竜星涼と八木莉可子が兄妹役でW主演し、『大病院占拠』(23年)、『新空港占拠』(24年)の制作チームが結集した新ドラマ『潜入兄妹 特殊詐欺特命捜査官』(日本テレビ系、毎週土曜22:00~)が、きょう5日にスタートする。
物語は、ヒリヒリする緊迫感に息をのむ限界スレスレの潜入捜査で、巧妙化・複雑化する特殊詐欺の闇を暴こうとする、父を奪われた兄妹による巨悪犯罪組織への命を懸けた復讐劇。10月クールの中でもポスタービジュアルが群を抜いて異彩を放っているが、プロデューサーの尾上貴洋氏は「エンタメの王道ドラマです」と胸を張る。
真田広之出演のウェブドラマ『SHOGUN 将軍』(Disney+)がエミー賞過去最多となる合計18冠を獲得し、日本製ドラマに追い風が吹く今、日本ドラマの立ち位置や未来、また本作をどのように描こうとしているか。尾上Pに語ってもらった。
■若者が手軽に手を染める「特殊詐欺」への危機感
主人公は元警察官の渡良瀬貴一(竜星)と、その妹でホワイトハッカーである渡良瀬優貴(八木)。2人が演じる兄妹の父親・貴司は警察官として勤務中に何者かに殺害され、やがて、犯人が日本最大級の特殊詐欺組織“幻獣”の幹部であることを知り、2人は父の仇を討つ決意をする。兄・貴一は正義感と行動力にあふれ、妹・優貴は国立大学に通うエンジニア。2人はお互いの特技を生かしながら組織に潜入し、巨悪と対峙(たいじ)していく。
この作品が生まれたきっかけを、尾上Pは「“占拠”というジャンルも好きだったんですけど、それと同じくらい“潜入”というジャンルも、いわゆる王道の枠組みとして大好きでした。今、日本テレビとして新たな潜入もののドラマを作るとなった時、これまでのいわゆる男くさく泥くさい世界に爽やかな兄妹が入っていくことになれば、新たなカラーとなって面白いのではないかと思い企画しました」と話す。
では、兄妹が潜入する先として何を舞台にすれば面白いか。
「昨今のニュースでは新たなフェイズの特殊詐欺や振込詐欺が増加していると報道されています。さらに詐欺集団の中でも“下っ端は上層部の名前や顔を知らない”など現代特有の組織体系も分かってきました。そこで特殊詐欺の組織に兄妹が潜入するという設定が、今の社会にマッチしているのではないか、皆が見たくなるような世界ではないか、と考えて特殊詐欺をテーマに入れました」(尾上P、以下同)
確かに、ネットやスマホが普及した今、報道を見ていると、こういった詐欺という犯罪の片棒をかつぐことが、まるで手軽なアルバイト感覚になってしまったイメージもある。そもそも犯罪に手を染めてしまえば、時には一生が終わってしまうかもしれない。それだけ重大なことだが、「まだ分別がつかない若年層が関わりやすくなっているという危機感を持った」という。
そこで、特殊詐欺集団はどのような組織を作り、どういう人数構成なのか、警察監修や専門家を取材し、「スマホ一つあれば手軽に成立してしまう世界。それだけではドラマにはならないので、登場人物たちの動きを作り、現金の受け渡しにしてもどのように見せるか……リアリティと空想・エンタメの世界をどう融合するかを脚本家・演出家とすり合わせていきました」と、物語づくりの工夫を解説する。
男くさい世界とスタイリッシュな兄妹の化学反応
こうした犯罪系の「潜入もの」は本来、男性目線で楽しめる世界観だ。そこで尾上Pは、この男くさい世界に、スタイリッシュな兄妹が入ったらどのような化学反応を得られるかと考え、竜星涼と八木莉可子を投入した。
「犯罪組織に潜入するというある意味、社会の闇やドロドロした部分の多い作品になるので、主人公たちには清潔感とさわやかさ、スタイリッシュな俳優さんがいいなと思い、オファーさせていただきました。おふたりともその演技が評価されていて、エンタテインメント全開の世界に説得力を持たせられる力をお持ちですので、作品を成立させるためのピッタリな配役だと自負しております」
激しいアクションに、見つかったら即ジ・エンドとなるため、叫び、泣き、震えるなど感情むき出しの演技が見られる。こうした世界観は先述の『占拠』シリーズから感じられ、外連味(けれんみ)やエンタメに振り切った作り方をしていると思ったことがある。そう尋ねると、尾上Pは「王道エンタメを一切、ブレることなく目指そうというのはありますね」と明かした。
「ドラマにはいろいろなジャンルがあり、例えば人間ドラマで感情がどう揺れ動くかで物語が進行していく作品が多数ありますが、我々の場合はまず面白い出来事をいっぱい起こそうと。最初から思いついたアイデアも出し惜しみせずどんどん入れていき、その後も足していけばいいという発想で作っています。ゆえに出来事ベースで物語を作り、その状況に追い込まれたときに人はどう動くか、どう考えるか、感情をつなげていく、肉付けしていくという作業をしています」