今回は、有名な恋の短歌を紹介します。

叶わぬ片思いに切なくなったり、失恋して辛くなったり……。恋愛で感情を揺さぶられるのは今も昔も変わらない一方で、昔の人はそんな自分の感情を和歌で残すことが多かったようです。昔の人が残した恋の短歌・和歌は、今のあなたの心を癒やしてくれるかもしれません。

有名な恋の短歌【片思い・切ない恋編】

  • 有名な恋の短歌【片思い・切ない恋編】

    片思いや切ない恋心を詠んだ短歌を紹介します

恋のもどかしさや苦しみ、切なさを繊細に描き出した短歌は、多くの歌人によって詠まれてきました。ここでは、片思いをテーマにした有名な短歌とその現代語訳を紹介します。

窓ごしの 真緑を背に うつむける 人ひとたびも わがものならず(花山多佳子)

現代語訳:窓越しの緑を背にしてうつむいている人は、一度も私のものにならない。

忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで(平兼盛)

現代語訳:心に秘めていた恋心なのに顔色に表れていたんだなあ、「思いふけっているのですか?」と人に聞かれるほどに。

思いつつ 寝ればや人の 見えつらむ 夢と知りせば さめざらましを(小野小町)

現代語訳:(恋しい人を)思いながら眠りについたから、夢に現れたのだろうか。もし夢だとわかっていたら目を覚まさなかったのに。

かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな もゆる思ひを(藤原実方)

現代語訳:こんなにもあなたを思っていると、言いたいのですが言えません。伊吹山のさしも草ではないけれど、この燃える思いをご存じないでしょう。

思へども 験(しるし)もなしと 知るものを なにかここだく 吾が恋ひ渡る(大伴坂上郎女)

現代語訳:恋しく思ってもあの人は振り向いてくれないと知りながら、なぜ私はこんなにも焦がれ続けてしまうのでしょう。

恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか(壬生忠見)

現代語訳:私が恋しているという噂がもう立ってしまった。誰にも知られないように、密かに思いはじめたばかりなのに。

逢ふことの 絶えてしなくは なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし(中納言朝忠)

現代語訳:もしまったく逢えないのであれば、あの人のつれなさも、我が身の辛い運命も恨むことはしないのに。

有名な恋の短歌【失恋編】

  • 有名な恋の短歌【失恋編】

    失恋の悲痛な想いを詠んだ短歌を紹介します

失恋をテーマにした短歌は、時を超えて多くの人々の心に響きます。ここでは、失恋の痛みや切なさを描写した短歌と、その現代語訳を紹介します。

忘らるる 身をば思はず ちかひてし 人の命の 惜しくもあるかな(右近)

現代語訳:あなたに忘れられる私がどうなろうともかまいません。それよりも神に誓った私との愛を破ったことで、あなたの命が失われることが悔しいのです。

契りきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 波越さじとは(清原元輔)

現代語訳:約束したじゃありませんか。お互いに泣いて涙に濡れた着物の袖を絞りながら。末の松山を波が越すことなんてあり得ないように、決して心変わりはしないと。

風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ 砕けてものを 思ふころかな(源重之)

現代語訳:とても激しい風で岩に打ち当たる波が、(岩は動じないのに)波ばかり砕け散るように、(あなたは平気なのに)私だけが心も砕け散るように思い悩んでいるこの頃です。

それとなく 紅き花みな 友にゆづり そむきて泣きて 忘れ草つむ(山川登美子)

現代語訳:気づかれないように幼く華やかな恋を友だちに譲って、私は背を向けて泣きながら忘れな草を摘んでいます。

今はただ 思ひ絶えなむ とばかりを 人づてならで 言ふよしもがな(左京大夫道雅)

現代語訳:今はただ「あなたへの想いを諦めてしまいます」ということだけを、人づてや手紙ではなく、(あなたに逢って)言う方法があってほしいものだ。

有名な恋の短歌【両想い編】

  • 有名な恋の短歌【両想い編】

    両想いの喜びや幸せに溢れた短歌を紹介します

両思いの喜びや幸せを表現した短歌は、恋人たちの心情を温かく描き出しています。ここでは、恋人同士の絆や愛情の深さを感じさせる有名な短歌とその現代語訳を紹介します。

忘れじの 行く末までは 難ければ 今日かぎりの 命ともがな(儀同三司母)

現代語訳:「いつまでも忘れない」というあなたの言葉が、これから先もずっと変わらないというのは難しいでしょう。だから(幸せな)今日を最後に命が尽きればと思うのです。

われはもや 安見児(やすみこ)得たり 皆人(みなひと)の 得がてにすといふ 安見児得たり(藤原鎌足)

現代語訳:私は、ああ、安見児を妻にした。人が皆手に入れられないと言う、あの安見児を妻にしたんだ。

我が背子と 二人見ませば いくばくか この降る雪の 嬉しからまし(光明皇后)

現代語訳:あなたと二人で見るなら、この降る雪がどれほど嬉しく思われるのでしょうか。

君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな(藤原義孝)

現代語訳:あなたのためなら命さえも惜しくはないと思っていましたが、(あなたに会えた今は)少しでも長く生きたいと思うようになりました。

身はすでに 私ならずと おもひつつ 涙おちたり まさに愛(かな)しく(中村憲吉)

現代語訳:私の体はすでに私だけのものではない。(妻のことを思うと)愛しくて思わず涙が落ちた。

思へども なほぞあやしき 逢ふことの なかりし昔 いかでへつらむ(村上天皇)

現代語訳:あなたを恋しく思っていると、あなたに会う前はどんな気持ちで過ごしていたのか不思議に思います。

古に ありけむ人も あがごとか 妹に恋ひつつ 寝ねかてずけむ(柿本人麻呂)

現代語訳:昔の人々も僕のように、愛しい人を思って寝付けない夜があったのだろうか。

恋する気持ちは今も昔も変わらない! 恋の短歌は共感できるものが多いかも

  • 恋の短歌は共感できるものが多い

    恋の短歌は共感できるものが多い

好きな人と両想いになり幸せが満ち溢れた様子、相手を健気に思い続ける切ない恋心、失恋してひどく痛む心中など、遥か昔を生きた作者の思いを短歌で手に取るように感じられるのは、恋愛が年齢、性別、社会的地位に関わらず、ほとんどの人が経験する普遍的なテーマだから。

恋の悩みがあるときは、昔の人々の恋心を綴った短歌を見ることで、あなたの心に安らぎを与えてくれるかもしれません。