本作では、轟が寅子に、同性の遠藤時雄(和田正人)を恋人として紹介したり、性転換手術を受けたバーのママ・山田(中村中)が登場したり、寅子たちが同性パートナーを持つ人たちと語り合うシーンがあったり、性的マイノリティ(LGBT)についても描かれた。

吉田氏は、性的マイノリティに関する人権問題は昔からあったことで、物語の中で描くのは自然な流れだったという。

「憲法14条に『すべて国民は平等である』と書かれている国ですが、まだその数が少ないとか、なかなか周知されてないことによって、平等ではない扱いを受けている人がたくさんいるというのが事実。それは令和の世に始まったことではなく、寅子たちが生きている時代、もっと言えば寅子が生まれる前から存在していたことが大半だったんです。それをちゃんと見せることに意味があり、当時からいた人をきちんと書きたいという気持ちが強かったのでこういう形になりました。寅子が出会う人を考えれば普通に通る道だと思っていたので、挑戦とか尖ったとか、そういうつもりでは書いていません」

そして、性的マイノリティの人たちが当時からいたということを知ってもらうことに意味があると考えている。

「当時からセクシュアルマイノリティの方がいて、苦しんだり、世の流れに身を任せた人もいっぱいいたというのを知ってもらうことが大事だと思っています。ここ数年で出た問題だと思っている人がけっこう多く、今は解決できないから未来に投げちゃおうというマインドになってしまうと思いますが、実は100年近く前からあった問題だとわかってもらえるだけでもいいかなと。そういう人たちが確実にいて、今も悩んでいる人が確実にいるので、問題定義というか、何かにつながればいいなと思ったので、やる意味はあったと思います」

吉田氏はこれまでも、テレビ東京のドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(『チェリまほ』)やNHKのドラマ『恋せぬふたり』などで性的マイノリティについて取り上げているが、「性的マイノリティの人たちが矢面に立つのではなく、エンターテインメントでできることがあるのではないかなと。作品をきっかけに知ることが大事だと思っているので、ないものにせず、なるべく伝えていけたらと思っています」とエンタメを通して伝えていくことに意義を感じているという。

性的マイノリティの話はセンシティブな問題だが、吉田氏はこれからもエンタメを通して伝えていきたいと語る。

「私も描く上で間違うこともあって当事者の方に申し訳ないという気持ちになりますが、怒られるからエンタメで扱わないというマインドの人が多く、そうしていると理解や社会問題の改善の歩みが遅くなってしまう。だから私が元気なうちは、エンタメで描くことに挑戦していきたいというか、それを当たり前にしていきたいと思っています。そういう人たちがいるということをわかるだけでも違うので。私が盛り込みすぎたわけではなく、今までが削除されて、省かれすぎてきただけだと思っています」

そして、視聴者に向けて「朝ドラにセクシュアルマイノリティの方が出たことで何か思われる方もいるのかなと思いますが、浮かんだ気持ちに正直でいいと思っていいます。事実、そういう方々は当たり前に当時いて、現代も変わらないので、この問題が今も、70年以上経っても基本的に変わっていないということに、どうしてなのかなと思いを馳せていただけたらうれしいです」とメッセージを送った。

■吉田恵里香
1987年11月21日生まれ、神奈川県出身。脚本家としての代表作はドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』『花のち晴れ~花男 Next Season~』『君の花になる』、映画『ヒロイン失格』『センセイ君主』『ホリック xxxHOLiC』など。小説『脳漿炸裂ガール』シリーズは累計発行部数60万部を突破するなど、映画、ドラマ、アニメ、舞台、小説等、ジャンルを問わず多岐にわたる執筆活動を展開している。ドラマ『恋せぬふたり』で「第40回向田邦子賞」を受賞した。

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