JR東日本は3月14日のダイヤ改正と同時に運賃を改定した。消費税の加算を除くと初の実質運賃改定となる。国鉄時代の因習を解消した「電車特定区間の大幅値上げ」「東京~熱海間の東海道新幹線と東海道本線の分離」などが話題だが、JR他社にまたがる「通算加算方式」がややこしい。「サンライズ瀬戸・出雲」など長距離列車の運賃はどう変わるだろうか。
JR東日本の運賃改定に関して、おもなポイントとして「電車特定区間」の解消と「通算加算方式」の採用が挙げられる。「東京~熱海間の取り扱い変更」も「通算加算方式」の採用によるもの。それぞれの影響を調べてみた。
「電車特定区間」解消後も、定期券はJR東日本が安い?
「電車特定区間」は国鉄時代につくられた制度。大都市で並行する私鉄と運賃で競争するため、国鉄の運賃を私鉄の低運賃に近づけようという特例だった。今回はJR東日本エリア全体の値上げとなった上に、通常の運賃より安く設定していた「電車特定区間」もなくなったため、これに該当する区間は2段階の値上げが行われることとなった。
たとえば、品川~横浜間はJR東日本と京急電鉄が並行しており、競合関係といえる。JR東日本の運賃改定前は310円(現金運賃、以下同)で、京急電鉄は320円。JR東日本のほうが10円安かった。JR東日本の運賃改定後、品川~横浜間は350円となり、JR東日本のほうが40円高くなる。このように、JR東日本と他の私鉄で運賃が逆転する区間も出てくるとみられる。
ただし、定期券になるとJR東日本の大きな割引率が効いてくる。品川~横浜間の1カ月通勤定期券で見ると、JR東日本の場合、運賃改定前の8,950円に対し、改定後は1万480円で、1,530円値上げに。それでも京急電鉄は同区間の1カ月通勤定期券を1万3,350円としているので、JR東日本が値上げしても京急電鉄より安い。こうした区間は他にもあるだろう。つまり、JR東日本が「電車特定区間」を解消し、運賃を値上げしても、定期券利用者の他社への移行はそれほど進まないだろうという目論見がある。
通勤定期券について、ほとんどの企業は従業員に合理的な(安価な)経路とするよう規定しているはず。定期券利用者は規定上の理由から、JR東日本より高い大手私鉄の経路へ変更しにくいと考えられる。通学定期券も家計の負担を増やすことになる。
東京~熱海間、東海道新幹線と東海道本線を別路線化
「東京~熱海間の取り扱い変更」によって、JR東海の東海道新幹線とJR東日本の東海道本線の共通扱いは解消される。変更前は東海道新幹線と東海道本線を同じ路線として扱っていた。これは国鉄時代に東海道新幹線を建設した際、「東海道本線の別線増設扱いで営業キロを共通とした」という扱いだったことに由来する。そのため国鉄時代は東京~熱海間の乗車券で、東海道新幹線と東海道本線のどちらも乗車できた。もちろん東海道新幹線に乗車する際、新幹線特急券が別途必要になるため、総額では東海道新幹線経由のほうが高いわけだが。
その後、国鉄を分割民営化した際、東海道新幹線はJR東海、東海道本線はJR東日本の管轄に分かれた。これにともない、東京~熱海間を含む乗車券は新幹線経由か在来線経由か明確に記すようになったが、「東海道新幹線は東海道本線の一部」という考え方は残ったため、どちらを選択しても営業キロは同じになる。東京~熱海間を往復する際、片道を東海道新幹線、片道を東海道本線とした場合でも、営業キロと運賃は同じだった。
しかし、JR東日本側が値上げを実施するため、JR東海とJR東日本の路線を同じ運賃にはできない。そこで、運賃制度上も明確に別会社の路線とした。JR東日本の運賃改定後、東京~熱海間の運賃は東海道新幹線経由で1,980円、東海道本線経由で2,090円。往復する場合は、「東海道本線の片道きっぷ2枚」「東海道新幹線の片道きっぷ2枚」「東海道新幹線と東海道本線を1枚ずつ」という組み合わせになる。
さらに、東海道新幹線と東海道本線が別路線扱いとなったことで、「東京(山手線内)~東海道新幹線~熱海~小田原」という乗車券と、「小田原~東京」という乗車券の組み合わせも設定できる(発券方法によっては購入できない場合もある)。乗車券は距離が長いほどキロ単価が安くなるから、東京~熱海間の片道2枚分の乗車券より少しだけ安くなる。
重複区間がない品川~小田原間の場合、同区間77.1kmの片道きっぷ2枚だけでなく、「品川~東海道新幹線~小田原~東海道本線~品川」という「一筆書ききっぷ」も理論上は設定できる。品川駅から乗車する場合、154.2km(品川~小田原間の営業キロ77.1km×2)の片道きっぷとなるから、JR東海が定める営業キロ154.2kmの運賃2,640円に、JR東日本が定める77.1kmの加算運賃70円を加えた2,710円と計算できる。
JR東日本の運賃改定後、品川~小田原間の片道運賃はJR東日本が1,410円、JR東海が1,340円(特急料金等が別途必要)。運賃だけを見れば、東海道本線の往復(2,820円)より「一筆書ききっぷ」のほうが110円安い。ただし、東海道新幹線の往復(2,680円。特急料金等は除く)と比べて30円高くなる。いままで「一筆書ききっぷ」のほうが安くなるケースが多かったが、品川~小田原間の場合はJR東日本の加算運賃によって高くなる。
ここまでが東海道新幹線と東海道本線を別路線扱い(別の会社の路線)とするしくみだが、東海道新幹線と東海道本線の営業キロが引き続き同じとなっているところが筆者にはひっかかる。現在、東海道新幹線の東京~熱海間は東海道本線と同じく営業キロ104.6kmで扱われているものの、東海道新幹線は直線的に建設されており、実際のキロ数は95.4kmとされる。別の会社、別の線路として扱うなら、東海道新幹線も実キロにすべきではないだろうか。
JR東日本の「加算運賃」とは何か
ところで、品川~小田原間で東海道新幹線と東海道本線の「一筆書ききっぷ」を作る場合、運賃について「JR東海が定める営業キロ154.2kmの運賃2,640円に、JR東日本が定める77.1kmの加算運賃70円を加えた2,710円と計算できる」と説明した。JR東海もJR東日本も営業キロは同じなのに、いったんすべてJR東海の営業キロで計算している。どういうことだろうか。
今回、JR東日本が実施する運賃改定で、最もややこしいところがここだろう。「JR各社にまたがるきっぷの計算方法」は、基準額の運賃に加算額を加えるしくみになっている。この基準額となる運賃は、いままで「本州3社の共通運賃」と説明されてきた。つまり、本州3社(JR東日本、JR東海、JR西日本)からJR北海道、JR四国、JR九州にまたがるきっぷは、いったん全区間を「本州3社の共通運賃」で計算し、そこにJR北海道、JR四国、JR九州の加算額を加えた。
しかし、JR東日本は運賃改定により、JR東海やJR西日本より高い運賃体系になった。これにともない、「本州3社の共通運賃」は「JR東海・JR西日本の共通運賃」となり、JR東日本はJR北海道、JR四国、JR九州と同じ「加算額組」に移行した。JR東日本は運賃改定の説明で「基準額表」としている。しかし、「JTB時刻表」の「JR線営業案内」を見ると、「JR東海・JR西日本(幹線)の運賃表」と表記され、「JR北海道、JR東日本、JR四国、JR九州にまたがってご乗車になる場合の『基準額』となります」と説明されている。つまり、JR東海とJR西日本は「基準組」、他のJR各社を「加算組」と分類した。
さらにややこしい点として、本州3社とJR北海道には、いまも「幹線」「地方交通線」の運賃体系がある。幹線と地方交通線をまたがる場合、地方交通線を割増運賃にするための「擬制キロ」「換算キロ」を使って計算する必要がある。たとえば、JR東日本の幹線にある駅からJR東海の地方交通線にある駅まで乗車券を購入する場合、JR東日本の幹線の営業キロ、JR東海の幹線の営業キロ、地方交通線の換算キロをすべて加算した後、まずJR東海の運賃表を見て基準額を算出。そこにJR東日本の加算運賃を加える必要がある。
寝台特急「サンライズ出雲」の場合、運行区間の東京~出雲市間はすべて幹線のため、最初にすべての走行区間の営業キロを計算する。次に基準額表で営業キロに対応した運賃を定めた後、JR東日本の走行区間分の加算運賃を加える。運賃改定前の乗車券は、本州3社の幹線953.6kmで1万2,210円だった。JR東日本の運賃改定後、ここに東京~熱海間の加算運賃110円を加えた1万2,320円となる。
長野駅から飯田駅までの乗車券を計算する場合、途中の辰野駅までJR東日本の幹線で、営業キロは97.2km。辰野駅から飯田駅まで乗車する飯田線は地方交通線で、換算キロは73.1km。合計で170.3kmとなり、基準額(JR東海運賃)は3,080円。ここにJR東日本の営業キロ97.2km分の加算運賃100円が加わり、合計で3,180円となる。乗車経路の幹線の営業キロと地方交通線の換算キロを足して運賃表で割り出し、JR東日本の営業キロに応じた加算運賃を足すだけと考えれば、少しだけ難易度は下がるかもしれない。
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JR旅客6社の運賃に対する考え方。基準額を算出する場合、本州3社とJR北海道は幹線と地方交通線の換算キロを使い、JR九州とJR四国は擬制キロを使う。さらに、JR北海道、JR東日本、JR四国、JR九州の距離に応じた加算運賃を加える
幹線と地方交通線のキロ数を合算する場合、「合計距離数が11km以上」の場合は地方交通線で換算キロを使う。JR四国とJR九州は「擬制キロ」と表記しているが、換算キロと同じ扱いで良い。「合計距離数が10km以下」の場合は地方交通線の営業キロを使う。
また、JR東日本だけは加算額に「幹線用」「地方交通線用」があり、それぞれについて加算額を加える。このあたりはかなりややこしいので、フローチャートにまとめた。実体としては、「幹線と地方交通線の合計が10km以下」というきっぷを使う機会は少ない。これは「合わせて10km以下だったら全区間地方交通線扱いとする」と考えておこう。
こうした計算は乗換案内アプリや運賃計算アプリを使えば自動的にできるから、わざわざ自身で計算する必要はない。しかし筆者をはじめ、「乗り鉄」としては、自身が乗るルートについて、片道きっぷにするか「一筆書ききっぷ」にするか、それとも「トクトクきっぷ」にするかの判断材料として、運賃を比較して確認したい。
JR東日本の加算運賃制度は一見ややこしいが、実際にはいままで本州3社とJR北海道、JR四国、JR九州にまたがるきっぷで経験済み。「加算組」にJR東日本が加わっただけと考えれば、抵抗感もやわらぐだろう。JR各社はもはや別の企業といえるだけに、私鉄や地下鉄の直通運転のように、境界駅ごとで初乗り運賃を取るしくみもできるはずだが、今回は加算運賃制度の採用で「JRグループの乗車券通算制度」を維持できたといえるかもしれない。
それにしても、もう少しすっきりした制度にできないか、とも思う。




