西武ホールディングスは、第19回定時株主総会を6月21日に所沢駅東口の西武第二ビル「くすのきホール」で開催した。当日は大雨に見舞われたものの、439名の株主が会場に出席した。
株主総会の会期中に設けられた質疑応答にて、株主から鉄道事業や埼玉西武ライオンズなどに関する質問・意見・要望が寄せられた。当記事では鉄道事業に関係する質疑応答を抜粋して紹介する。
貨客混載の今後や東村山駅高架化の予定に言及
今回、西武ホールディングス代表取締役社長の西山隆一郎氏が株主総会の議長を務めた。開会にあたり、不動産事業を核とした成長戦略からなる「西武グループ長期戦略 2035」を新たに策定したと発表。「2035年の在りたい姿として、『Resilience&Sustainability -安全・安心とともに、かけがえのない空間と時間を創造する-』を実現できる企業グループをめざします」と挨拶した。
続いて、2023年4月1日から2024年3月31日までの事業内容を映像で紹介。鉄道事業においては、都市交通・沿線事業の経営改革の一環で、鉄道事業・沿線価値創造に特化するため、西武鉄道が保有する鉄道以外の不動産(「西武園ゆうえんち」など)を西武リアルティソリューションズに移管したと説明があった。2024年1月からは、西武鉄道全線で使用する電力のすべてを100%再生可能エネルギーに由来する電力に統一。これにより、実質的にCO2排出量ゼロで鉄道を運行することにもつながるとしている。
2023年6月、「としまえん」跡地に開業した「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京 - メイキング・オブ・ハリー・ポッター」と連携し、池袋駅と豊島園駅をリニューアルしたほか、フルラッピング電車「スタジオツアー東京 エクスプレス」の運行を開始するなど、豊島園周辺エリアの活性化にも努めた。「スタジオツアー東京 エクスプレス」は現在、3編成が運行されている。
その後、これらの事業報告や決議事項に関する質疑応答の時間が設けられ、12名の株主が質問(1人2問まで)した。ここでは鉄道事業に関係する質問を抜粋して紹介する。鉄道関係の質問に対しては、個別に回答者を記載したものを除き、おもに西武鉄道取締役の藤井高明氏が回答した。
最初に質問した男性株主は、1点目にベルーナドームや「西武園ゆうえんち」への集客、南北に弱い西東京エリアの輸送力拡大を考え「多摩都市モノレールの延伸に際して、たとえば上北台駅から西武球場前駅までで西武鉄道も参加できないか」、2点目に「西武鉄道を使った貨物輸送(貨客混載)は、その後どうなったのか」と質問。「たとえ赤字だったとしても、貨物輸送の改善点が見えれば、モーダルシフトにも役に立つと思います」と添えた。
1点目に対して、藤井氏は「当社から多摩都市モノレールの延伸についてお答えする立場にはない」としつつも、「機会がありましたら、交通ネットワークの拡充という点で、いろいろな形で検討してまいります」と回答。2点目に対しては、オンラインで購入した商品を駅のスマートロッカーで受け取る「bopista」を今年4月から本格稼働したと説明し、「この『bopista』を通して、荷物を受け取る拠点の拡大や、商品の拡充、環境優位性のある鉄道を活用した輸送モデルの構築や配送スキームの効率化・最適化に取り組んでまいります」と述べた。
余談だが、多摩都市モノレールに関して、上北台~箱根ヶ崎間の延伸が検討されており、同社と東京都が2023年11月に都市計画案の説明会を行ったという。引き続き、都市計画決定に向けた手続きが進められている。
次の男性株主は、1点目に「東村山駅周辺の高架化工事の関係者が危険な自動車走行をしている」と発言。2点目に、池袋線・新宿線ともに所沢駅の始発列車(どちらも4時59分発の準急)に乗っても東京駅6時0分発・品川駅6時7分発の東海道・山陽新幹線「のぞみ1号」に間に合わないとのことで、「準急を急行化するなど、改善していただきたい」と要望した。
1点目に対して、藤井氏は「事業主体である東京都と一体となって、沿線の皆様にご迷惑をおかけしないように、改めて周知徹底いたします」と回答。2点目に対しては、今年3月のダイヤ改正で特急列車・座席指定列車の増発、各種の運転時分変更を行ったと説明した上で、「貴重なご意見として参考にさせていただき、最適なダイヤを提供できるよう検討します」と話した。加えて、東村山駅の高架化に関して、2025年度上期に新宿線下り線を高架化する予定とのことだった。
設備投資のあり方や地域との連携は
次の男性株主は、西武鉄道で今後導入する「サステナ車両」(小田急電鉄8000形・東急電鉄9000系)や、グループ会社の伊豆箱根鉄道・近江鉄道を例に、西武グループとしての設備投資のあり方について質問した。これに対して、西武ホールディングス上席執行役員の原田武夫氏が回答した。
原田氏によれば、所沢駅西口に9月開業予定の「エミテラス所沢」や、西武新宿駅をはじめとする都心各所、軽井沢などのリゾートに挙げられる西武グループ保有の優良な不動産を開発し、価値をのばしていくことを成長の柱として、「西武グループ長期戦略 2035」を策定しているという。この長期戦略では、不動産の再開発を中心に計画している。しかし、都市交通・沿線事業も変わらず重要であるため、西武鉄道においても設備投資を行いながら、沿線の価値向上に努めていくとのことだった。
西武グループとして、2050年度にCO2排出量を実質ゼロにする目標にも言及した。西武鉄道の都市交通沿線だけでなく、伊豆箱根鉄道・近江鉄道でも省エネルギーが大きなカギと考え、設備投資のあり方について、「まず西武鉄道の省エネに取り組んでまいりますが、グループ全体の取組みも進めたい」と原田氏は答えた。
自身の子が「西武塾」に参加したという男性株主から、地域社会との連携についての質問もあった。所沢市がふるさと納税の返礼品を再開すると聞いたことをきっかけに、「ふるさと納税でこういったことができそうだというアイデアがあればご意見いただきたい」と発言した。
この質問に、西武鉄道代表取締役社長の小川周一郎氏は、「ふるさと納税の案として、ここではまだ申し上げるには早いので控えさせていただきますが、街の魅力を高めるような、ソフト的な施策も含めて、今後しっかりと関係者と連携を図って進めていきたい」と回答。エリアとしての魅力発信について、沿線の自治体・企業・大学・商店街の各関係者と話し合いを始めているとのことだった。
かつての特急「おくちちぶ」復活を希望する声も
阪急電鉄沿線に住んだことがあるという男性株主は、関西私鉄のほうが関東よりサービスが良いと聞いたことから、「関西私鉄のサービスの良いところを取り入れる気はないのか」と質問。一例として、阪急電鉄のほうが広告の量が少なく、広告の美観に優れているとの考えも示した。
この質問に対して、藤井氏は「日頃から、事業者同士で情報交換を密にしており、取り入れられるものは取り入れていこうと考えています。貴重なご意見として参考にさせていただき、他社の動向等を注視しまして、皆様に安心して快適にご利用いただけるサービスをご提供できるように努めます」と回答した。
別の男性株主からは、池袋線・西武秩父線の特急「ちちぶ」について、飯能駅でスイッチバックが発生することをネックに感じているとの発言も。さらに、過去に西武新宿駅から西武秩父駅まで運行していた特急「おくちちぶ」に触れつつ、「日に1~2往復でもいいので、西武新宿から秩父へ向けた特急をまた走らせていただきたい」と希望する場面もあった。
藤井氏はこの意見に対して、「我々もいつも課題に思っているが、なかなか思うようにいかない」と前置きした上で、「なにか特別な機会があれば改善できるよう取り組んでまいりたい」と回答した。ちなみに、飯能駅の手前に元加治~東飯能間短絡線の用地があり、輸送需要等を見て検討しているというが、いまのところ整備の予定は立っていない。
所沢駅の配線についても言及があり、同駅南側で進行中の「ふれあい通り線」(アンダーパス)との関係で配線を変更しているため、現状では所沢駅でのスイッチバックが難しくなっているという。「回送できるタイミングを踏まえて、新宿から秩父へ行く特急についても、可能性があるかどうか含めて考えてまいりたい」と添えた。
なお、西武鉄道は新宿線の有料着席サービスを刷新し、2026年度中に運行開始予定と発表している。現在、新宿線で運行している10000系「ニューレッドアロー」を新たな車両へ置き換える一方、「柔軟な運行形態」「着席機会の拡充」などでサービス向上を図るとのこと。
今年の株主総会の所要時間は1時間39分。議決権を有する出席株主数は2万4,249名(委任状・インターネット含む)、議決権個数は214万7,357、会場に出席した株主は439名だった。決議事項の議案は、第1号「剰余金の配当の件」、第2号「取締役14名選任の件」、第3号「取締役の報酬額改定の件」の3点で、いずれも拍手多数により可決された。