Netflixで独占配信中のCGアニメーション長編映画『Ultraman: Rising』は、原点である特撮テレビドラマ『ウルトラマン』(1966年)にオマージュを捧げつつ、いくつもの新しい要素を組み込んで、独自のウルトラマン像を築き上げている。本作でのウルトラマンは「地上に災害を巻き起こす巨大怪獣から人々の幸福を守る巨大なヒーロー・ウルトラマン」という基本的な設定を忠実に守りながらも、ウルトラマンとなったプロ野球選手サトウ・ケンが、とある事件をきっかけに「怪獣の赤ちゃん(エミ)」を育てることになるという、ハートウォーミングなストーリー展開が話題となっている。

『Ultraman: Rising』のシャノン・ティンドル監督とジョン・アオシマ共同監督は、アメリカで数々のアニメーション作品を手がけるクリエイターであると同時に、日本で生まれた『ウルトラマン』の大ファンでもあるという。ここでは、両監督が幼いころに親しんだオリジナル『ウルトラマン』の思い出や、本作の舞台となった「東京」のビジュアル表現についてのこだわり、赤ちゃん怪獣エミの愛らしさの秘密、そして映画の中で特に思いを込めたお気に入りのシーンについてお話をうかがった。

  • 左からジョン・アオシマ共同監督、シャノン・ティンドル監督 撮影:秋田英夫(両監督の持つ本も贈呈)

シャノン・ティンドル監督&ジョン・アオシマ共同監督、『ウルトラマン』は幼い頃からヒーロー

――『Ultraman: Rising』を作り上げられたお二人が、最初に日本の『ウルトラマン』を観たのはいつごろだったのでしょうか。それぞれの『ウルトラマン』の思い出を聞かせてください。

ジョン:私は日本で生まれ、4歳から8歳まで祖父母の家で育ちました。5歳のころだったと思いますが、大好きだった漫画『Dr.スランプ』の中で、主人公のアラレちゃんがウルトラマンの話題を出していたり、科学特捜隊の扮装をしたりしていて、そこから『ウルトラマン』に興味を持ったように記憶しています。ちょうど祖父母の家に、従兄弟が愛読していたウルトラマンの本がいくつかあって、それらを楽しんだり、みんなでウルトラマンごっこをしたり、生活の中にウルトラマンが自然に入ってきました。誰がどのウルトラマンを演じるのかを争ったりして(笑)、幼い頃の楽しい思い出が残っています。

シャノン:『ウルトラマン』を初めてテレビで観たのは6歳のころでした。ある日、テレビのチャンネルを回していると、いきなり目に飛び込んできたのが銀色のヒーローと、巨大怪獣のバトルだったのです。こんな凄い作品、今まで観たことない! と思って興奮しましたね。まだ『ゴジラ』の存在も知らなかったころです(笑)。もうひとつ、アニメのヒーロー『科学忍者隊ガッチャマン』も大好きでした。当時はこれらの作品が日本で作られたものだという意識はなく、ただ「面白い!」という気持ちで観ていました。それからは毎週土曜日、父といっしょに『ウルトラマン』と『ガッチャマン』を観るのが楽しみになりました。

――本作の企画は「怪獣の赤ちゃんを育てるスーパーヒーロー」というアイデアから始まったとうかがっています。円谷プロの協力により『ウルトラマン』を用いたストーリーが作れるようになったことについて、どのようなメリットが生まれましたか。

シャノン:それはもう、オリジナル『ウルトラマン』のビジュアルであったり、基本設定などを使わせていただけたのは、本当に喜ばしいことでした。なんといってもウルトラマンには、半世紀以上の長い歴史がありますから、それらの「神話」を組み込むことができた。改めて、すばらしいことだと思います。円谷プロを訪れたとき、ジョンと私はまるで子どもに戻ったかのように、あれをしよう、これを入れよう、そうだ、あれもできるよね、みたいな感じで、大いに盛り上がりました(笑)

ジョン:ほんとうに、そんな感じではしゃいでいたね(笑)。円谷プロの方々と一緒に映画作りのやりとりができたのは、とても有意義でした。ウルトラマンシリーズを作っている中核の場所で、ウルトラマンが何を考え、どういう行動を取るのか、ウルトラマンの意味する部分をみんなと話し合うことができた。とても最高の時間でしたね。

シャノン:円谷プロの塚越隆行(代表取締役会長兼CEO)さんや隠田雅浩さん、南谷佳さん、みな人柄がとても素敵だったし、考え方もオープンで、話しやすい人たちばかりでした。

――映画の重要人物のひとりとして、地球防衛隊KDFの長官を務める「穏田博士」が登場しますが、このネーミングはやはり円谷プロの隠田さんから採られたのですか。

シャノン:もちろんです。円谷プロでよくしていただいた隠田さんにオマージュを捧げて、お名前を使わせてほしいとお願いしました。いわゆるヴィラン(悪役)のポジションだったのですが、隠田さんをそのまま映画のキャラクターにするわけではないですよ、と事前に説明はしましたけどね(笑)

正確に日本文化を描こうとアプローチ

――劇中で、ウルトラマンとなったケンが怪獣の赤ちゃんエミを育てようとしますが、小さくても怪獣ですし、言うことをきかず好き放題に動きますし、ケンが苦労するところがドラマの重要なポイントなんですね。エミはまるで、人間の赤ちゃんのような愛らしい仕草をするのが印象に残りました。翼の生えたドラゴンのような巨大怪獣ジャイガントロンと深いつながりがあるにもかかわらず、エミに「人間味」を持たせた狙いを教えてください。

シャノン:それは簡単。だって“特撮映画”に出てくる怪獣はスーツの中に人が入っているじゃないですか(笑)。だから、私たちが描く怪獣も、人間のプロポーションに近いイメージを持っていました。ジャイガントロンも、中に人間を入れようと思えば入れられるようなデザインと造型を施しています。エミの場合も、小さな赤ちゃんが怪獣のスーツを着て演技をしたら、どう見えるだろうか、という考えのもと、作りあげています。もともと動物の赤ちゃんは、頭が大きく、手足が短く、ヨチヨチ歩くでしょう。私たちは“特撮”へのリスペクトを込め、エミが人間の赤ちゃんとオーバーラップし、親近感を持ってもらえると信じて作り上げました。

――アメリカ発、さらには世界各国で配信されるワールドワイドな作品ですが、主な舞台が東京、それも秋葉原や代官山といった実際の地名が出てくるというのが、日本の『ウルトラマン』ファンには嬉しいところでした。派手な照明看板が立ち並ぶ秋葉原の町並みや、そびえ立つ東京タワー、さらには路上を走る外国人観光客のカート集団など、現代の東京の風景が極めてリアルに再現されています。お二人のこだわりはどんなところにありましたか。

シャノン:私のイメージする日本は秋葉原なんです。たくさんの看板、高層ビル、家電量販店がひしめいていて、この映画の世界への“入口”としてちょうどいいと思いました。最初のウルトラマンと怪獣のバトルの舞台を秋葉原にしたのは、そのためです。代官山も好きな街ですね。なんといってもTSUTAYA(蔦谷書店)がありますから!(笑)

ジョン:ケンが父の研究施設を訪れるシーンがありますが、あそこは当初、近代的な建物にするつもりでしたが、私が幼少時代を過ごした祖父母の家をイメージした、伝統的な日本家屋が採用されました。天井の蛍光灯からぶら下がった紐をひっぱってスイッチを入れるとか(笑)、個人的に思い入れのある懐かしいビジュアルを再現したかったのです。

――文化・風習の異なる海外の描写は、一歩間違えば地元の人にとってギャグに見えてしまいかねないのですが、その点『Ultraman: Rising』は違和感が極限まで抑えられているというか、ウソがないなあと感じました。

シャノン:日本の方にそう言っていただけると、本当に嬉しいですね。考証の部分は、とても頑張ったので。

ジョン:正確に日本文化を描こうと、シャノン監督、プロデューサー、製作スタジオ自体がみなそういうアプローチをしてくれた。それがありがたかったですね。

シャノン:日本人のアーティストにも多く関わっていただき、ディテールが正確に描かれているか、意見をたくさん聞くことができました。以前『オリー』(Netflix/2022年)の脚本を書いた際、舞台になったのは私の故郷ケンタッキー州の町だったのですが、スタッフそれぞれのアメリカ南部に対するイメージが違っていて、正確に描写したいと主張しても理解してもらえないことがありました。そんな経験を踏まえて、私の大好きな町のことを正確に描き、形にしたいと常に思うようになりました。まさに、あなたたち日本のウルトラマンファンの方たちに、リアルな東京だなと感じてほしかったのです。

――日本の文化といえば、ケンがジャーナリストのワキタ・アミの取材に応じるシーンでの、日本蕎麦屋やトンカツ屋のリアルな描写も印象的でした。アメリカでの生活が長いためか、ケンがざる蕎麦のツユを蕎麦の方にかけ、アミがびっくりするくだりなんて楽しかったです。

シャノン:私の娘がまだ幼かったころ、ジョンの親戚でニューヨークのすばらしいシェフが、とても素敵なディナーをふるまってくれました。そこで“ざる蕎麦”を出されたとき、食べ方を知らない娘がケンのようにツユを蕎麦にかけたんです(笑)。あのシーンは日本の食文化に慣れていないケンを表現すると同時に、答えたくない質問をしてくるアミの注意をそらすため、突飛な行動をしたという解釈もできますね。

両監督が特に気に入っている『Ultraman: Rising』シーンは

――年齢を重ね、衰えた父親のサトウ博士がふたたびウルトラマン(ウルトラダッド)となり、ケン=ウルトラマンと共に困難に挑むシーンは胸が熱くなりました。昔はたくましい姿だったサトウ博士が老いるのに合わせて、ウルトラダッドの外見も少々老けて見えるように変化したというのは、日本のウルトラマンでは見られない新鮮なアイデアだと思いました。

シャノン:年老いたウルトラダッドは、円谷プロと何度も打ち合わせをしながらデザインを決めていきました。サトウ博士がヒゲを生やしているので、ウルトラダッドにもヒゲをあしらったデザインになったのですが「あれはどうなのか?」と円谷から意見が出たことがありました。しかし私たちは「ウルトラマンキングにもヒゲがあるじゃないか」と、実例を挙げながら話し合いを重ねました(笑)

――さすが、ウルトラマンを愛するお二人ならではのやりとりですね! 最後に、『Ultraman: Rising』の中で、お二人が特に気に入っているシーンを挙げてみてください。

ジョン:エミのホログラム(立体映像)を囲み、KDFのアオシマ隊長と穏田博士が会話をするシーンです。彼らはエミを利用して、地球に生きる怪獣を殲滅しようと画策しますが、なぜそのような思いに至ったのか、彼らなりの葛藤や苦しみが隠されています。エミに残酷なことを行おうとする中で、アオシマが「これしか方法がないのだろうか」と穏田に問う、あのやりとりは特に強い思いを込めました。

シャノン:お気に入りのシーンと言われるとたくさんあって選ぶのに困るんですけれど、子ども時代のケンジ(ケン)と母が部屋の中にいて、窓の反対側にウルトラマン(父)の頭が見えるショットを挙げておきましょう。映画の始まりのタイミングで、ウルトラマンがいかに大きな存在で、人々を守って怪獣と戦う“責任”を担っていることを表す、大切なシーンです。ケンはそのときまだ子どもだけど、自分も父のようなウルトラマンになれるのか? という気持ちを、観ている方たちに伝えたいと思いました。私たちは『Ultraman: Rising』を親子、ご家族で一緒に楽しんでいただきたいと願っています。

■シャノン・ティンドル (監督・脚本)
カリフォルニア芸術大学を2000年に卒業後、TV番組と長編映画のデザイナー、ストーリーアーティスト、脚本家、監督として活躍。ドリームワークス、ディズニー、カートゥーンネットワーク、ユニバーサル・スタジオなどとのコラボレーションを通じて『フォスターズ・ホーム』『ターボ』『クルードさんちのはじめての冒険』『コララインとボタンの魔女』をはじめ、さまざまな作品を手掛けている。アニメーション制作会社ライカ在籍時には、『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』(アカデミー賞2部門ノミネート、英国アカデミー賞長編アニメ映画賞受賞) の制作、脚本、キャラクターデザイン、俳優演出を担当。 ほかに、Googleスポットライトストーリーのコンテンツ作品でアニー賞にノミネートされた『On Ice (原題)』のクリエイター・監督を兼任。Netflix作品としてはエミー賞受賞シリーズ『オリー』のクリエイター、脚本、エグゼクティブプロデューサーを務めている。

■ジョン・アオシマ (共同監督)
日本で生まれ、幼少期から南カリフォルニアで育つ。アートと映画に情熱を注ぎ、カリフォルニア芸術大学で美術学士号を取得。ディズニーの『怪奇ゾーン グラビティフォールズ』『ダックテイルズ』、FOXのゴールデンタイムのコメディアニメシリーズ『アメリカン・ダッド』などで知られる。TVアニメシリーズで初期のキャリアを積んだ後、長編映画にシフトし、ライカのアカデミー賞ノミネート長編アニメ映画『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』にストーリー責任者として携わった。2018年にNetflixアニメーションに入社してからは、アニー賞とエミー賞を受賞したリミテッドシリーズ『プリンセス・マヤと3人の戦士たち』のシーケンスディレクターを務める。

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