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大学生の時にドキュメンタリーに夢中になり、昨年4月にテレビマンユニオンへ入社した鳥居氏。それから1カ月もたたない研修期間中に、仕事からの帰り道の渋谷駅で、褒めますおじさんが立っているのを見かけた。

100円を払って実際に褒められてみると、「思った以上にうれしくなったんです(笑)」と想定外の感情が。そこから、「“お仕事は何をされているんですか?”と聞いたら、これしかやっていないということで、人を褒めて生きている人がいるんだと興味を持って取材をお願いしました」と密着することになった。

研修中の身だったが、『ザ・ノンフィクション』で『都会を捨てた若者たち』『彼女が旅に出る理由』『東京 家賃2万5000円~僕が四畳半で見る夢~』などを制作してきた先輩・蜂谷時紀氏から、「『ザ・ノンフィクション』の企画はいつでも出していいよ」と言われていたこともあり早速、企画書を提出。これが見事通り、研修後は『世界ふしぎ発見!』(TBS)のADに配属されていたが、休みの日を中心に昨年6月から取材をスタートした。

褒めますおじさんの番組を作っているのに怒られる日々

初めての番組制作に、「最初は、“自分はものすごく面白いものを作れるんじゃないか”なんてどこかで思っていたところがあったのですが、いろんな人の力を借りて、甘えて頼らないと作れないんだということをすごく感じました」と、一筋縄ではいかない難しさに直面した鳥居氏。

「取材中におじさんに褒められた人全員に“なぜ褒められたかったのですか?”と聞いたのですが、僕はベテランのディレクターさんより圧倒的に社会経験がなく、出会った人も少ないので、“そんな意外な理由で!?”とか“こんな仕事をしてる人が褒められたいんだ!”という衝撃がどうしても大きくなってしまい、番組として成立するのかと不安になったこともあります。話を聞く相手がだいたい年上になるので、変に気を使ったりして、コミュニケーションを取るのも難しかったです」と苦労を振り返る。

自分でカメラを回すのも初めての経験で、「変なズームをしたり、画が動きすぎたりして、いつも怒られていました」といい、「褒めますおじさんの番組を作ってるのに、褒められてないな…と思うこともありました(笑)」とのことだ。

それでも、今回プロデューサーとして支えてくれた蜂谷氏をはじめ、チームの支えで放送までこぎつけることができた。

「蜂谷さんが担当した『東京 家賃2万5000円』の取材を一部任せてもらって勉強になりましたし、今回もすごくケアしてくださいました。編集マンの宮島(亜紀)さんにも、撮影した(映像)素材を見てたくさんアドバイスを言っていただいたんです。今の時代、新人に何か言うだけでパワハラになるかもしれないと、何も言われないことが多いので、すごくありがたいです」

上っ面で「よくできたね」と褒められても…

褒めますおじさんに褒められにくるのは、若い人が多いという。それは、TikTokで回ってきた褒めますおじさんの動画を見たのをきっかけに会いに来るケースもあるが、パワハラと捉えられるのを恐れる上司とのコミュニケーションが希薄になったことで、褒められる機会が少なくなったという背景もあるのかもしれない。

「怒られて、怒られて、怒られて、最後に褒められるだけで、すごくうれしいということがあると思うのですが、今はなかなかそういうのもないと思います。それに、上っ面で“よくできたね”と言われても、お世辞と受け止める人も結構いたりするんです。だからこそ、おじさんが全力で褒めてくれるのがうれしいのではないか思います」

今後もドキュメンタリーを中心に番組制作に携わっていくという鳥居氏。「また『ザ・ノンフィクション』をやりたいので、街を歩いて、面白い人を探したいと思います」と意欲を示した。

  • テレビマンユニオン入社2年目の鳥居稔太氏