国立唐津海上技術短期大学校(佐賀・唐津市)は4月8日、開校式および入学式を実施した。入学した18歳から37歳までの35名には、四級海技士(航海)の資格取得に向けた2年間のカリキュラムが用意されている。新入生、および学校関係者に現地で話を聞いた。

  • 唐津海上技術短期大学校が、開校式および入学式を実施。入学した航海専科の第1期生(短大1年生相当)のほか、本科の3年生(高校3年生相当)も式典に出席した

■玄界灘の荒波を乗り越えて

日本全国から桜の便りが届けられる4月上旬。虹ノ松原で有名な唐津湾に面し、”舞鶴城”の愛称でも親しまれている名城 唐津城でもソメイヨシノなど約220本の桜が見頃を迎えていた。

  • 続 日本100名城にも選定されている唐津城。その美しい天守閣は、唐津短大の正門からも望むことができる

そんな唐津湾に突き出した大島に位置する本校。これまでは中学校卒業者を対象とした唐津海上技術学校として(高等学校相当の)3年間の教育が行われてきたが、令和6年度からは高卒以上を対象とした2年制の唐津海上技術短期大学校として生まれ変わった。関係者によれば、機関科を持たない航海専科の海技短大としては、北海道の国立小樽海上技術短期大学校に次いで2校目になるという。

  • 独立行政法人 海技教育機構 国立唐津海上技術短期大学校(佐賀県唐津市東大島町13-5)

式典には新入生とその家族、そして来賓のほか、唐津海上技術学校の最後の卒業生となる25名の在校生も参加した。開校式では、独立行政法人 海技教育機構の田島哲明理事長が本校の開校を宣言。真新しい校旗を唐津海技短大の野村哲也校長に授与した。

  • 唐津海技短大の野村哲也校長(左)と、独立行政法人 海技教育機構の田島哲明理事長(右)

続いて実施された入学式では、新入生を代表して航海専科 第1期生の阿萬さんが「将来、立派な船舶職員になるため、勉学に励むことを誓います」と宣誓。

そして野村校長は、式辞のなかであらためて本校の歴史を振り返る。そのうえで「この地で、これまで唐津海上技術学校が果たしてきた役割、長い歴史のなかで築いてきた伝統を継承し、さらに発展させることで、未来の海運業界を担う人材を育ててまいります」と野村校長。新入生に向けては、規律、誠実、勤勉、健康といった校訓を紹介しながら「皆さんは玄界灘の荒波のなかで修練を積むことになります。様々な困難や苦労が待ち構えていると思いますが、それぞれの目標に向かって果敢に乗り越えてください」と呼びかけた。

  • 新入生を激励する野村校長

このあと唐津市長の峰達郎氏をはじめ、来賓から祝辞の挨拶。日本内航海運組合総連合会の栗林宏吉会長は「夢の実現を目指して、これからの貴重な学生生活で多くを学び、日本の海運業界を担う立派なシーマンになることを期待しております」という祝電が寄せられた。

■なぜ航海専科校に?

入学式の終了後、新入生の阿萬さんが抱負を語ってくれた。「将来、航海士として貨物船に乗船し、荷物を運ぶことでたくさんの人の役に立てたら嬉しい」と阿萬さん。航海専科を設置する学校でより詳しいことが学びたいと思い、本校を志した、とはにかんだ。

  • これから始まる学生生活に思いを馳せる阿萬さん

海技教育機構の田島理事長、唐津海技短大の野村校長もメディアに対応した。田島理事長は、海技教育機構の役割について「全国に8校ある海技学校を運営し、日本丸、海王丸、大成丸、銀河丸、青雲丸の5隻の練習船の運航を統括・支援しています」とあらためて説明する。

  • 海技教育機構の田島理事長(左)と唐津海技短大の野村校長(右)

  • 日本最大級の帆船日本丸のイメージ(本校の廊下に展示されていた模型)

なぜ本校は、航海専科校として開校したのだろう。そんな問いかけに田島理事長は「これまで唐津海上技術学校では航海系・機関系の専門科目、および普通科目を教える”両用教育”を実施してきました。3年間の教育課程+半年間の乗船実習で内航船員になる資格を取得するコースでしたが、カリキュラムが非常にタイトでした」と説明。航海専科校とすることで海技教育に割く時間を増やせた、とメリットを強調する。

近年は少子化の影響もあり、定員割れする水産高校も珍しくない。だんだん小さくなっていくパイを奪い合うのではなく、短大相当の学校にすることで募集の間口を広げられた、とも説明。

さらに海運業界からは『時代の変化、国際的な条約の改正に応じた高度なカリキュラムも組み込んでほしい』という要望も高まっている、と明かす。「たとえば現場からは、電子海図表示情報システムのECDIS(Electronic Chart Display and Information System)について習得した学生が欲しい、という声があがっています。ECDISは、いわばカーナビのような機能を持った装置のこと。いま外航船はもちろんのこと、多くの内航船にも搭載が広がっています。航海専科校としたことで、このECDISについて学ぶ時間を40時間ほど確保できました」とする。

ちなみに先行する小樽海技短大では、国家試験の合格率100%、就職率100%を実現した。田島理事長は「これは期待以上の成果でした。唐津海技短大においても、同様の成果を期待しています」と相好を崩す。

  • 廊下には数多くの求人票。企業名、所在地、所有する船舶から、休日の日数、給与なども記載。生徒の就職が決まった求人票には「祝 内定おめでとう」のタグが付けられていた

今後の課題については「定員45名で募集しましたが、入学者は35名にとどまりました。海運事業は日本の物流を支える大変重要な仕事ですが、一般の皆さんの目には触れにくい。学校の先生、高校生の親御さんたちに身近ではない産業、職業であることは否めません。では今後、どうやってメッセージを届けていくか。これからの私たちの仕事だと痛感しています」と田島理事長。

たとえば、2024年問題のひとつの解決策として注目されているのが、これまでトラックで長距離輸送していた貨物の一部を船舶が担う”モーダルシフト”の考え方。田島理事長は「そうした観点からも内航海運事業の存在を知ってもらえるのではないでしょうか。今後、機会をとらえてどんどんアピールしていけたら」と説明する。

  • 正門の様子

新入生35名の内訳について、野村校長は「18歳の若者だけでなく、社会人経験者も2割ほどいます。九州・沖縄エリアの出身者が7割弱を占めますが、関東エリア(東京、神奈川、埼玉)、近畿エリア(大阪、兵庫、和歌山)、中国エリア(岡山、山口)、四国エリア(愛媛)からも生徒が入学してくれました」とする。

ちなみに女子学生も募集しているが「女子寮がないといった理由もあり、今年度は男子のみの応募となりました」と野村校長。ただ、その男子寮も今年度(2025年3月)で閉鎖を予定している。「そもそも通う生徒が高等学校卒業者以上の年代に繰り上がります。小樽校に通う学生からは『寮がなくても、もう自分たちで生活できる年齢』という声も聞かれました。本校の寮は設備の老朽化も進んでいたことから、閉鎖が決定しました。いま入寮中の学生たちには、来春から周辺のアパートなどに移ってもらいます」と話す。

■充実した校内設備

このあと担当者に、校内の設備を案内してもらった。航海実習で使うという一室には、大型のシミュレータ機器。操舵室を模したもので、モニター、ハンドル、ECDISを設置している。「まずは航海計画を立てます。危険な箇所を確認したのち、仲間で役割分担を決めます。そして航海に乗り出します。各担当者と活発にコミュニケーションすることで海難事故を未然に防ぐ、そんな訓練も行っています」と担当者。

  • 紙の海図

  • こちらが操船シミュレータ。モニターには海の難所として知られる関門海峡(門司港周辺)の様子が映し出されていた

ECDISを学ぶ部屋もあった。海底の深さ、ほかの船舶のデータなどを表示する電子海図を使い、事故のない航海計画を立てることができる。

  • ECDISの利用イメージ

新入生たちは今後、本校にて1年6か月かけて基礎を学び、大型練習船を使った6か月におよぶ航海実習を経て、2026年3月に卒業する見込み。