連続テレビ小説『虎に翼』(NHK総合 毎週月~土曜8:00~ほか ※土曜は1週間の振り返り)で、語りを務めている尾野真千子。物語の概略や時代背景、法律用語の解説などを語るだけではなく、時には伊藤沙莉演じる主人公・寅子の心の声を代弁したり、視聴者目線でコメントを入れたりと、心地よい距離感のナレーションが好評を博している。その魅力を制作統括の尾崎裕和氏が語った。

『虎に翼』の語りを務める尾野真千子

寅子のモデルは、日本初の女性弁護士で、後に裁判官となった三淵嘉子さん。後半では寅子が男性社会で奮闘する姿が大いに共感を呼ぶ一方で、リーガルエンターテインメント色もより濃くなってきている。脚本を手掛けたのは、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(20)や『生理のおじさんとその娘』(23)、『ぼっち・ざ・ろっく!』シリーズで知られる吉田恵里香氏だ。

尾野による語りは、スタンダードな状況説明をする時以外は実に軽妙なタッチで入る。寅子たち女性陣が自分の意見を押し殺すシーンでは「スンッ」を連打してきたが、そのタイミングも絶妙だった。また、寅子と仲野太賀演じる優三が手羽元を2人で仲良く分け合って食べるシーンで入った「人が恋に落ちるのは、突然です」には胸がキュンキュンした。最近では、沢村一樹演じるディープなキャラクターであるライアンこと久藤頼安に対して寅子が感じた心の声「うさんくさい」の3連発が、視聴者の笑いを誘ったことも記憶に新しい。

常に寅子に寄り添う語りをつけてきた尾野は、自身も朝ドラ『カーネーション』(21)でヒロインを務めた経験もあるからか、寅子とのシンクロ具合が最高だ。尾崎氏によると「語りがああいう形になったのは、吉田さんの脚本によるところが大きいです」とその舞台裏について語る。

「吉田さんが書かれた初稿にあの語りが入っていて、僕も最初にそれを読んだ時『すごい語りだな』と思いました。このドラマはシリアスになる部分でも、客観的に寅子の気持ちがすっと入ることで、ちょっとコメディタッチになるというか、少し引いてみることで面白くなったりして、語りがとても効果的に配置されています。それは吉田さんの意図でもあるし、ツッコミでちょっと笑えたり、ポップになったりするというバランスがいいなと。台本段階でもすごく上手くいっているなと思ったので、そういう形でどんどん使っていきましょう! という流れになりました」

尾野にオファーした経緯については「初稿にその語りが入っていて、どんどん脚本ができていく中で、この語りはとても難しい、という話になりました。お芝居ができる役者さんにお願いしないと成立しないのではとなり、いろいろと考えた結果、尾野真千子さんならお願いしても大丈夫なのではないかということでオファーしました」と、尾野に全幅の信頼を寄せていたことがうかがえる。

「量も多いし、シンプルなナレーションだけではなく、寅子のモノローグ的な気持ちも話すということで、尾野さんも最初に台本を読まれた時は、これをどういう風に言えばいいのかと考えられたみたいです。でも、私たち的には、最初の収録時の尾野さんのナレーションが本当に素晴らしかったので『これはイケる!』と思いました。尾野さんは不安の中でやられていたみたいですが、完成したものをスタッフで観て『本当にすごいナレーションになったね』と言ったことは今でも覚えています」

また、尾野と伊藤との間にやりとりについては「お二人は個人的にお知り合いなので、尾野さんがナレーションをやるという連絡はされたと思いますが、細かいところでどんな風にやるかといったことはお話されてないと思います」とのこと。

「尾野さんはナレーションの収録でよくNHKにいらっしゃいますが、自分が収録現場に顔を出すと気を遣わせてしまうということで、行かないようにしていると言われていました。それは尾野さんも『カーネーション』で主演をされていて、大変さをわかっているからこその気遣いかなと。だから密に連絡を取りあうことはせず、放送は毎日家で観て楽しんでいますという距離感でいらっしゃるのではないかと」

役者がナレーションを務めることも多い朝ドラだが、『らんまん』(23)を担当した宮崎あおいが、神木隆之介演じる万太郎が遺した標本の整理をするバイトの藤平紀子として、『カムカムエヴリバディ』(21) を担当した城田優も、川栄李奈演じる大月ひなたと再会するビリーことウィリアム・ローレンス役でサプライズ出演し、視聴者を歓喜させた。いち視聴者としては、尾野もいつかそういったスポット出演をしてくれることを期待せずにはいられない。

(C)NHK