つことができる。車体が並行移動するように加減速できるので、高価な可変式電性サスペンションなどがなくても、乗り心地の良さがしっかりと体験できるというわけだ。
e-4ORCE搭載により車重が100~120kほど重くなっているにも関わらず、100km/h前後の加速性能は向上している。これにより、高速道路での追い越しなどで安心感が高まるはずだ。
このように、セレナはe-4ORCEを採用することで、「家族の遠出を最大限に楽しむためのミニバン」という従来のコンセプトをさらに強めた、というのが日産の説明である。
北海道の雪道に挑戦!
筆者が乗ったのは「セレナ e-4ORCE ハイウェイスターV」というモデルだ。ボディカラーは「クリスタルブラウン/利休-リキュウ」の2トーンだったのだが、あいにく試乗日の2月11日は昼過ぎからドカ雪が降り始め、出発時間の午後3時ごろにはクルマは雪で真っ白になり、払い除けてもすぐに降り積もってしまうというありさま。試乗コースとなった林道は、それまでの雪の上にさらに新雪が10cmほど積もった状態だった。ホワイトアウトとまではいかないけれども視界が悪く、雪に慣れない関東在住者にとっては仕事でなければちょっと運転するのを遠慮したいくらいの状態だったのだが、プレゼンで性能の高さを聞いた直後でもあったので、雪道での性能を信じて走り始めた。
雪道での最強の走行能力を得るため、ボタン式のシフトで「B」モードを選び、その左側にある「e-Pedal」もONにする。e-4ORCE化で新たに設定された「SNOW」モードは、ステアリング右下というちょっと見にくい位置にあるドライブモードボタンを押して選ぶ。
スタート時はタイヤの黒い部分が見えないほど雪で覆われた状態だったが、アクセルペダルをジワリと踏みつけるとセレナは難なくスタートを切った。前輪の駆動力だけでなく、後輪が押し出してくれる感じがすぐに伝わってきて「おおっ」と声が出る。
深雪の林道内でもその感覚は常にキープされるので、e-4ORCEへの信頼感がどんどんと増してきて、先ほどまでの不安感が払拭されていくのがわかる。スピードが乗ってきたところで現れたコーナーでもアンダーがほんの一瞬出ただけで、すぐに鼻先が出口方向に向きを変える。アクセルを踏むと、ぐいぐいとグリップしながら加速していった。
最低地上高のアップは「たかが15mm、されど15mm」で、タイヤが雪に沈み込んだ状態でも安心して走ることができるのだ。
ドライ路面での走行性能や燃費性能は試せていないのでわからないけれど、2WDのe-POWERモデルを試乗した時のことを考えたら期待を裏切ることはないはず。車両本体価格が408.87万円というのはなかなかのものだけれども、この性能ならためらう必要もないだろう。