滉平さんが猫を捜す姿を報道したのは、欧米メディアが先行した。動物も家族の一員であるという意識が日本より高く、震災や戦争が起こると、自分の犬猫を捜す人たちのことが大きく報じられるという。

海外の動物愛護団体をいくつも取材し、ロシアによる侵攻が始まってからウクライナを3回訪れている山田氏は「戦争の中にあっても現地の人たちは動物保護活動を続けていて、犬や猫や馬が残されているという情報があれば、ウクライナ軍が協力して助けるんです。動物は人間の心を支える存在であるというのは、ヨーロッパでは当たり前に言われていることなので、滉平さんを取材するのは当然のことなんです」と明かす。

ウクライナでは、動物が人の心を救う様々な場面を見たという。

「戦場から列車で逃げる時に、当然みんな犬猫を一緒に乗せるのですが、その周りに子どもたちが集まってきて、犬や猫と遊びます。犬や猫は列車の中でも元気に跳ね回る。そういう“生きる力”を見ると、人間は生きているだけで幸せなんだという希望を獲得することができる。また、ウクライナの傷ついた兵士たちのリハビリテーションの施設にも犬がいて、強烈なPTSD(心的外傷後ストレス障害)を回復させる効果があるというんです。もちろん、犬猫が嫌いな方もいらっしゃるので、どこでも一緒というわけにはいかないと思いますが、震災で大変な目に遭ったときこそ、身近な動物を救うことで、自分の心が救われる人はとても多いと思います」

  • ウクライナを取材した山田あかね氏 (C)small hope bay production

今回の能登でペット同伴OKの避難所を取材すると、「ものすごく和気あいあいとしていて、犬猫たちがみんな仲良くなって、お互いに遊ぶんですよ。他人の家の猫と一緒に遊んでる子どもがいると、そこが避難所の中の癒やしエリアになるんです。家が全焼で何もかもなくなって命からがら犬と逃げてきたという方も、他の犬猫のいる人たちと家族のように仲良くなって、どこか出かけるときも面倒を見てくれるので、大変救われたと言っていました」とのことだ。

石田ゆり子とのプロジェクト活動も展開

石田ゆり子と立ち上げた「ハナコプロジェクト」は、寄付金を集め、保護犬・保護猫の不妊去勢手術費用と、飼い主のいない子犬・子猫のケア費用を支援する取り組みだが、スタートして2年で、医療を施した犬猫は3,000匹を超えているという。

今回の能登半島地震においても、「被災すると人間は自分が生きるのに精いっぱいで、一緒に逃げてきた犬がケガをしても病院に連れて行くお金がなかったり、動物病院も被災して診療が限定的だったので、無料で受けられる仮の診療施設を行政に申請して設置して、多くの方に使っていただきました」と、活動を展開してきた。

このプロジェクトと、滉平さんの「輪島迷子猫捜索隊」の活動は、同じ動物保護でも別軸で動いているため、具体的に連携する予定はないというが、「この番組だけで関係が終わるわけではないですし、困ったことがあれば相談してほしいという話は常にしているので、何かあったときには手伝いたいと思っています」と、“同志”の気持ちで今後も見守っていく姿勢を示した。

  • 山田あかね氏 (C)small hope bay production

●山田あかね
東京生まれ。早稲田大学卒業後、テレビ制作会社勤務を経て、90年からフリーランスのテレビディレクターに。現在はスモールホープベイプロダクション代表。『ザ・ノンフィクション』では、『1000匹の猫と寝る女』『お金がなくても楽しく暮らす方法』『会社と家族にサヨナラ ニートの先の幸せ』『犬と猫の向こう側』『花子と先生の18年 ~人生を変えた犬~』などを制作し、『むっちゃんの幸せ~福島の被災犬がたどった数奇な運命~』(NHK)、『家族になろうよ』(NHK BSプレミアム)、『石田ゆり子の世界の犬と猫を抱きしめる』(NHKBS4K)など、犬猫をテーマにしたドキュメンタリー番組を多数手がける。『犬に名前をつける日』(キノブックス)、『犬と猫の向こう側』(扶桑社)、『犬は愛情を食べて生きている』(光文社)などの著書もあり、映画『すべては海になる』(10年)、『犬に名前をつける日』(15年)では監督・脚本を務めた。21年には、飼い主のいない犬と猫へ医療費支援を行う「ハナコプロジェクト」を石田ゆり子と立ち上げ、代表理事を務める。現在は、来年公開予定の戦禍のウクライナの犬たちを描いたドキュメンタリー映画を制作中。