日本テレビ系ドキュメンタリー番組『NNNドキュメント‘24』(毎週日曜24:55~)で、きょう13日に放送される『キノコ雲の上と下~米兵の心に苦悩を刻んだヒロシマ~』(広島テレビ制作)。1945年8月6日、広島に原爆を投下した米爆撃機「エノラ・ゲイ」の搭乗員と、投下された被爆者のそれぞれの思いに、資料や証言から迫っていく作品だ。

双方の視点から原爆投下を見つめることで、平和記念公園の原爆慰霊碑に刻まれた「過ちを繰り返さない」というメッセージの意味を広島から発信したいと制作に臨んだのは、広島テレビの渡邊洋輔ディレクター。今回の取材を通して受け止めたこと、世界で戦争が続く中でこの番組を放送する意義、そして被爆体験の証言者が減少する中での使命感などを聞いた――。

  • 「エノラ・ゲイ」搭乗員のジェイコブ・ビーザー(左)と被爆者の近藤紘子さん

    「エノラ・ゲイ」搭乗員のジェイコブ・ビーザーさん(左)と被爆者の近藤紘子さん

原爆投下の経緯を伝えきれていないのでは

今回の取材のきっかけは、エノラ・ゲイの搭乗員たちが機密事項を吐かないため、自殺用の拳銃と青酸カリを持ち込んで任務に当たっていた事実や、原爆投下後に「鉛(なまり)の味がした」という彼らの証言があるのを知ったことだった。

「“広島の被爆者は悲惨な目に遭った一方、アメリカの戦闘機は大量殺戮をした”という“被害と加害”の構図でこれまでは捉えていました。しかし、搭乗員の置かれた立場や思いを知るにつれ、原爆を投下した人間もまた、戦争により深く傷ついていたのだと感じました。そこで、落としたアメリカ兵の視点に立って、原爆投下を見つめたい。投下する側とされる側、それぞれが戦後に抱えた苦悩と葛藤に迫り、伝えることで、戦争が生み出す残酷さと悲惨さを伝えられたら」(渡邊D、以下同)と動き出した。

この視点が生まれたのは、自身が和歌山出身で、広島という地域を客観的に捉えられることも背景にあるという。

「広島の原爆報道は、8月6日のことやその後のことを伝えていますが、なぜ原爆が投下されたのかという経緯や原因を伝えきれていないのでは、とずっと疑問に感じていたんです。原爆によってこんなに悲惨なことがあったと伝えるのは、僕らの報道の出発点であり一番のベースにあってしかるべきなのですが、それだけでは足りないのではないかと。そこで、今回はアメリカ軍の搭乗員の声や手記を軸にして、彼らがなぜ日本に対して正義感を燃やして戦おうと思ったのか、というところまで伝えるため、原爆投下に到った歴史的な経緯の部分も番組の中で紹介しています」

  • 搭乗員の手記

「いったい、何人の日本人を殺したのだろう?」

搭乗員の遺族へのインタビューなど、アメリカでの現地取材は日本テレビ系列が協力して、NNNワシントン支局の記者が担当。その際に残された資料があるかを聞いてみると、地元の博物館に寄贈されていることが判明し、そこで今回放送する証言音声の一つを発掘した。

提供してくれたのは、「Jewish Museum of Maryland(メリーランド州ユダヤ人博物館)」。ここに、広島に原爆を投下した搭乗員の音声が残されているなど知る由もなかったが、取材を重ねてたどり着くことができたのだ。

発掘した音声や手記から搭乗員の印象に残る言葉は、副操縦士のロバート・ルイスさんがつづった「いったい、何人の日本人を殺したのだろう? 私たちは何てことをしたのだろうか」「私が100歳まで生きたとしても、この数分間が頭から消えることはないだろう」という苦悩。

一方、息子に対して「後悔していない、それはやるべき任務だった」と話していたレーダー担当のジェイコブ・ビーザーさんも、戦後に被爆者の女性と対面した後、「平和を願う世界の人々と心を一つにしよう。これが、広島と長崎で学んだことだ」と記しており、渡邊Dは「絶対に消えない傷や葛藤が彼の中にも深く残っていたことを知って、すごく心に響きました」と受け止めた。