数手後に伊藤も1分将棋に突入。糸谷八段は「まだ罠があるはず」とつぶやいた。その言葉通り、藤井はさまざまな勝負手を繰り出していく。

  • ▲4三桂の王手が豊富な持ち駒を生かした迫力満点の勝負手

圧倒的な詰将棋力を持つ藤井の王手に、控室では「藤井さんに王手されたら怖い」の声も挙がった。以下△同金寄▲2三桂△同金▲3二銀△同玉▲4三歩成△同馬▲2一銀と進んだ。 ▲2一銀に対して本譜は△3三玉を選んだが、▲5五馬~▲6六飛成と進んだ局面は、先手玉への詰めろが外れたうえに、竜と馬が強力な守備駒となった。

魔法のような手順

  • 123手目、大激戦の様相を呈してきた

アベマで本局の解説をした中村太地八段は「受けがなかったはずの先手玉が安全に。魔法のような手順」と驚いた。続けて「ここでの後手の指し手の難易度が高かったと思います。ここからの指し手の正確さが『勝因』となりました」。

伊藤が叡王獲得に王手

△6七歩が好手。▲同竜は△7五桂の追撃がある。本譜は▲5九玉と逃げたが、くさびが入ったのが大きい。以下△4七桂から王手を続け、△3六銀成▲同玉△3五銀が自玉を安全にしながらの寄せ。▲3七玉に△2五桂を見た勝又七段は「この桂が最後に跳ねたんだね」とポツリ。

77手目の▲1四香以降、いつでも取られてしまう状態にあった1三桂が、最後の寄せで大活躍した。「勝ち将棋鬼のごとし」だ。

  • 138手目、1分将棋でありながら正確無比な寄せ

以下▲3八玉△2一馬▲1六銀△2七銀▲同飛△同歩成▲同銀に△1五桂が詰めろ逃れの詰めろで決め手。藤井は大きく息を吐き、姿勢を正してから投了を告げた。

  • 146手目、ここで藤井が投了した

大激戦を制した伊藤が、2勝1敗で叡王獲得に王手をかけた。藤井が初めてカド番のピンチを迎えた次局は、大注目の一戦となる。最後に、糸谷八段は「伊藤さんが秒読みで正確な寄せでした。『糸谷』なら逆転していました」と本局を総括した。

(第9期叡王戦五番勝負第3局 「勝ち将棋 鬼のごとし」 記/竹内貴浩)

秒読みの中でも正確な指し手が光り勝利を収めた伊藤七段が、この勢いのまま第4局を制し、絶対王者の牙城を崩す可能性は大いにあります。

しかし、初のカド番に追い込まれた藤井八冠も黙ってはいないでしょう。圧倒的中終盤力を武器に挑戦者の猛攻を跳ね返す姿は第3局でも健在であり、第4局でもそれが見られる可能性は十分あります。

2人の読みと意地がぶつかる第4局は、大熱戦になること間違いなしであり、今から目が離せません。

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