■『アンメット』に登場するような患者たちの存在知ってほしい

――ドラマ化にあたり、子鹿先生から制作陣にリクエストしたことはありますか?

子鹿:僕は、どのエピソードが選ばれても、それをどう調理していただいても構わないのですが、やはり原作を愛してくださっている読者の方や、この作品で勇気づけられたという患者さん、そのご家族の方たちを裏切るような形にはしたくありません。だから、そういった方たちが見ても納得していただけるものにしてほしいと、最初にお願いしました。そういう意味でも、1話は本当によかったですね。原作とは設定が異なりますが、それでも最後のシーンは、僕も脚本を読んでちょっと涙が出てしまいました。

米田:本当ですか!? それはよかった、安心しました(笑)。実は、プロデューサーとして医療ドラマを本格的に手掛けるのは初めてなので、物語上で医療の場面をどう描くか迷ったときに、原作があって子鹿先生がいてくださるというのは、本当に心強いんです。最初の頃に先生ともお話ししましたが、後遺症という厳しい現実を提示する作品だからこそ、やはり医療的な裏付けというか、筋が通ったものにしたい。そのうえで、エンターテインメントとして視聴者のみなさんにお届けしたいと思っています。

――『アンメット』を通して、視聴者の方にいちばん伝えたいことは何ですか?

子鹿:僕が育ってきた昭和の日本社会では、重度の障害を抱えた人は施設などに入れて保護することを良しとしてきました。実は、僕の兄にも重度の障害があり、当時は施設に入所するしかなかったのですが、入所の際の兄の悲しみを目の当たりにし、母も僕もずっと罪悪感を感じて生きてきました。『アンメット』は、そんな僕の経験が原点になっているんです。

米田:人間(この社会)は、光が当たるところに目が行きがちで、その光によってできた影には目が向かない。影の側にいる人たちは、社会の隅に追いやられてしまう——この作品が訴えるテーマは、先生ご自身の経験から生まれたものだったんですね。以前、先生は「三瓶の根底にあるのは怒りだと思う」とおっしゃっていましたが、今のお話を聞いて合点がいきました。そして、この作品をお預かりする責任を今まで以上に感じています。ドラマ化するにあたっては、その根幹の部分の捉え方を間違ったり、軽んじてしまうことのないよう肝に銘じて、最終回まで走り抜けたいと思います。

子鹿:年月が経ち、今では施設入所以外の福祉サービスも増え、共生可能な社会になりつつありますが、いまだに、後遺症で苦しむ人や障害を抱えた人に無関心な人が多いと思います。ドラマを見てくださる方には、『アンメット』に登場する患者さんのような方たちの存在を知ってほしいですし、決して他人事だと思わずに、少しでも理解していただけたら。そして、本当の意味で共生社会の大切さが伝わり、後遺症と闘う人やそのご家族、医療関係者の方に、少しでも希望の光を注ぐことができたら幸いです。

米田:この作品に登場する患者さんの多くは、手術を受けても完全には回復できず、後遺症と闘いながら生きていくことを余儀なくされます。そんな中で、当事者とその家族はどうやって希望の光を見出すのか、このドラマでは、ミヤビというヒロインを通して、それを見つけていきます。

くしくも僕自身、このドラマを企画した直後、母に脳腫瘍が見つかりました。予後不良の状態でしたが、それでも母は、小さな希望を見つけては笑顔をのぞかせていました。ほんの少しでも希望があれば、人は今日を明日につなげて前を向ける。家族としてそれを体感したからこそ、作品を通して伝えられることがあるのではないかと思っています。『アンメット』がオンエアされた翌日の火曜日は、世の中が月曜日よりほんの少し明るくなってくれたら……。切にそう願っています。

■子鹿ゆずる
元脳外科医。「○○だったけど転職したら夢の印税生活で賞」略して「転生賞」にて『M’s BRAIN』で大賞を受賞。原作を担当する『アンメット―ある脳外科医の日記—』が『モーニング』(講談社)で連載中。
■米田 孝
カンテレ制作部所属。2017年『僕たちがやりました』でドラマ初プロデュース。その後、『健康的で文化的な最低限度の生活』『まだ結婚できない男』『竜の道 二つの顔の復讐者』『恋なんて、本気でやってどうするの?』などを手掛ける。

【編集部MEMO】第1話あらすじ
1年半前、不慮の事故で脳を損傷した脳外科医の川内ミヤビ(杉咲花)は、過去2年間の記憶をすべて失い、新しい記憶も1日限り、寝て起きたら前日の記憶がなくなってしまう記憶障害に。毎朝5時に起きて机の上の日記を読み、失った記憶を覚え直すことから1日が始まる。現在は、関東医科大学病院脳神経外科の教授・大迫紘一(井浦新)の治療を受けながら、記憶をなくす前の研修先だった丘陵セントラル病院に勤務しているが、医療行為は一切行わず、看護助手として働いている。そんなある日、アメリカ帰りの脳外科医・三瓶友治(若葉竜也)が新たに着任し、ミヤビが院内を案内していると、急患が運び込まれてくる。患者は女優の赤嶺レナで、検査の結果、脳梗塞と判明。夫でマネージャーの江本博嗣の同意を得て、すぐさま治療が行われることになり、三瓶はミヤビにも手伝うよう指示するが、看護師長の津幡玲子(吉瀬美智子)がそれを制止。三瓶は、治療後、救急部長の星前宏太(千葉雄大)から、ミヤビが記憶障害であることを聞かされる。治療を受けたレナは目を覚ましたものの、言葉を出すことがほとんどできず、後遺症による失語症と診断。女優として絶望的な状況を目の当たりにしながら、何もできない自分にミヤビは葛藤する。そんなミヤビに、三瓶は記憶障害のことを知った上で、「人手が足りないんだから、できることはやってもらわなきゃ困る」と言い放ち、ミヤビにも医師として診察や診断をさせるよう、院長の藤堂利幸(安井順平)に直談判して……。