ここからは、通勤時間帯に運行される「有料着席サービス」の一例として、東海道線を走る特急「湘南」についてレポートしたい。同列車は2021年3月、「湘南ライナー」を格上げする形で、特急列車として運行開始した。朝は小田原駅・平塚駅から東京駅または新宿駅へ、夕夜間は東京駅または新宿駅から平塚・小田原方面へ運行されている。途中の茅ケ崎駅と藤沢駅に全列車が停車。それ以外の停車駅は列車によってさまざまだが、どの列車も戸塚駅や主要駅の横浜駅、川崎駅を通過しており、都内の品川駅または大崎駅まで停車しない。

  • 特急「湘南」は東海道線を走行する列車と東海道貨物線を走行する列車が存在する

特急「湘南」を含め、JR線の指定席特急券は各駅に設置された指定席券売機から購入できる。利用する方面と乗車駅・降車駅、何時台の列車に乗るかを決めていくと、その時刻から近い順に発車する列車と、普通車またはグリーン車のボタンが表示される。乗る列車と席種を決めた後、着席する座席も選べる。最後に、乗車区間の乗車券も一緒に買うか、特急券のみ購入するかを選び、その金額を精算すれば特急券が発券される。乗車日より前でも特急券は買えるので、慣れないうちは前日までに購入しておいたほうが焦らずに済むだろう。

今回、筆者は上り「湘南4号」(小田原駅6時20分発、東京行)に平塚駅から乗車した。前日に乗車券・特急券を購入したが、発券した時点でどの号車も窓側を中心に半分以上の座席が埋まっていた。空席が少なくなる中、筆者は8号車の窓側の席を確保した。

  • 平塚駅から上り「湘南4号」に乗車した

乗車当日、上り「湘南4号」は6時37分に平塚駅へ到着。定刻通り6時40分に発車した。この時点で、8号車の車内に乗客はほとんどいなかったが、これから先、次第に乗客が増えていくと思われる。その証拠に、座席上のランプに注目すると、多くが黄色に点灯していた。

関東エリアを走るJR東日本の特急列車は、各座席の上にランプを備え、空席のままだと赤色、予約された区間が近づくと黄色、利用中は緑色に変わる。実際、平塚駅を発車した「湘南4号」が茅ケ崎駅、辻堂駅、藤沢駅、大船駅と停車するにつれて、8号車にも多くの人が乗ってきた。大船駅を7時0分に発車すると、以降は品川駅までドアが開かなくなる。

東海道線の特急「湘南」「踊り子」はE257系2000番代(9両編成)・2500番代(5両編成)を使用。過去に中央本線の特急「あずさ」「かいじ」や房総方面の特急列車で活躍したE257系が転用され、車内外をリニューアルした。座席は青緑色のモケットが特徴的で、背もたれのリクライニングと、座面のスライドが可能。背面テーブル、ドリンクホルダー、ポケットやフックも使用できる。ただし、改造車両であるためか、電源コンセントは窓側のみ設置されていた。

  • 特急「湘南」「踊り子」に使用されるE257系の車内(提供 : 写真AC)

他の乗客の様子を見てみると、スマートフォンを見ながら時間を潰す人が多い中、朝食や仮眠の時間に充てる人もいたようだった。朝食のおにぎりやバッグなどを置くため、背面テーブルも活用していた様子。平日朝の普通列車は6時台からでも座れなくなる可能性が高い。そう考えると、追加料金が必要とはいえ、混み合う時間帯に座って移動できることの恩恵は大きいだろう。

特急列車同士で抜きつ抜かれつ、「湘南4号」は東京駅へ

ところで、「湘南4号」は鉄道ファン目線でも面白い場面が見られる。同列車が東海道線の辻堂駅から藤沢駅へ走っている途中、なんと後から発車した「湘南22号」(小田原駅6時30分発、新宿行)に抜かれた。「湘南22号」は小田原駅を発車後、東海道貨物線を走行し、茅ケ崎駅と藤沢駅のみ停車する。都内に入ると大崎駅と渋谷駅に停車し、終点の新宿駅には7時44分着となっている。

茅ケ崎駅と藤沢駅は東海道貨物線上にも「湘南」専用ホームがあり、そちらにも多くの人が並んでいた。なお、朝の上りは「湘南22号」から「湘南26号」までの3本が新宿行として運転される。

「湘南22号」に抜き去られた「湘南4号」はその後、大船駅に停車。同駅を7時0分に発車するのだが、進行方向右手に注目すると、横須賀線を走行する「成田エクスプレス7号」が「湘南4号」と同時刻に大船駅を発車する。そのため、少しの時間だが特急列車同士の並走も体験できた。

今回は「湘南4号」の走り出しが若干早かったようで、根岸線が磯子方面へ分かれるまでに「成田エクスプレス7号」を抜き去って行った。「成田エクスプレス7号」は「湘南4号」が通過する戸塚駅と横浜駅にも停車し、東京駅に7時48分、終点の成田空港駅には9時2分に到着する。

一方、「湘南4号」は「成田エクスプレス7号」を抜き去った後、東戸塚駅から保土ケ谷駅へ走行中に横須賀線の普通列車を追い抜き、横浜駅を通過する際、先行していた高崎行の普通列車も追い抜いた。横浜駅から先は京浜東北線と並走し、東海道線よりこまめに停車する列車を横目に、都内へ向けて快走する。「湘南4号」をはじめ、朝の通勤特急・ライナーは早い時間帯に運行するものも多いが、このような列車同士の離合を眺めることも、乗車中の楽しみになるかもしれない。

多摩川を渡って都内に入り、「湘南4号」は7時26分に品川駅到着。筆者の近くの席に座っていた乗客を中心に、8号車からも数人が降りて行った。終点の東京駅には、定刻通り7時35分に到着。駅周辺がオフィス街のため、東京駅で降りる人もいれば、別の路線に乗り換える人もいるだろう。乗換えの場合、ここから先は必ずしも「座って通勤」とはいかないが、都心までの乗車で混雑を避けられることは大きなメリットといえる。

  • 朝の東京駅丸ノ内駅舎

今回は朝の時間帯に乗車したが、終業後の帰宅時間帯に特急列車や座席指定列車に乗るのも良い判断だろう。仕事で一日疲れた後、座って帰れる席が確約されているという安心感は大きい。ただし、着席保証の恩恵にあやかるには、各社規定の指定料金または特急料金が必要となる。まずは生活費に余裕があるときに一度試してみて、少しずつ「有料着席サービス」を使いこなしてほしい。