穐山氏は、草なぎ剛主演の『僕シリーズ』や、『がんばっていきまっしょい』『ブスの瞳に恋してる』といったドラマに、『SMAP×SMAP』などのバラエティ番組を担当した元カンテレの重松圭一プロデューサーが設立した映像制作集団「g」に所属した。それまでは脚本家が参加してきたが、監督の所属は穐山氏が第1号だ。

重松氏は、“二刀流”で活躍する彼女のことを「非常に珍しいと思います」と捉えた上で、「我々が映像制作集団として脚本家だけでなく監督とも一緒にやっていこうと考えたとき、最も意識したのは“多様性”でした。映像というのはそれこそ専門職で、誰よりも映像が好きな方々が作っていますが、それが制作者と視聴者とのかい離を生んでいるかもしれない。ですが、穐山さんのような視点を持った方が映像を作ることで、映像業界の裾野が広がることは絶対あるだろうと思ってマネジメントさせてもらっています」と活躍を期待する。

穐山氏も「映画を作っていると、映像作品が好きな人が周りに多いので、今はちょっと薄れてはいますけど、業界的に“これを観ているのは当たり前だよね”、“映画はやっぱり映画館で観るもの”といった感覚が強かったんです。でも映像業界じゃない人にしてみれば、普段から映画館へ行くよりもサブスクなどで済ませる人が今は増えているし、映画館へ行ったとしても観られるのはメジャー作品ですよね。映像業界で映像作りに没頭していると忘れがちになってしまうその一般の感覚、気付きが会社員をやっていることでありますし、業界の“当たり前”に染まらず、距離を置いて映像作りについて考えることができているんです」と語った。

映像界の伝統を否定したいわけではない

一人の社員のために新しい雇用形態を作るということは、過去の日本ではなかなかあり得ないことだっただろう。このおかげで穐山氏は、制作側と視聴者側の架け橋に。また業界を俯瞰して見られる映像界の“イーグルアイ”を身に着けた。

それでも、「これまでの映像界の伝統を否定したいわけではないんです」と強調する穐山氏。「昔の映画も大好きですから、そういった環境、慣習があったからこそ、あんな名作が生まれたということも理解しています。ですが現代の映像に対する多様な価値観をふまえつつ、もの作りへの情熱を大事にしながらアプローチしていくのに必要なのは“バランス”なんだと考えています」と認識している。

  • 『春になったら』Blu-ray & DVD BOXは、2024年8月9日発売。Netflix、FOD、カンテレドーガで配信中。

今年1月クールには、連続テレビドラマを初体験。映画と違い、台本と並行して撮影が進むことで結末が見えない中での作品作り、複数の監督が演出する中でのカラーのすり合わせ、視聴者の反響を目にしながらの調整など、新たな経験を積んだ。

「テレビドラマの良さって、約2時間尺の映画では掘り下げられない部分も描けるし、登場人物の新しい一面など、それだけでも1シーンが撮れてしまう贅沢さが挙げられると思います。他にもいろいろありますが、これからも積極的に関わっていけたらうれしいですね」