• 唯織さんを笑顔で見守る橋本氏

ローカル放送にとどまらず、全国で長期間上映できる映画制作にも挑んでおり、映画『イーちゃんの白い杖 特別編』は、今後も全国各地の映画館上映や自主上映会が予定され、舞台挨拶も行われる。コロナをきっかけに制作したDVDは、静岡市の小中学校124校が教材として導入。さらに、Amazonプライム・ビデオやFODなど、12社で配信も展開している。

次の目標は海外発信で、英語字幕版を制作。「ニューヨークフェスティバル」や「USインターナショナルアワード」の受賞など成果も出てきており、橋本氏が「これからもコツコツ世界に広げていきたいと思いますので、イーちゃんもよろしくお願いします」と呼びかけると、唯織さんは「こちらこそよろしくお願いしまーす」と笑顔で返した。

そして、この映画で伝えたいことを聞かれた唯織さんは「障がいがあっても息吹を守れる、家族を守れるんだということを分かってもらうために私は生まれたんじゃないか。そして、みんなを笑顔にするために生まれてきたんじゃないかと思います。息吹も家族を一つにするために、命の大切さを伝えるために生まれてきました。障がいがあろうがなかろうが、誰にも生まれてきた意味があると、心からそう思います」と熱弁。

さらに、「障害の有無にかかわらず、多くの人が“これはできて当たり前、自分で何でもできるようになりなさい”と言われることが多いような気がします。でも、“困った時はお互い様”の世の中にしたいと私自身は学びました。誰かを助けたり、助けてもらったりすることは、決して恥ずかしいことではないです。むしろそれが本当の意味での自立だと思います。助けていただいたら、心からお礼を伝えることが大切です。そうすることで、みんながもっと優しくなれると思います。誰もが笑顔でいられる世の中でありたい。みんなを笑顔にするために、私にできることは挑戦していきたいと思います」と力強く語った。

全盲の夫婦でも子育てをしている人はいる

東京盲学校の先輩で、共通の友人を通して出会った和典さんと2019年に結婚した唯織さん。今後は子どもも欲しいと言い、「私は、母のお腹でたまたま病気して生まれてきたんだと思っています。今は私を生んでくれて感謝しています。自分の子どもが女の子だったら、一緒に買い物をしたいです。視覚障がいだったら、同じ思いをしているので、気持ちを分かってあげられるかなと思います。全盲の夫婦でも子育てしている方はいらっしゃるので、アドバイスを受けながら頑張っていきたい思います」と希望を語る。

橋本氏が「私は子どもの頃のイーちゃんを見ながら、成人式の姿が見たいなと思ったり、花嫁姿が見たいなと思ってきました。これからお母さんになるところもぜひ見てみたいと思うので、今後ともよろしく」と呼びかけると、唯織さんは「姉のように末永くお付き合い、よろしくお願いします」と笑顔で返した。

点字メモで原稿を読み取りながら、終始聞き取りやすいクリアな発声で講演を行った唯織さん。「私自身は話をするときに、まず声が聞き取りやすいかどうか、そして明るく話をしようと心がけています。あれこれ考えてしまうと、うまく話せなくなってしまったり、噛んでしまうことも多いので、思いつきで話すことが多いです。それでも、一言一言きちんと伝えられるように心がけているつもりで頑張っています」と意識を述べ、その語り口調を称賛する声が続くと、「褒めていただけると自分に自信が持てた気がして、本当にうれしいです」と声を弾ませていた。

  • 点字メモを使ってスピーチする唯織さん