「ヒト味違う"オモシロ"さ!」をコーポレートスローガンに掲げ、パチンコ・パチスロ機器を開発・製造するメーカーの藤商事は、アニメ作品の新たな楽しみ方を届けるべく、新プロジェクト「anime blast(アニメブラスト)」を発足した。

現在、パチンコ・パチスロの多くはアニメ・ゲーム・コミック作品とのコラボレーションが行われており、パチンコ・パチスロを通して、初めてその作品を知るという人も少なくない。そんな状況において藤商事が始動した「anime blast」は、アニメ作品の魅力や新たな可能性を見つけ出し、自由な視点で無限大に広がる"楽しい"をファンと共に創り上げたいという思いのもと立ち上げられたプロジェクトとなっている。

そこで今回は「anime blast」を企画し、主導する藤商事 開発本部 エグゼクティブプロデューサーの北俊和氏に、本プロジェクトの企画意図や目的、目指すべき方向性などについて伺ってみた。

●「anime blast」を立ち上げた理由

  • アニメの新プロジェクト「anime blast」

プロデューサーという立場で機種開発を行う北氏は、パチンコ機のリリースのサイクルが非常に早くなる一方で、1機種あたりの販売台数が減っているという業界の現状を見据え、「かつては30兆円産業と呼ばれて、大変賑わっていた業界ですが、今や逆に斜陽産業と呼ばれている」と悔しい気持ちを交えつつ、「とにかくあの頃の活気を取り戻したい。そのためには新しい何かを仕掛けていかないといけないんですよ」と今回のプロジェクト始動のきっかけを振り返る。

かつては、アニメ以外の様々なコンテンツとのコラボレーションが活発だったパチンコ・パチスロ産業。藤商事でも、時代劇や歌手・アーティスト系のコンテンツを取り込んだ機種を多数リリースしてきた。そんな中、北氏は「今の時代はアニメ。特に実写系のコンテンツが受けなくなっています。弊社では『リング』などのホラー系は人気なのですが、いわゆる"歌パチ"などのジャンルは数を減らしていますし、さらに自社オリジナルのコンテンツで勝つのは非常に難しい状況です」との見解を明かす。

「基本的には、ホール様に機械を売るのが仕事ですが」と前置きしつつ、「その先にいるパチンコユーザーの方に楽しんでいただく」ことこそが藤商事の企業理念だという北氏。「パチンコユーザーの方に楽しんでいただいて、稼働が上がれば、ホール様からの信頼を得られるので、また機械を買ってもらえる」と、ユーザー目線をもっとも意識して開発しているとの姿勢を示し、「その意味でも、現在はアニメコンテンツとのコラボレーションが非常に有効になっている」と、アニメコラボを活発化させる意義を明かした。

しかし、アニメコラボの有効性を示しつつも、「パチンコユーザーの方が必ずしも知っているアニメとコラボレーションできるわけではない」という現実を指摘する。他社との間で人気コンテンツの熾烈な争奪戦が繰り広げられている現状がある中で、「人気だから良いコンテンツというだけではなく、知名度はそこまで高くないけど、実は非常に優れたコンテンツってたくさんあるんですよ。だから我々の業界としては、その良さをパチンコを通してユーザーに届けないといけない」と力強く語り、「知名度があるからパチンコになるという流れとは別に、パチンコになることで知名度を上げていく流れを作りたい」という想いが、「anime blast」発足に繋がっているという。

これまでXやYouTubeなどのSNSを使ったプロモーション活動を行ってきた藤商事だが、「今回はさらに踏み込んで、TikTokやInstagramも活用していく」と、比較的若い世代が利用しているSNSにもアプローチすることで、「まずは『anime blast』というプラットフォームを大きくし、『ここで取り上げられた作品はいずれパチンコになるよね』といったところからはじめ、パチンコユーザーの方に、キャラクターであったり、ストーリーといったパチンコ台だけでは伝えきれない要素を伝えていきたい」との展開を目指す。

「自分の知らないアニメの台を打ったら、まずは『このキャラは誰?』から始まるじゃないですか」と苦笑いを浮かべる北氏だが、「『anime blast』はそれを伝えるためのプラットフォーム。このキャラクターはどういう性格で、どういうバックボーンがあるみたいなことを知ってもらえれば、ただ漠然と台を打つといったところから、さらに一歩踏み込めるのはないか」と「anime blast」の狙いを明確化。「実際、パチンコの演出やギミックは、実際のアニメに合わせたものを取り入れている」という事実を指摘し、「開発は、ただアニメの絵柄を使っているだけではなく、ちゃんと作品を熟知して、最大限に活かそうとしているのですが、それが理解されないのが一番さびしい」との開発者視点での気持ちから、「開発者側の気持ちと、パチンコユーザーの認知度。そのギャップを埋めることが一番の目的です」と、「anime blast」を立ち上げた経緯について、あらためて言及する。

 ●「anime blast」第1弾は『とある科学の超電磁砲』

藤商事 開発本部 エグゼクティブプロデューサーの北俊和氏

2024年7月から始動した「anime blast」だが、その第1弾として展開されているコンテンツが『とある科学の超電磁砲(レールガン)』。9月にリリースされたパチンコ『Pとある科学の超電磁砲2』のリリースタイミングに合わせての始動となったが、公式Xのフォロワー数はすでに2.8万人を超えるなど、初動としては上々のスタートを切っている。公式Xの「-アニメの楽しさ!無限大!- 新プロジェクト #animeblast公式アカウントです」で始まるプロフィール欄を見てもパチンコやパチスロについては一切言及されておらず、投稿内容についても、ストーリーやキャラクター紹介がメイン。さらにYouTubeでも『とある科学の超電磁砲』のキャストが出演する番組が配信されているが、パチンコに関する情報が最低限に抑えられている。

「もちろん『新台が出ますよ』とか、それに伴うキャンペーン情報なども触れてはいますが、基本的にはアニメの情報がメインで、アニメファンに喜んでもらえるような内容を目指しています」という北氏は、「新台のプロモーションは、藤丸くん(藤商事のオリジナルキャラクター)に任せておけばよいのであって、そこはちゃんと棲み分けをしたい」と役割分担の明確化について言及。「パチンコ専用に描き下ろしてもらった映像を投稿したりもしているのですが、実際に台を打ってくれた人だけでなく、作品は好きだけどパチンコは打ったことがないという人にもすごく評判が良いみたいです」と笑顔を見せる。

パチンコ台をプロデュースして、プロモーションするのが本来の仕事である一方で、「機種だけをプロデュースしても先がない」という北氏。「このプロジェクトが、どれくらい会社に貢献して、現実問題として、どれくらいの利益として戻ってくるかは現段階では正直わかりません」としながらも、「こういった取り組みは絶対に必要」と断言する。「一般的に、何らかの施策を走らせたら、その結果何台売れた? みたいな話になりがちなのですが、『anime blast』はそうじゃない。あくまでも間接的な影響力を生み出す長期的な取り組みだと思っています」と続け、「だから、短期的な目線で結果を求められると正直なところ非常に厳しくて、会社が納得してくれないと続けられないんですよ。だから、そのあたりを理解して、立ち上げさせてもらえたのが本当にありがたい」と会社への感謝の気持ちを口にする。

「anime blast」の第1弾が『とある科学の超電磁砲』になったのは、プロジェクトの企画が通り、実際に立ち上げるタイミングと一致したからであるが、その一方で、「やはりある程度強いコンテンツでスタートしないと、最初の集客が望めない」という現実的な視点も大きな理由となっている。「その意味では、最高のコンテンツで始動できたと思っています」という北氏。立ち上げから3カ月で、現在は『とある科学の超電磁砲』のみが取り上げられているが、今後は他の作品も随時取り上げられていく予定となっており、「もちろん自分が手掛けている作品だけでなく、藤商事が手掛ける作品は、全て、このプロジェクトで取り扱っていきます」と力強く宣言する。

藤商事ではこれまでからSNSを使ったプロモーション活動は行われてきたが、「そこをうまく活用できれば、もっと様々なアプローチができるはず」ということがわかっていながら活用できなかった理由として「情報共有」の問題について言及する。「弊社のSNSを見ていても、新台が出ます、PVができました、実戦動画です、みたいな感じで、新台の情報解禁から実際の導入までに数回程度しか投稿されません。『新台が出ます!』と投稿した瞬間はすごく盛り上がるのですが、そこから約2カ月間、ほとんど情報が出てこない空白の時間ができてしまう」という現状を明かし、「本来であれば、導入に向けて盛り上げていかないといけないのに、何の手も打てなかったのは、販促の部門に任せきりだったため」とその問題点を指摘する。

「これは販促の部門が悪いのではなく、有効な情報を渡しきれていない開発側の問題でもある」とあらためて現状を分析し、「開発が情報を出さない限り、販促が理解しきれていないことはたくさんあります。だから『anime blast』では、どういうタイミングで、どういう情報を、どういうスパンで出していくかについて、あらかじめしっかりと決めておくことによって、導入に向けてちゃんと盛り上がりが作れるようにしたいと思っています」と計画的な運用を目指す。そして、営業部門はもとより、販促、営業戦略、ライツなどの関連する部門においてできる限り上長の参加を促すことで、「様々なことが軽いフットワークでこなせる」体制を構築。「僕一人の力では何もできないが、各セクションの力を借りることで、さらに大きなプロジェクトに育てていくことができる」との展望を明かした。

北氏は今後の展望として「あるYouTubeチャンネルに実戦動画が上がると、実際に稼働が伸びると言われているくらい、現在パチンコ業界で注目を集めているYouTubeチャンネルがあります。『anime blast』もそのレベルにまで行けたらいいなと思っています」と大きな夢を掲げる。「本当に夢でしかないんですけど、決して不可能ではないと思っています。それが1年後になるか5年後になるかわかりませんが、そこまでは決してやめるわけにはいかないんです」と長期的な展望を示した。

「anime blast」を成功させたいという気持ちには、アニメ業界に対して何か一役買うことができないかという北氏の熱い想いも重なっている。「ただ我々がコンテンツを利用させていただくというところに留まらず、パチンコ起点でのアニメファン増加にも繋げられたら良いなと思っています。我々は企業スローガン的に『HAPPY CYCLE』という言葉を使うのですが、まさに全員がハッピーな循環を作りたい」。アニメ業界からの藤商事に対する期待度、信頼度を上げることによって、さらなる大きな展開、互いにとって幸せな将来に繋がるのではないかと期待を寄せる。

●パチンコ好きが高じて開発者の道に

パチンコの開発に携わってから20年を超えるキャリアを持つ北氏だが、学生時代はバイオ系の研究を行っていたと振り返る。「同級生は基本的に、食品会社とか薬品会社に就職していったのですが、社会人になってまで毎日何かの研究をしていて楽しいのかなって思っちゃったんですよ。だったら自分は好きなものを仕事にしたい」と思い至り、当時ハマっていたパチンコ業界に身を投じることになったという。「最初はホール様しか思いつかなかったのですが、ちょっと調べたらパチンコを開発しているメーカーがあるじゃないかと。当時『アレジン、エキサイト』というアレパチが大好きだったので、迷わず藤商事に行こうと(笑)」。

「僕は本当に好きなものを仕事にしたかった」という北氏は、入社2年目から企画畑を歩み続けているが、自身にとって2機種目となる「CRキョンシー」のヒットで、機種開発に対する手応え、そしてやりがいを感じるようになったと振り返る。「最初の機種は、何をどうすれば良いのかがわからず、本当に大変だったのですが、一度最初から最後までを経験すれば、さまざまな課題が見えてくるじゃないですか見つかった課題をいかに解決するかが本当に重要なんです」と当時の状況を思い返す。

「『キョンシー』もそうですが、藤商事はホラー系が得意で、かつては時代劇、演歌の藤商事みたいに言われていたこともありますが、今後は『anime blast』の藤商事と言われるまで頑張りたい」と意気込みを示す。

「作品が好きだからパチンコを打つというだけでなく、パチンコが面白かったから作品を観る、あるいは読む。そんなサイクルを作ることが目標。自分が作った台を打っていたら作品についてもっと知りたくなってもらえることがベストだと思っています。それこそが、ただ作品のネームバリューを借りただけではなく、ちゃんと魅力を伝えることが出来た証拠ですから」。その想いが「原作回帰」という言葉になって、「anime blast」の企画書に記されているという。

「何とかして業界を復活させることが最大の目標ですが、その過程として大ヒット機種を作ってみたい」と笑顔をみせる北氏。「これはいつも思っていることなのですが、ユーザーも好きだし、ホールさんも好き。そんな機種を作ってみたい。そして、その流れが『anime blast』から生まれれば、本当に最高だと思っています」