2018年平昌パラリンピック、2020年東京パラリンピックにてレポーターを務め、注目を集めたスキンケア研究家の三上大進が、初自叙伝『ひだりポケットの三日月』(講談社 1,540円)を上梓した。生まれもった障がい、NHKパラリンピックレポーターとしての奮闘、自己肯定感をくれた美容との出会い、セクシャリティのこと。自身の経験を通じて伝えたい、「ありのまま、そのままのアナタが美しいのだ」というメッセージが込められている。

マイナビニュースでは今回、同作のなかでも触れられていた三上のキャリアに注目。外資系の化粧品会社を経て、自身のスキンケアブランドを作るまでの経緯に迫った。

  • 三上大進

    三上大進

新卒で外資系の化粧品会社に就職

――初自叙伝を発売することになった経緯を教えていただけますか。

私はこれまで、テレビ、YouTube、Instagramなど、映像で何かを伝える経験をしてきて、ありがたいことに、自分を応援してくださる方々と出会うことができました。なかには、「大ちゃんの話してくれたことに救われた」と言ってくださる方もいらして。そういう言葉に出会い、自分が何かを発信することで、誰かの人生のほんの少しの一助となれたりしたこともあるのかなと思ったとき、ふと、文字で伝えた経験がなかったなと。

話し言葉は、声色もあるし、表情も伴います。けれど、文字だと言葉のまま相手に伝わりますよね。文字という形に残す、一生変えることができない言葉だからこそ、誰かの心に一生残るものが作れるかもしれないという思いから、執筆をスタートさせました。

――三上さんがどんな人なのかを知ることができる、大変読みごたえがある一冊でした。途中、ありのままの気持ちを吐露したページは胸が苦しくなったのですが、最後はクスッと笑えるユニークな筆致で、三上さんの優しさを感じました。

うれしい! そう言っていただけて、良かったです。

――また、本作を拝読して、三上さんのキャリアの作り方がすごいなと。大学卒業後、新卒で外資系の化粧品会社に就職されたのはなぜだったんですか?

中学生の時に美容と出会って、美容が持っている力にすごく魅せられた経験が根底にあって。大学に進学して、就職先を選ぶとなった時、自信が持てなかった自分、傷だらけで見たくもなかった左手のことを受け入れられるようになったきっかけの一つをくれた化粧水のボトルのことを思い出したんです。

言ってしまえば一つの化粧水。だけど、自分自身のあり方を大きく左右したものでした。そんな経験をした自分なら、物語を製品に詰めて、当時の自分みたいな方に届けることができるんじゃないかなというふうに思い、美容の世界を志して、外資系の化粧品会社に就職しました。

  • 三上大進
  • 三上大進

――大学時代には留学も経験されていますよね。これも就職を考えてのことだったんですか?

留学した時はまだ、具体的に将来のことを考えていたわけではありませんでした。ただ、日本で生活していると、お友だちもみんな日本人。それもすごく楽しいんだけど、多様性の中に自分を置いてみて、今まで得たことがなかった価値観に出会いたいというふうに思って、フィンランドに留学しました。

実際、フィンランドのデパートに行くと、化粧品売り場に男性の美容部員さんが普通にいたんです。当時の日本だと、男性がうろつくことすら禁忌みたいな雰囲気があったから、私からすると敷居が高すぎたのですが、フィンランドのデパートは男性の美容部員さんがいて、男性のお客さんも普通に好きなものを買っていて。自分が美容を遠ざけちゃっていたのかもというふうに思いました。フィンランドへの留学は将来的に美容の仕事をすることを見据えてのことではなかったのですが、気づきになったかもしれない経験ですね。

人生で一番大きな決断を下す

――本書では、会社員時代はとにかく激務だったと書かれていました。

プラダを着た悪魔になれると思ったら、プラダどころか、泥だらけの会社員で(笑)。憧れの会社でしたし、花形と言われるマーケティングの担当だったので、鼻が高い時期もあったんですけど、すぐに幻想は破れて。仕事が一生終わらないんです。夜の9時に会社の電気が消えるんですけど、仕事が全く終わってないから、自分で卓上ライトを買ってきて、仕事をするような毎日でした。

――時代を感じますね……。そうした多忙な日々を乗り越え、現在に至るわけですが、当時のモチベーションはどういったところに?

ブランドというのは、昨日今日でできるものではなくて、歴史があって、その歴史が受け継がれて、それを受け取ってくださる方がいて初めて成り立つもの。ブランドとお客様を繋いでいるのは信頼なんですよね。このブランドの製品だから、このブランドが好きだから、という理由で、お客様は対価を払ってくださる。このブランドが受け継いできた信頼を自分は担っているんだというふうに思えた時に、すごく頑張ることができて。そこでますます美容へのリスペクトと、美容の力を信じてくれるお客様への感謝が自分の中で高まりました。その経験も、スキンケアブランドをプロデュースしている今の自分につながっているんじゃないかなと思います。