穐山氏が所属した「g」は、重松氏がテレビ局やプロダクションなどの“行政”によって、自由にものづくりができない状況に直面した経験があり、「もっとクリエイターがやりたいことをやらないと日本のエンタテインメントはダメになる。忖度やコンプライアンスなど時代が変わってきている中で、グローバルの視点で日本のエンタメを考えて作った」(重松氏)映像制作集団だ。

深刻な問題として捉えるのは、クリエイターのギャラの安さだ。先日、岸田文雄首相が「アニメやゲームを日本のコンテンツとして力を入れる」と発表したが、これに対して、「クールジャパンの時のようにハコモノを作るより、まずはアニメーターのギャラの安さを解決すべき」といったコメントが多くあがった。これは実写業界でも同じだ。

だが日本では、「ギャラを上げてほしい」と申し出ると「金、金、金か」「銭ゲバだ」などと言われてしまう悪しき習慣がある。一方、ハリウッドでは、本人ではなくエージェントがしっかりと値段交渉し、脚本家がビバリーヒルズに豪邸を構えている。そのエージェントとして「g」が作られた経緯もある。

先日、俳優の鈴木亮平が『だれかtoなかい』(フジテレビ)に出演した際、「日本の映像界は韓国から20年くらい差を開けられた」と発言し、物議を醸した。日本のゴールデン・プライム帯ドラマの制作費が1話3,000万円前後である一方、韓国ドラマの主役級のギャランティはは1~2億円とも言われている。

「これでは新たな才能が業界に入ってこない。つまり業界自体が衰退してしまう。確かに韓国は世界で戦うために国に働きかけるなどしてその予算をつけた。日本だけで回そうとしたらその規模感になるのは仕方ない」と重松氏が現状を捉えるように、ただでさえ諸外国に追いつけない状況で、将来を担うZ世代を育てなければならない今、“情熱”だけでなかなか人は集まらないのだ。

それでも、重松氏は力強く語る。

「僕は予算だけで負けているとは思っていない。最初に“物語”があるべきだと思っています。韓流ドラマも好きな俳優はたくさんいますが、どちらかといえば“物語”で面白いと思うんです。日本は一回、“物語”に回帰すべきではないでしょうか。そのために脚本家と演出家を集め、いい“物語”を作りたい。それを世界へ持っていきたいと思い『g』を作りました。そして穐山さんにオファーしたのは、先ほど言った多様性を持っているから。つまり穐山さんにお願いしたことが『g』の意思表明のようなものなのです」(重松氏)

たしかに、洋画のポスターを見ると“物語”を思わせるものが多いところ、邦画のポスターは出ている俳優陣を並べた“ブロッコリー状”になっている。筆者もドラマ制作会社に企画を出すことがあるが、キャストの“人気”が相当重視される。

それが悪いと言っているのではない。一度、“物語”という原点に回帰すること。穐山氏のような慣例にとらわれない“ユーザーの感覚”を持ったクリエイターを育てていくこと。そして十分な金額を払うこと。これらが今後、日本の映像界の課題になるのではないか。

●穐山茉由
ファッション業界で会社員として働きながら、映画美学校で映画制作を学ぶ。修了制作作品『ギャルソンヌ -2つの性を持つ女-』が第11回 田辺・弁慶映画祭 2017に入選。長編デビュー作『月極オトコトモダチ』が第31回東京国際映画祭に出品され、MOOSIC LAB 2018では長編部門グランプリほか4冠を受賞。2019年新藤兼人賞に最終ノミネート。2作目のオリジナル長編『シノノメ色の週末』では第31回日本映画批評家大賞 新人監督賞を受賞した。23年には映画『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』が公開。24年1月クールのドラマ『春になったら』(カンテレ・フジテレビ系)で、連ドラ演出に初挑戦した。