• 「いづみ」の最終営業日 (C)フジテレビ

前編で描かれたのは、店の40周年を機にのれんを下ろした、79歳の「いづみ」のママ。ほかにも70~80代のママの店が多く、高齢化が進んでいる。

それにもかかわらず、体力的にも厳しそうな夜の仕事をなぜ続けるのかを聞くと、どのママからも返ってくるのは“生きがい”になっていることだったという。

「みんな同年代の年金暮らしの人と比べて、“家にいたって、面白くないじゃない”って言うんです。店に来れば、毎日若い人も含めていろんな人としゃべることができるじゃないですか。僕だって“若い男としゃべれてうれしい”と言われましたから(笑)。だから、店に来ることで元気になっているんです」

ママの中には、「カウンターの中で倒れて、みんなに“ママー!”ってみんなに声をかけられるのが、もう葬式でいい」と言う人もいるのだそう。「舞台の上で死のぬが本望」と公言する俳優と同じような気概で、毎晩店に立っているようだ。

そんな中で「いづみ」ママが辞めた理由は、視力の衰えにより車で50分かけて店に通うことが怖くなったため。山本氏が前編で特に印象に残る場面として挙げるのは、彼女が最後の営業日で笑っている姿だった。

「お客さんは泣いたり、しんみりしてるんですけど、本人はずっといつもと変わらない表情で笑っているんです。最後に話を聞いたら、“楽しかったからここで仕事してたのに、無理してやったら楽しくなくなっちゃう。だから笑って商売できなかったらやらない”と言っていて。その彼女の哲学を聞いて、最後まで笑って終わったというのが、すごいなと思いました」

  • 「酔った」のママと元夫 (C)フジテレビ

ただの客とママとは違うレベルに

後編で描かれるのは、「酔った」のママとの突然の別れ。そして毎週、店を訪れて“息子”のように接していた、悲しみに暮れる常連客たちの姿だ。

この関係性に、「塙山キャバレーという場所は、ただのお客さんとママとは違うレベルになっているのが、より見えてきました。自分の母親が亡くなった時にもこんなに泣くのだろうかというくらい、感情をあらわにしていたんです。ここまでお客さんと結びつくことができるのかと驚きましたし、だからこそ替えのきかない場所なんだと思いました」と印象を語る。

数ある店の中で塙山キャバレーの前組合会長だった関係で、山本氏がお世話になったのが「ふじ」のママ。このママは息子が2歳の時に離婚したが、元夫に引き取られてしまったため、17歳になるまで1回も会えなかったのだという。その息子と年齢が近い山本氏は「僕と同年代の人たちがお店に集まってくるんです。ママは母親としてつらい時期がずっとあったので、僕たちに優しく接してくれて楽しく過ごせるのかなと思います」と推察した。

  • 「酔った」ママの死に号泣する客と元夫 (C)フジテレビ

●山本草介
1976年生まれ、東京都出身。早稲田大学卒業。ドキュメンタリー映画監督の佐藤真氏に師事し、06年に映画『もんしぇん』の監督で商業デビュー、第6回天草映画祭「風の賞」を受賞した。映像作家として『ザ・ノンフィクション』のほか、『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)、『情熱大陸』(MBS)といった番組や、ドキュメンタリー映画『エレクトリックマン ある島の電気屋の人生』などを制作。21年、初の著書『一八〇秒の熱量』(双葉社)が、第52回大宅壮一ノンフィクション賞・第20回新潮ドキュメント賞の候補作に選ばれた。