ここ昨今、やたらと「腸活」という言葉を見かける。実際「腸活」には、美肌・アレルギーや風邪の予防&改善・メンタル面の健康・睡眠改善など、健康面にも美容面にもうれしいメリットが多数といわれているが、近年の疫学的研究で、“見た目年齢”にも関係があるらしいことがわかってきた。重要なのは「腸内細菌」であり、無菌で育てられたマウスは怒りっぽく学習能力も低いという結果が出ている。

その「腸内細菌」の悪玉菌が増える原因は哺乳類の肉や脂が原因で、そういった意味からも「日本人はバランスの取れた食事が健康に良いと思い込んでいますがそれは間違いです」と内藤裕二・京都府立医科大学院教授は警鐘を鳴らす。真に健康にいい食生活とは。「腸活」の重要性とは。内藤教授に聞いた。

■“バランスのいい食事が健康”と言っているのは日本だけ?

よく「◯才を超えると老いが一気にくるよ」といった会話がなされる。これを裏付けるように、2019年12月5日、「Nature Medicine」にアメリカ・スタンフォード大学の研究が寄せられ、人の老化は、緩やかに続く一本道ではなく、若年成人(34歳)、中年後期(60歳)、高齢者(78歳)で大幅に老化が進むことが発表された。

そもそも、老化のメカニズムには、老化を促進させる重要な要因は神経や臓器などの微小な慢性炎症であり、その炎症が起こる源は口内細菌、老化細胞などさまざまな説がある。内藤教授は「“腸”も有力視されています」と語る。「京都府の京丹後市では人口10万人あたりの100歳以上の方の数が全国平均の約3倍以上いらっしゃることがわかりました。そこで2017年より同地で1500人を対象に研究を開始。その結果、2019年に長寿の人の腸内には酪酸産生菌が多いことがわかりました」(内藤教授/以下同)

酪酸産生菌とは腸内フローラを整えるとされる酪酸を作る菌のこと。酪酸産生菌は腸内で酪酸を作り出し、悪玉菌が増えるのを防いでおり、抗炎症作用などさまざまな健康効果が。また、酪酸により酸素が消費されることで、腸の中でビフィズス菌などの善玉菌が住みやすい環境になる。

「また彼らが何を食べているかも明らかになりました。彼らのたんぱく源の多くは魚と穀類と大豆。レッドミートと呼ばれる牛や豚、羊などの哺乳類の肉をあまり食べていなかったのです。つまりプラントベース。これは世界の潮流であり、日本は肉も野菜も牛乳もなどといった“バランスのいい食事が健康”とされていますが、そんなことを言っているのは先進国では日本だけ。これは久山町研究を見ても明らかです」

■マウスの研究では糞便移植で“見た目”の若返りが確認

久山町研究とは何か。久山町は福岡県の町で、九州大学がこの町の40歳以上の住民に協力を依頼。50年ほど行われた結果、指導の通り、いわゆる典型的な日本食(主食であるごはんを60%、あとはおかずや汁物等バランスよく。1,600キロカロリー程度)を正しく食した人の糖尿病やメタボリックシンドロームの比率が全国比率よりも高くなってしまった悲劇である。

「“バランスのいい食事”が促進されたのは、戦前、戦時中を含めて日本で様々な栄養素の欠乏症が起こったから。これにより我々の寿命が延びたのは間違いないのですが、結局、食べすぎたものは過剰エネルギーとして内臓脂肪になり糖尿の原因になります。それより重視しなければならないのは腸内にある1~1.5キロもある細菌で、その腸内細菌の餌になるものを人間は食べなければならない。持続可能な健康な食、サステナブルヘルシーダイエットが重要になっているのです」

食の欧米化が進んだことでたんぱく質のベースが肉に。またパンなどの小麦食が増えた。米の研究も進み、白米の栄養価も増えた。だがレッドミートの肉や脂が腸内の悪玉菌の餌になるほか、白米や白い小麦には善玉菌の餌となる食物繊維が少ない。ゆえに「腸活」を含むサステナブルヘルシーダイエットが提唱されているわけだ。実はこの「腸活」には健康のほか、“見た目年齢”も変わる可能性が見えてきた。

「あくまでもマウスでの研究ですが、動物性の高脂肪高たんぱくを投与していくと腸が老けてメタボに。また毛も抜けていきます。そこで年老いたマウスに若いマウスの便を移植すると、白髪がなくなるなど見た目年齢が若返る、肌の水分が増える、健康寿命が延びるなどしたのです。腸の年齢をどう維持するかが若返りのためには大事です」

ここで「腸内細菌が作るなにものかが我々の体に老いを遅らせるいいことをしている」という仮説が出た。有力視されているのは胆汁酸で、実際、胆汁酸を分解して代謝できる腸内細菌がどうやら我々の生命現象を左右しているのではないかという論文が多く出ている。また海外では人間においてもこの糞便移植が「医薬品」として認可され始めている。

「腸内細胞がどれほど重要かといえば、例えば無菌室で育ったマウスは怒りっぽく、落ち着きがなく、さらには学習能力も低い、興奮気味の成体に育っていきます。このように腸と脳は相関関係にあるようで、お腹の調子が悪い人はメンタルの調子が悪い人が多く、その逆もしかり。良い細菌といかにお腹のなかで共生していくか、たくさん餌をあげるかが重要なのはほぼ間違いないことです」

■Z世代の若者の腸の老化の早さが問題に

では健康のためにも、見た目の若さのためにも、内臓や神経などの老化防止のためにも、何を食べればいいか。乳酸菌などを接種するのはもちろん、やはり“食物繊維”となる。要は白米より、もち麦や玄米、雑穀米、白い小麦粉よりも全粒粉。そして悪玉菌の餌になって腸を老化させるレッドミートは制限すること。たんぱく源はプラントベースに。とくに大豆はおすすめだ。乳酸菌と大豆と聞くと、最近はスーパーで豆乳ヨーグルトなどを目にするが、「腸活」の観点では大豆を丸ごと使った「大豆ヨーグルト」が良いという。大豆には食物繊維が含まれているが、豆乳にはほぼ含まれていないからだ。

実際に大豆ヨーグルトを販売している「フジッコ」によれば、「昨年3月にリニューアルを行いましたが、リニューアル前の2023年2月と、2024年5月の出荷数量対比は347%になりました」とのこと。このデータからも大豆ヨーグルトが今、どれだけ重視されているのかがわかる。

「また認知症やアルツハイマー、パーキンソン病も含めて腸には注目が集まっています。パーキンソン病は頭の中にα-シヌクレンという異常なタンパク質が凝縮する病気なんですけども、実はこれが腸から由来しているんじゃないかとわかってきました。脳の認知機能の低下予防のためにも腸の健康は大事です」

さらに最近では、Z世代などの若い人ほど腸年齢が老いている傾向があるとされる研究も。「1965年以降に生まれた人たちの老化スピードが早く、がんの発症率が上がっています。若い時の食生活が40~50代になって出ているようです。また30年前の大学生と今の大学生では比べ物にならないぐらいメンタルが弱いように見られる。年間の若い人の自殺の数も圧倒的に増えていますし、メンタル面でも『腸活』は大切かもしれません」とのこと。

「それぐらい現代の日本人の腸内環境はあまり良くありません。海外では今やオリンピック選手も『腸活』をしていますし、試しにでもいいので食生活や腸内環境を見直してみたらいいと思います。先日もメディア向けセミナーでお話ししましたが、大豆を中心とするプラントベースの食事を意識することで、様々なパフォーマンスに影響するはずです」

健康や美容だけでなく、“見た目年齢”や“脳の認知機能”、“メンタル面”でも効果が期待できる「腸活」。“バランスのいい食事”から一歩進んで、“腸内細菌にとってバランスのいい食事”へとシフトしてみるのもいいかもしれない。

内藤 裕二先生


医学博士、消化器専門医、京都府立医科大学大学院医学研究科教授。消化器専門医として最新医学に精通し、健康長寿や抗加齢医学、腸内細菌や酪酸菌研究も専門としており、「京丹後長寿コホート研究」で腸内フローラ解析に携わっている。腸内細菌研究のエキスパート。