文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス



 2023年1月で国内の販売を終了していたアコードが、フルモデルチェンジされて復活した。


ホンダの「最新」が詰まったフラッグシップモデル



アコード e:HEV

 ホンダは生産効率を高めるため2017年10月からグローバルでの生産体制の見直しに取り組み、その一環として中型車の完成車工場であった埼玉県・狭山工場を閉鎖してアコード、オデッセイ、レジェンド、クラリティなどが相次いでラインアップから外れることになった。



 販売終了するモデルが多いことで「大丈夫なの?」と心配する声も聞かれるが、いまは生産体制見直しという大鉈を振るい、生産もラインアップも適正化していく過渡期なのだろう。



 課題だったのは、クルマの基本と言われるセダンが国内ラインアップから消滅してしまっていたことで、アコードは国内フラッグシップとして復活させた。11代目となる新型アコードは進化型のe:HEV、最新ADAS(先進運転支援システム)であるホンダ・センシング360の国内初導入、ホンダ車初のGoogle搭載など、技術的なトピックスの多いモデルでもある。



 10代目に比べると全長が70mm伸びており、ファストバッククーペ風の伸びやかなスタイルおよびワイド&ローを強調。ディテールは比較的にシンプルながら、フォルムの美しさでみせているのだ。


ダッシュボードのダイヤルに多くの機能を集約



アコード e:HEV

 インテリアは一見するとシンプル。とくにインパネ中央のエクスペリエンスセレクションダイヤルに多くの機能を持たせたことでスイッチ類が激減していてクリーンな印象を受ける。ブラック基調で落ち着いた雰囲気だが、インパネやドアにはLEDアンビエントライトが配置され、温度操作や音声認識の発話に合わせて7色の光が連動するなど遊び心も感じられる。




より運転を楽しめるように進化したハイブリッドシステム


 現在のホンダ車の主力パワートレーンとなっているe:HEVは、駆動用と発電用のモーターを持つハイブリッドシステムで、これまでは2つのモーターが同軸となっていたが、アコード用は平行軸となった。メリットはそれぞれのギア比の最適化、駆動用と発電用のモーター特性の最適化、レイアウトの自由度の向上が図れたことで、発電出力や駆動トルクが向上し、エンジンドライブモードではより静かな高速クルージングが可能となった。




アコード e:HEV

 同じ直噴2.0Lエンジン搭載のシビックe:HEVとスペックを比較すると、シビックのモーターは最高出力135kW(184PS)/5000-6000rpm、最大トルク315Nm/0-2000rpmなのに対してアコードのモーターは最高出力135kw(184PS)/5000−8000rpm、最大トルク335Nm/0-2000rpmとなり、トルクが増すとともに高回転域までパワーの落ち込みが少ないことがわかる。



 実際に走らせてみても、モーター駆動特有の太いトルク感がひときわ濃厚で力強い加速感が味わえた。



 シビックから採用されているダイレクトアクセルと呼ばれる機能は、強めにアクセルを踏み込んださいにエンジン回転数を早めに高めて素早く発電してパワーを供給するもので、加減速の多いワインディングロードではレスポンスの良さが気持ちいい。エンジンは発電、モーターが駆動するシリーズハイブリッドモードでのウィークポイントを払拭しているのだ。




アコード e:HEV

 さらにアコードのe:HEVの新しいところは、アクセルオフ時の回生ブレーキをパドル操作によってこれまでよりも強くできることだ。先代では最大減速Gが0.11だったところを0.2Gまで拡大。パドル操作によって6段階の減速度が用意されており、街中ではアクセルからブレーキへの踏み替え頻度が大幅に削減されて運転負荷が減り、ワインディングロードではリズミカルな走りが楽しめるようになっている。



 先代よりも高張力鋼板の使用比率を拡大したボディは剛性感が高く、サスペンションがしっとりとしなやかにストロークする感覚が強くなった。アダプティブダンパーであることも加わって、フラットライドで安定感が高いうえに、じつに上質な乗り心地となっている。ハンドリングはほどよくスポーティで、プレミアムセダンと呼べるほどだ。


カメラと5つのレーダーを組み合わせる「ホンダセンシング360」



アコード e:HEV

 ホンダセンシング360は、カメラだけではなく5つのミリ波レーダーを採用して全方位をセンシングすることで従来よりも検知能力が大幅に高まっている。他の車両や歩行者との衝突を避けるとともに運転負荷を減らすものだ。ホンダはレジェンドで世界初のレベル3自動運転を発売したが、そこで培った見知を活かして低コストで高度なADASを実現したわけだ。



 いまの日本市場でセダンは苦戦気味なのでアコードがヒットするのは難しいかもしれないが、ホンダの最新技術をアピールするのに相応しいモデルであるのは確か。低全高なセダンだからこそ実現できる上質でスポーティな乗り味を体験すれば、SUVやミニバンでは味わえない価値があることを実感できるだろう。