鹿児島県の南さつま市とマクニカ、西日本電信電話(NTT西日本) 鹿児島支店は、5月5日に、南さつま市における「自動運転による地域活性化に関する包括連携協定」を締結した。

  • (写真左より)NTT西日本 鹿児島支店 支店長の井原浩二氏、南さつま市 市長の本坊輝雄氏、マクニカ イノベーション戦略事業本部 スマートシティ&モビリティ事業部 事業部長の可知剛氏

少子高齢化による人手不足や2024年問題などにより、地域交通の維持や交通機関におけるドライバー不足などに関する社会課題が深刻化。その解決策として、自動運転などのモビリティ技術を活用した持続可能な公共交通・物流の実現が急務な状況となっている。

そこで、南さつま市とマクニカ、NTT西日本は、自動運転分野で包括的な連携と協力関係を築くことを目的に、南さつま市の地域課題解決に向けた自動運転社会実装に関すること、子どもたちが最新技術を体感する場の創出に関することなど、三項目について連携を図る協定を締結することとなった。

連携協定の締結式が行われた5月5日は、南さつま市で開催された「吹上浜砂の祭典」の最終日。締結式の会場となった、南さつま市総合保健福祉センターふれあいかせだの「いにしへホール」では当日、吹上浜砂の祭典の一環としてeスポーツイベントが開催されており、その合間の時間に締結式が実施された。

  • 5月3日~5日の期間、南さつま市では「吹上浜砂の祭典」が開催された

eスポーツイベントの途中ということもあって、締結式はまず、南さつま市 市長の本坊輝雄氏と、マクニカ イノベーション戦略事業本部 スマートシティ&モビリティ事業部 事業部長の可知剛氏、そしてNTT西日本 鹿児島支店 支店長の井原浩二氏による『グランツーリスモ7』のエキシビジョンマッチで幕を開けた。

  • 『グランツーリスモ7』のエキシビジョンマッチを実施

激戦を終え、あらためて壇上にて締結式を実施。「280平方キロメートルと広大な南さつま市では、地域内交通の活発化が重要」という本坊市長は、「皆さまかから愛される自動運転の環境づくりに向かって努力していきたい」との決意を新たにした。

  • 南さつま市 市長の本坊輝雄氏

そして、「さまざまな社会課題の中でも、地域の大切な交通を担っていく、持続的なモデルをどうしていくかは大きなテーマ」というNTT西日本の井原氏。「この連携協定で課題解決の方法を確立し、南さつま市の皆さまのお役に立てると確信しております」と力強く宣言。そしてマクニカの可知氏は、「(南さつま市の)坊津は、鑑真やザビエルなど、古来からいろいろな技術がこの地を通って日本に広まっていった」と地理的背景を例に挙げ、「新しい自動運転の技術を子どもたちが見て、触れて、今度はその子どもたちがグローバル人材として、坊津から世界に羽ばたく。そのきっかけになれば」との展望を明かした。

■南さつま市、マクニカ、NTT西日本が挑む自動運転による地域活性化

今回の連携協定にいたるひとつのきっかけは、2022年、南さつま市とNTT西日本との間に結ばれた「ICTを活用したまちづくり」に関する連携協定。NTT西日本は、ICTを活用し社会課題を解決するパイオニアとして、国内外の革新的な技術を取り入れながら、社会や産業のDX、地域におけるスマートシティの取組みを通じた地域活性化に取り組んでいる。その流れの中、新たな社会課題となる「自動運転による地域活性化」に向けての協定が締結されることになった。

NTT西日本の井原氏は、「市長のリーダーシップもそうですが、地域の方々の何かを一緒に盛り上げていこうとする力がすばらしく、本当に一体感がある街だと思います」と南さつま市に対する印象を述べる。

今回の取り組みは「持続可能な公共交通を確保することに加え、観光における移動手段の確保ならびに既存事業の再生・新産業の創出による将来的な人口流入拡大・雇用の確保を企てる」ことを目標としており、「南さつま市様が掲げる『住みたい 働きたい 訪れたい 誰もが主役になれる 南さつま』の実現を目指したい」との意気込みを明かした。

  • NTT西日本 鹿児島支店 支店長の井原浩二氏

国土交通省が行う令和6年度地域公共交通確保維持改善事業へ申請を行っており、採択されれば、今年の秋には実証実験が開始となる予定だ。その実証実験に使用される自動運転車両を手掛けるマクニカも、2023年7月にNTT西日本と連携協定を結んでいる。「マクニカは、横浜に本社を置く会社なので、各地域にうまくフィッティングしていくためには、全国に支店があって、フィールドエンジニアリングに長けているNTT西日本さんと連携するという形がベストであり、なくてはならないものだと思っています」とマクニカの可知氏。

  • マクニカ イノベーション戦略事業本部 スマートシティ&モビリティ事業部 事業部長の可知剛氏

特に、運転手がいない状態で安全に運行をする「レベル4」以上の運行を目指すためには、「混在した交通環境を整えていくことが必須で、そのためには自治体様を中心とした『道路インフラの整備』や『地域住民の方の社会受容性の向上』も必要になります」と、地域との連携の重要性を説明。

「自動運転社会実装もスマートシティ構築でも、打ち上げ花火のように実証実験だけで終わってしまうという状況を目にすることがあります。そのような意味で『連携協定』は一つのコミットメントの形であり、お互いの役割を明確にし、途中で終わらせないために有効だと思います」との見解を示した。

さらに、「自動運転車両は時速20キロでの運行になります。すでに定常運行が始まってから4年が経つ茨城県の境町でも、最初は、“こんな低速なバスを導入したら渋滞が増える”と言われたのですが、実証実験を重ねていくと、住民の方々の中に、バスを受け入れる姿勢が育まれていくんです」と、別地域での事例を挙げる。「実証実験は技術の実証でもありますが、住民の方に認知していただくための実験でもあります」と実証実験の意義を説明する。

さらに、自動運転が進むにつれて、「通信技術」の必要性が高まるという。「レベル4、レベル5になって、補助員もいない、本当の無人運行になると、遠隔で監視・制御する設備が必要なります。さらにそれを冗長化させる必要もあるので、まさに自動運転にとって通信は重要な技術です」とマクニカの可知氏。

NTT西日本の井原氏も、「地域活性化という点でお手伝いさせていただくだけではなく、自動運転には安定した通信は必要不可欠ですから、その点でも我々が力を入れていかなければいけないと思っています」とあらためて襟を正した。

締結式を終え、「やっとこの日を迎えたことが本当にありがたく、うれしいこと」という本坊市長は、「地域の交通については、日本中で課題になっていますが、その課題を解決するために、すばらしいパートナーと一緒にスタートラインに立てた」との心情を明かし、「我々もさまざまな環境整備をしていく必要はありますが、そう遅くない時期に実現できるのではないかと思っています」と笑顔を見せた。

  • 自動運転EVバスのパネルとともに

  • 実証実験にて利用を予定している自動運転EVバス車両イメージ ※GAUSSIN MACNICA MOBIRITY社 EVO(エヴォ)