「1億円持ってたら、こんなことがしたい、あんなことがしたい」と思いをめぐらすのは楽しいものです。では実際に1億円を持っている人は日本にどのくらいいるのでしょうか。また、1億円以上の資産を持っている人を「富裕層」と定義すると、10年前から、富裕層が増え続けているというデータもあります。経済成長が停滞しているのに、なぜ増えているのか、その理由についても考察します。

  • 資産1億円以上持っている人は日本にどのくらいいる?

    資産1億円以上持っている人は日本にどのくらいいる?

資産1億円以上の富裕層はどのくらいいる?

富裕層の定義としてさまざまな考え方がありますが、野村総合研究所が行っている調査では、純金融資産の保有額を基に5つの階層に分けて、「1億円以上~5億円未満」を富裕層、「5億円以上」と超富裕層と定義付けしています。

<純金融資産保有額をもとにした5つの階層>

●超富裕層・・・5億円以上
●富裕層・・・1億円以上、5億円未満
●準富裕層・・・5,000万円以上、1億円未満
●アッパーマス層・・・3,000万円以上、5,000万円未満
●マス層・・・3,000万円未満

純金融資産とは、預貯金、株式、債券、投資信託、一時払い生命保険や年金保険など、世帯として保有する金融資産の合計額から不動産購入に伴う借入(住宅ローン)などの負債を差し引いた金額です。土地や建物などの不動産は純金融資産には含みません。

野村総合研究所の2021年の調査では、純金融資産を1億円以上~5憶円未満保有する「富裕層」は日本に139.5万世帯、5億円以上保有する「超富裕層」は9.0万世帯いるとしています。割合にすると、「富裕層」は2.58%、「超富裕層」は0.17%となり、1億円以上保有している世帯は全体の2.75%となります。

  • 純金融資産保有額をもとにした5つの階層 出所: 野村総合研究所「日本の富裕層は149万世帯、その純金融資産総額は364兆円と推計」をもとに筆者作成

●金融資産を1億円以上持っている世帯は148.5万世帯、割合は2.75%

日本の富裕層は増え続けている

前出の調査で興味深いのは、「富裕層」と「超富裕層」が2013年あたりから右肩上がりで増えていることです。

超富裕層: 2013年5.4万世帯→2021年9.0万世帯
富裕層: 2013年95.3万世帯→2021年139.5万世帯

  • 純金融資産保有額の階層別にみた保有資産規模と世帯数の推移 出所: 野村総合研究所「日本の富裕層は149万世帯、その純金融資産総額は364兆円と推計」

他の階層は全体では増えていても、年によっては減っていることもあり、増え方も微妙であるのに対し、1億円以上の富裕層の増え方は顕著です。

2013年といえば、第2次安倍政権において、アベノミクスが始まった翌年です。どうやら、このあたりが関係しているようですね。次項で詳しくみていきましょう。

富裕層が増えている理由

アベノミクスとは、第2次安倍内閣において掲げた一連の経済政策のことです。これによって円高から円安に転換し、結果的に日経平均株価は3倍にもなりました。

投資は余剰資金で行うものです。お金持ちほど投資に積極的であるのは言うまでもありません。そして元手が多ければ多いほど、投資の成果は大きくなります。仮に2012年に日経平均株価に連動する投資信託を1.000万円分買って保有していたら、2021年には3,000万円に値上がりしていることになります。多くのお金を投資できた人ほど大きく儲けられるので、お金持ちはよりお金持ちになる理屈です。

もう一つ例をあげると、現金2,000万円と株3,000万円持っている世帯は、金融資産5,000万円なので、準富裕層に該当しますが、株価が3倍になって9,000万円になれば、何もしていなくても、資産が1億円を超えるので、富裕層の仲間入りを果たすことになります。このように、準富裕層の一部が富裕層に、富裕層の一部が超富裕層に繰り上がったことも、この10年の富裕層の増加の要因と考えられます。

経済は低迷しているのに株価が上がるのはなぜ?

アベノミクスから始まった株価上昇は、その後も上がり続け、2024年3月には4万円台に到達しました。現在はリバウンドなどを繰り返して3万円台で推移していますが、実体経済とは乖離した株高と感じている人は多いでしょう。

経済は低迷しているのに株価が上がるのはなぜなのか、その理由について、物価高や金融緩和、円安などが要因となっていると指摘する専門家はいますが、それでも説明しきれない部分が多く、そもそもが、株価と実体経済は連動しないとする意見が多く聞かれます。株価が上がるのは「買いたい人が売りたい人よりも多い」というそれだけの理由であって、実体経済とは関係なく、もっと上がるだろうという期待のみで買っているというのです。これは現在の金融資本主義をよく表しています。

株高の恩恵を受けられるのは、たくさんのお金を投資できた人たちであって、それ以外の多くの人にとっては、経済の低迷の方を強く実感します。この状態が長く続けば、格差はますます広がり、一部の富裕層以外はどんどん貧しくなっていきます。

金融所得課税の引き上げは実現するか

現在、株や投資信託などの金融商品から得た利益にかかる税金は一律20%です。これは給与などの累進課税の所得税(住民税と合わせて最高税率55%)とは違って、どれだけ利益を得ても20%なので、高所得者ほど得をします。

「1億円の壁」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは、累進課税によって所得が上がるほど増えるはずの税金が、所得が1億円を超えたあたりから減少することから「1億円の壁」と言われています。これは、累進課税の所得税と、税率が一律の金融所得の所得税の2つの影響がでてくるのが1億円を超えたあたりであることによります。1億円を超える所得がある富裕層の多くが資産運用によって所得を増やしていることの裏付けにもなっています。

  • 申告納税者の所得税負担率 出所: 財務省「参考資料「個人所得課税」令和4年10月18日」

このような「富める者はますます富み」といった状況を是正するためには、金融所得課税の税率を引き上げる、あるいは金融所得を総合課税に組み入れて、累進課税の対象とするなど、金融所得課税の見直しを推し進める必要があるのではないでしょうか。今後の税制改革に注目していきましょう。