福井県の杉本達治知事は、3月21日に行われた定例記者会見の質疑で、3月16日に開業したハピラインふくいのトラブルについて「申し訳なかった」とコメントした。読売新聞、中日新聞、福井新聞などが報じた。おめでたい開業ムードの中、何が起きたのだろうか。

  • ハピラインふくいは福井県内の旧JR北陸本線を引き継ぎ、3月16日に開業

ハピラインふくいは福井県が中心となって設立された第三セクター鉄道。北陸新幹線金沢~敦賀間の延伸開業にともない、並行在来線の北陸本線敦賀~金沢間がJR西日本から分離された。このうち福井県内の区間をハピラインふくいが引き受け、施設等を保有し、列車を運行する。管轄区間は敦賀~大聖寺間の84.3km。一方、石川県内の大聖寺~金沢間はIRいしかわ鉄道が引き受けた。

福井県はハピラインふくいの筆頭株主であり、福井県知事は会長職である。本来なら開業の喜びをコメントすべきところだが、お詫びになってしまった。複数の報道をもとに、一体何があったのかをまとめた。

3月16日、福井駅では自動券売機が1台しかなかったため、きっぷの購入希望者が長蛇の列を作った。列車の発車時間が迫り、乗客がきっぷを買えない状態になったため、駅員が乗車証明書を配り、車内または降車駅で精算するように促した。

越前花堂駅、森田駅、春江駅、丸岡駅では、9時頃から自動券売機に釣り銭の硬貨が詰まり、現金できっぷを買えない状態になった。17時30分頃に復旧したが、それまでの間は乗車証明書を配布し、降車駅で精算する対応を取った。

福井駅の有人窓口と精算窓口も大混雑となった。福井駅の自動券売機できっぷを買えなかった人に加え、越前花堂駅、森田駅、春江駅、丸岡駅できっぷを買えずに乗車した人、きっぷを買って乗ったが開業日の記念に持ち帰りたい人などの対応が重なった。

窓口の混雑を通り抜け、列車に乗ろうとすると、列車が大混雑になっていた。午前中、福井駅から金沢方面は4両編成だったが、敦賀方面はほとんどの列車がその半分の2両編成だった。ハピラインふくいとしては、長期間にわたる需要調査の結果で作られたダイヤだったと思われるが、開業時の乗客は想定を超えた。

  • 開業当日、敦賀~福井間の普通列車は多くの乗客で混雑していた(3月16日の取材時に編集部撮影)

たしかに不手際だったかもしれないが、これはもう乗客も含めて「うれしい悲鳴」だろう。けが人や体調不良者が出るほどの報道がなくて良かった。

福井県知事は、「ブルーインパルスを見物したい人が多く想定外だった」と語ったという。ただし、この不手際はイベントのせいだけとはいえない。

「紙のきっぷ特需」が発生した

福井駅の自動券売機が1台しかなかったことは責められるべきではない。敦賀~大聖寺間は、JR北陸本線時代の2018年9月に「ICOCA」対応エリアとなっており、鉄道を日常的に利用する人はそのまま交通系ICカードを使えば良いはず。それにもかかわらず、自動券売機が混んだ理由はおもに2つ、「普段は鉄道を利用しない、交通系ICカードを持たない人が利用した」「記念にきっぷが欲しかった」からではないかと考えられる。

大都市以外はマイカー利用者が多い。鉄道を日常的に利用しない人は交通系ICカードを持たない。福井県では交通系ICカードの普及が遅かった。福井駅を拠点とする京福バスの交通系ICカード導入は2024年2月24日からで、バス利用者にも交通系ICカードが普及していなかったかもしれない。福鉄バスは交通系ICカードを導入済みだが、福井鉄道は現在も対応していない。

北陸新幹線の延伸開業と同じくらい、ハピラインふくいの誕生を喜び、乗ってみたいという人が多かった。だからなにか記念品がほしい。開業はもちろん、ブルーインパルスが来訪するほどの「お祭り」なら、大抵の鉄道事業者は折りたたみテーブルを出してきっぷを手売りにするところだが、それはなかっただろうか。

ハピラインふくい単独で乗り放題の「ハピラインふくい1日フリーきっぷ」(大人1,500円)、福井鉄道・えちぜん鉄道にも乗れる「ハピラインふくい開業記念 鉄道3社共通1日フリーきっぷ」(2,000円)、あいの風とやま鉄道・IRいしかわ鉄道と連携した「あいの風・IR・ハピライン連携 北陸3県2Dayパス」(大人2800円)などの企画乗車券も設定されたから、こちらを積極的に売る手もあった。これで記念需要は吸収できたし、短距離きっぷを記念にされるより売上は増えただろう。

越前花堂駅、森田駅、春江駅、丸岡駅の券売機が故障した件は残念に思う。事前の発券テストができなかったか、不十分だった。しかし、普段はほとんどの利用者が交通系ICカードを使うだろうから、ここも「紙のきっぷ特需」が混乱に拍車をかけた。無人駅でも初日に案内係は配置されたと思う。記念きっぷうりばも設けてほしかった。

福井駅ではもともと自動券売機を増設する予定があり、3月18日に繰り上げて設置したようだ。いまは開業記念の熱も下がり、落ち着いているだろう。しかし、今後も大規模なイベントがあれば同じような混雑になってしまうおそれがある。多くの人々がハピラインふくいを試乗しに来た。見方によっては鉄道利用者を増やす良い機会だった。今後の教訓としてほしい。

定期券の切替えに課題

開業後、初の平日となった3月18日、他のエリアから定期券購入のために訪れた通勤通学利用者が精算窓口で長蛇の列を作ったとも報じられた。これは利用者にとってかなり気の毒なことだった。

ハピラインふくいの定期券のうち、磁気券は事前販売が行われ、3月3日までに福井駅改札付近またはインターネットで予約の上、3月13日までに敦賀駅、武生駅、鯖江駅、福井駅、芦原温泉駅の改札口付近で引換え(現金のみ)となっていた。クレジットカードで購入したい場合は開業日以降とされた。開業前だから仕方ないとはいえ、少し面倒に思える。

交通系ICカードの定期券はさらに大変になる。ハピラインふくいの交通系ICカードは開業日以降に販売されたから、3月18日までに交通系ICカード定期券を購入し、JR時代の定期券を払い戻す必要があった。これも開業日前に交通系ICカードのシステムを変更できないから仕方ない。とはいえ、通勤通学前の手続きに時間がかかったら遅刻してしまう。いったん交通系ICカードのチャージ分から普通運賃を差し引き、後日精算にはできなかったか。これはハピラインふくいだけでなく、これから新路線を開業する鉄道事業者とシステムも含めて課題になるだろう。

しかし、こうした混乱は「喉元過ぎれば熱さを忘れる」というもので、また同じことを繰り返す場合が多い。筆者は運転免許を更新するたびに、「なんで立ったまま待たされるんだろう。整理券を出してくれたら周辺の公園や喫茶店で待機できるのに」と思うのだが、いまだに改善されない。利用者も「滅多にないからいいや」とあきらめてしまう。

ハピラインふくいのダイヤを観察する

列車の混雑も開業ムードのにぎわいによるもので、そろそろ喉元過ぎた頃だろう。ハピラインふくいの列車は福井駅を境として運用が分かれている。福井駅から武生・敦賀方面は2両編成の列車が多く、福井駅から芦原温泉・金沢方面は4両編成の列車が多い。これも需要予測と車両数から決まったものだろう。列車ダイヤから車両運用を予測してみた。

  • ハピラインふくいの列車ダイヤ(OuDiaで作成)

ハピラインふくいによると、JR北陸本線時代より3割増便したという。時刻表で比較すると、大聖寺駅からIRいしかわ鉄道へ乗り入れる列車の運行本数は変わらず、日中時間帯は毎時1本。福井~芦原温泉間は朝夕のピーク時間帯に本数が多い。武生~福井間はおもに増便された区間で、日中時間帯に毎時2本となった。敦賀~武生間は日中時間帯に毎時1本となっている。

福井駅のホームに掲出された「乗車口案内表」を見ると、芦原温泉・金沢方面の半数以上が4両編成に対し、武生・敦賀方面のほとんどが2両編成。同じ毎時1本でも、敦賀方面の輸送力は金沢方面の約半分ということになる。

  • 福井駅ホームに掲出された「乗車口案内表」(読者提供)

ハピラインふくいの開業にあたり、JR西日本から2両編成の521系を16本(計32両)引き継いだ。これらの情報から推察すると、16本中14本が2両編成または4両編成で運用され、残り2本が予備(待機)になっていると推察する。予備編成は運用中の車両が故障したときの待機や定期検査のため、普段は運用されない。しかし開業日の混雑が予想できたなら、2本のうち1本は稼働しても良かったし、他社から拝借する方法もあった。いまさら指摘しても仕方ないことではあるが、こうした突発的な需要増について、他の鉄道事業者と協力体制を作っておくことも大切と思われる。

快速列車は敦賀~福井間で朝夕と深夜に設定されている。ハピラインふくいの利用者説明会によると、福井発敦賀行の快速列車は大阪方面、敦賀発福井行の快速列車は米原駅からの列車と接続しているとのこと。深夜に運転される敦賀発福井行の快速列車は、JR西日本が運行する米原発敦賀行の臨時快速列車と接続している。なお、ダイヤ改正は柔軟に行っていくとのことだった。

利用者説明会ではその他、観光列車についてもIRいしかわ鉄道・あいの風とやま鉄道と連携しながら検討すること、既存車両に簡易テーブルを設置し、イベント車両としての使用を検討していることなどが回答された。

JR貨物からの線路使用料収入は年間17億円程度を見込んでいるものの、年間7億円の収入不足となるため、6年ごとに運賃の値上げも計画しているという。

明るいニュースとして、1年後に王子保~武生間で新駅「しきぶ駅」が開業する。越前市畷町にあり、県立武生商工高校から徒歩5分とのことで、通学に便利な駅になる。2023年10月に「ハピラインファンクラブ」が発足しており、年会費1,000円で、1,500円の1日フリー乗車券を提供する。沿線の協賛店でも、割引やプレゼントといった特典提供があるなど、地域連携も始まっている。

ハピラインふくいは2019年に「福井県並行在来線準備株式会社」として設立され、採用、教育も含めて5年にわたる準備を重ねてきた。それでも予想外のことが起きる。運行は始まったばかりだから、地域とともにサービス向上を図ってほしい。個人的には観光列車の実現と、えちぜん鉄道・福井鉄道との連携企画などを楽しみにしたい。