2024年7月3日、20年ぶりとなる新たな紙幣が発行されます。新紙幣のデザインには、日本の歴史に深く関わり、現代にも影響を与える3人の肖像が採用されました。一万円札には「日本実業界の父」渋沢栄一、五千円札には女子教育の先駆者・津田梅子、千円札には「日本近代医学の父」北里柴三郎が描かれます。今回は、本の要約サービスを運営しているフライヤーの編集部が新紙幣の顔である3人にまつわる書籍を紹介し、その魅力を掘り下げていきます。
■経済と道徳の合一を目指した渋沢栄一の名著『論語と算盤』
新一万円札の顔である渋沢栄一は、日本の近代経済の基礎を築いた人物として知られます。渋沢は「道徳(論語)と経済(算盤)は合一すべきである」と考え、経済活動と倫理観の統合を主張しました。企業は利益を追求するだけでなく、社会的責任を果たし、倫理的に行動すべきだと考えたのです。この理念が詳述されているのが、渋沢の経営哲学をまとめた説話集であり、現代日本のビジネスパーソンにも多大な影響を与える名著『論語と算盤』(日本能率協会マネジメントセンター)です。
渋沢は第一国立銀行(現・みずほ銀行)をはじめとする、多くの企業や銀行の設立に携わった人物でもあります。渋沢の関わった企業は、現在も日本経済の中核をなす存在です。また、慈善事業や社会福祉活動の支援も積極的に行い、多くの公益団体や教育機関の設立にも尽力しました。これは、国の発展はその国民の教育と道徳にかかっているという信念にもとづくものです。まさに「日本資本主義の父」と呼ぶべき人物の生涯と業績について、この機会に触れてみてはいかがでしょうか。
■女子教育へ生涯を捧げた津田梅子の知られざる一面『津田梅子』
新五千円札のデザインに選ばれたのは、日本の女性教育の先駆者といわれる津田梅子です。幼少期からアメリカへ留学した梅子は、帰国後に日本女性の置かれていた状況に驚き、女性の地位を高めたいと考えるようになります。再度の渡米を経験した後に、女子英学塾(のちの津田塾大学)を創設。女性の地位向上と女子高等教育へ生涯を捧げました。
教育者としての顔がよく知られる梅子ですが、『津田梅子』(東京大学出版会)は生物学者としての梅子に焦点を当てた一冊です。二度目のアメリカ留学中、梅子は生物学を専攻し、日本人女性としては初めて欧米の学術雑誌に論文が掲載されたとまでいわれています。生物学者としての将来を期待されていたにもかかわらず、その道を断念し、日本の女子教育への貢献を選んだ背景には、梅子の義務感がありました。そんな知られざる情熱を、本書で感じてみてください。
■熱と誠があれば何事も達成する『北里柴三郎』
千円札の肖像として採用された北里柴三郎は、日本の近代医学の基礎を築いた人物です。明治時代にドイツのコッホのもとへ留学し、破傷風菌の純粋培養に成功した北里は、その後も抗毒素抗体の発見や血清療法の確立など、数々の偉業を成し遂げました。帰国後もペスト菌の発見、伝染病研究所や慶應義塾大学医学部の創設、日本医師会の設立など、学問的・社会的に多大な貢献を残しました。
そんな北里の業績を詳述した評伝が『北里柴三郎』(ミネルヴァ書房)です。生化学者の荒木寅三郎がドイツ留学中の北里を訪ねた際、北里は「人に熱と誠があれば何事も達成する」と若き友人を励ましたといわれます。「熱を持て、誠を持て」という北里の信念は、現代の日本を生きる私たちをも励ます言葉となることでしょう。
■おわりに
新紙幣に採用された、渋沢栄一、津田梅子、北里柴三郎にまつわる書籍を紹介しました。新しい紙幣を手にするのと同時に、3人の生涯や思想、業績についても改めて触れる機会をとってみてはいかがでしょうか。偉人たちの生き様は、現代の日本に生きる私たちにも、多くの学びを与えてくれるはずです。