• 取材する渡邊洋輔ディレクター(右)

今も世界ではウクライナでの戦争に終わりが見えず、ガザやレバノンなどでも紛争が相次いでいる。そうした中で、この番組を放送する意義は何か。

「戦争は一度始まってしまうと、簡単に止めることはできません。劣勢に立たされても、“少しでも有利な条件を引き出して終戦したい”という思いが、長期化するほど強くなっていきます。日本が経験した戦争が、それを証明しています。戦争の終盤、ソ連の仲介に一縷の望みを託しポツダム宣言を黙殺した結果、原爆投下という最悪なシナリオを迎えました。翻って今のウクライナとロシアの戦争を見ても、お互いが少しでも有利な条件で終えたいという心理が働き、長期化し、エスカレートしていく姿が、当時の日本と重なる部分があると感じています。原爆の投下が再び起きて多くの人が傷つき、戦争を終結させるということになってはいけない。核の使用が二度と起きないように、広島から非戦のメッセージを伝えることが、この番組を放送するにあたっての思いです」

放送2日前には、日本原水爆被害者団体協議会がノーベル平和賞を受賞することが発表された。この吉報を編集中のスタジオで聞いた渡邊Dは、喜びとともに伝え続ける使命感を新たにしたという。

「本当に素晴らしいことだと心から拍手を送るとともに、代表委員を務めていた坪井直さんが生きていたら、とも思わずにいられませんでした。2016年、謝罪を求めずオバマ大統領(当時)と握手を交わした坪井さんは“我々は未来に行かにゃいけん”と語りかけました。人間の尊厳を保ち、アメリカへの憎しみを乗り越え坪井さんが遺した“ヒロシマの心”を改めて見つめなおし、伝えていく必要があると感じました。今回の番組で取材した被爆者の方々も、立場を乗り越え非戦を訴えるメッセージは坪井さんの訴えと重なります。“ヒロシマの心”が多くの人に届けばうれしいです」

  • アメリカの現職大統領として初めて広島を訪問したオバマ大統領(当時)

並々ならぬ思いで臨む吉川晃司「憎しみを超えて…」

ナレーターを務めるのは、広島出身の吉川晃司。『NNNドキュメント』で広島テレビ制作の原爆のドキュメンタリーを担当するのは2017年に始まり、今回で7回目となるが、「吉川さん自身、お父さんが入市被爆をされて被爆二世ということもありますし、来年還暦になるということで歳を重ねることで故郷への思い、そして原爆を投下されたヒロシマのことを伝えたいという気持ちがどんどん強くなっているそうなんです。並々ならぬ思いを持って私たちと同じ方向を見ているということで、今回もお願いしました」と起用の狙いを明かす。

収録を終えた吉川は「今、世界中で戦争とか、きな臭いことが起きている。何があっても、戦争に正義がないし、してはいけないんだっていうことを、このドキュメントを見て、全国のみんなに改めて今考えてもらう必要があると思いました。政治家とかじゃなくて、市民同士で話せば、思いが通じるんじゃないかって…。憎しみを超えて、許しを得る……すごいことだなと思いました」と感想を語っている。

  • 吉川晃司