5月31日に行われる第9期叡王戦五番勝負(主催:株式会社不二家)第4局は、挑戦者の伊藤七段が初タイトルを獲得するか、藤井八冠が防衛に望みをつなぐのか、非常に重要な一戦です。明日30日に前日検分が行われ、31日の午前9時には対局が開始されます。

将棋ファンはこの対局開始を今や遅しと待っている状態かと思いますが、この記事では第4局の注目ポイントはどこになるのか、第3局の将棋を振り返りつつ探っていきます。

  • 叡王戦第3局では、中盤にリードした藤井叡王がそのまま勝ち切るかと思いきや、伊藤七段が怒涛の反撃を展開。50手にもおよぶ秒読みの終盤を制し、叡王をカド番に追い込んだ(提供:日本将棋連盟)

※本稿では、2024年6月3日に発売される、『将棋世界2024年7月号』(発行=日本将棋連盟、販売=マイナビ出版)掲載の叡王戦第3局「勝ち将棋 鬼のごとし」より、一部抜粋してお送りいたします。

(以下抜粋)

「名局だった!」 終局後、控室で検討をしていた棋士たちは皆、感嘆の声を上げた。終盤戦、双方1分将棋で繰り広げられた50手の攻防は圧巻だった。早速、大激闘をご覧いただこう。

藤井らしい好手

藤井は昼食休憩を挟む55分の長考で▲7九玉と玉を深く囲った。

  • 57手目、藤井は戦場から玉を遠ざける

対する△6七歩を伊藤は悔やんだ。本譜は▲1二歩から香を入手して、▲2六香が好手だった。

  • 1筋を連打した後で繰り出した65手目の▲2六香

次に▲1五香△1四歩▲同香△同銀▲2二香成と進めば先手優勢だ。控室に来訪した杉本昌隆八段は「▲2六香は藤井らしさが出た手。2筋だけの一点突破を狙うのはプロ的には盲点。単純な狙いだが受けにくい、素朴な攻めだった」と評した。

後日、伊藤は「このあたりは読みの精度を欠いていましたが、それにしても10分ほどの考慮で△6七歩と垂らしたのはかなりまずかったです」と反省の弁。実戦の進行は先手優勢だ。

強烈な勝負手

形勢も持ち時間も苦しい伊藤だが、残り8分まで考えて指した△6六桂が飛車を見捨てる強烈な勝負手。

  • 84手目、伊藤が勝負に出た

藤井は「△6八銀が読みの本線で△6六桂はそれほど考えていませんでした」。▲同銀に△6八角も強打。▲同金は△同歩成▲同玉△6六銀▲同角に△6五香の田楽刺しが決まる。

本譜は▲8八玉と逃げたが、△8六角成▲8二角成に△7六銀が鋭い攻め。局後に「△7六銀をうっかりしていて、負けにしているかと思った」と藤井。この局面で持ち時間を使い切り、1分将棋に。伊藤も「相手の持ち時間の使い方でチャンスがきているかもしれないと感じていました」。

藤井に疑問手

  • 図は92手目△4一香。ここで先手が受けないと、△8七銀打から詰んでしまう

△8七銀打以下の詰めろを受けるため、藤井は慌てた手つきで▲8七銀と受けたが疑問手。AIの評価値は先手有利から後手有利に逆転した。

戻って、▲8七銀では▲7九桂△6八歩成▲7七銀打という受けがあった。以下△7八と▲同玉と進むと、7九桂が6七の地点も守っていて、後手の攻めが難しかった。藤井も「対局中には気が付きませんでしたが、▲7九桂で明快だったと思います」と後日に語った。