第83期順位戦A級(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は1回戦が進行中。6月21日(金)には渡辺明九段―中村太地八段の一戦が東京・将棋会館で行われました。対局の結果、横歩取りのねじり合いから抜け出した中村八段が120手で勝利。難敵を下して白星発進を決めました。

順位戦らしい作戦準備

A級参加2期目の中村八段、後手番で迎えた本局は3手目に角道を開け相掛かりを避ける姿勢を打ち出します。これを見た先手の渡辺九段も自然な横歩取りで対応。流行の青野流は避け、クラシカルな空中戦を好むのが渡辺流で、後手を持って誘導しやすい展開となりました。

中村八段のプランは続きます。歩を打って2筋を収めたのは従来利かされとされてきた一手。しかしその代償として左銀の動きが楽になったため、自玉を美濃囲いに囲いやすくなった意味があります。続いてヒネリ飛車の要領で右辺に手を求めたのが中村八段の作戦でした。

苦境の後手番乗り切る

中住まいに組んで様子をうかがった渡辺九段と対照的に、中村八段は積極的な攻めでペースをつかみます。4筋に築いた拠点に桂を打ち込んだのが単純ながら厳しい王手。手順に守りの要の金を奪って攻めが切れなくなりました。受けてもキリが無いと見た渡辺九段も反撃に出ます。

渡辺九段が左辺の端攻めから美濃囲いを崩したとき、取れる成桂を取らずに玉を逃げ出したのが中村八段の好判断。これで自玉が一気に見えない形となって攻めに専念できるようになりました。終局時刻は翌22日0時12分、最後は自玉の詰みを認めた渡辺九段が投了。

一局を振り返ると、先後が決まっている順位戦で後手番ながら積極的な攻撃策を打ち出した中村八段の準備が奏功する格好に。勝った中村八段は「戦型的に後手が苦労するのは覚悟のうえだったが(自玉の)遠さが生きる展開になったのは幸いだった」と振り返りました。

水留啓(将棋情報局)

  • 初参戦となった昨年は連敗スタートだった中村八段、今期はどこまで白星を伸ばせるか

    初参戦となった昨年は連敗スタートだった中村八段、今期はどこまで白星を伸ばせるか