WOWOWで4月6日から放送&配信がスタートする日米共同制作のドラマ『TOKYO VICE Season2』(WOWOWプライム/WOWOW4K/WOWOWオンデマンド 毎週土曜21:00~ 全10話 ※第1話は無料放送。WOWOWオンデマンドでSeason1全8話配信中)。1990年代の東京を舞台にヤクザが牛耳る闇社会のリアルを、日本の大手新聞社に就職した米国人新人記者ジェイク(アンセル・エルゴート)の視点から描く本作。ジェイクと意気投合する若きヤクザのリーダー佐藤を鮮烈に演じ、Season2でも活躍が期待される俳優・笠松将を直撃。自身のキャリアにおける本作の位置づけや、笠松が海外の俳優にも引けを取らず堂々と芝居ができる理由を語ってもらった。

笠松将
ヘアメイク:松田陵(Y’s C) スタイリング:柴原啓介

――『TOKYO VICE 』での若きヤクザのリーダー佐藤役で、日本のみならず、世界各国の視聴者から熱視線を集めている笠松さん。Season1への出演を契機に、日本の大手事務所から独立し、米ハリウッドの大手エージェントCAAと契約を結ばれたことも大いに話題になっています。ズバリ笠松さんのキャリアにおける『TOKYO VICE 』の位置づけは?

『TOKYO VICE』の"おかげ"でこうなったのか、『TOKYO VICE』の"せい"でこうなったのかは、まだわからないですが(笑)。いまのように、日本のハイレベルな作品に関わりながら、海外の大型作品にも出演するような生き方をするにあたり、『TOKYO VICE』が転機になったことだけは間違いないですね。この作品との出会いは、僕にとって実はかなりドラマチックでもあって……。俳優業に行き詰まり、壁を感じて光が見えなくなっていた時期に巡り合った作品なんです。あの頃の自分からすると、こんな風に30代を生きていること自体、ちょっと信じがたいので。

――なぜチャンスをつかめたと思いますか?

僕の場合、海外の作品にどうしても出たいと思っていたわけでは全くなくて。ずっと自分に与えられた役や作品と向き合って、掘って、掘って、掘り続けているうちに、気がついたらいつのまにかブラジルまで到達していた、というような感覚なんです(笑)。別に日本でも海外でもどっちでもいいから、とにかく芝居で認められたかった。ターゲットを絞って、そこに向けてカスタムすることでステップアップしていくやり方もあるとは思いますが、時代は常に回っているから、 一つの役や芝居をとことん突き詰めていけば、一周回っていつの日かまた、それが最先端になるはずだと信じてやってきた。その結果、僕の場合はマイケル・マンから電話がかかってきて、WOWOWに呼ばれたっていうだけなんです。

  • 共演したアンセル・エルゴート(右)と渡辺謙
    Photo: James Lisle/WOWOW

――ジェイク役のアンセル・エルゴートさんとお芝居を共にする中で学んだことは?

日本の俳優は芝居の技術も高いから、編集する時に繋ぎやすいように、何テイクでも同じ芝居を繰り返せる人が多いんです。でもアンセルの芝居は、感情が乗っかるシーンなんかは特にテイクごとにまったく違うから、すごく刺激的で面白い。繋がりのことなんて気にも留めずにやっているアンセルを見て、「オレもそうしよう」って思ったんです。むしろ多少芝居が繋がってなかろうが、「それでも見ていたい」と思えるような芝居がしたいので。

――ハリウッドでも活躍する俳優陣と肩を並べる上で、笠松さんが意識されていることや心がけていることはありますか?

この仕事をしていると、「カメラに自分がどう映るか」「お客さんから自分はどう見えるか」ということばかりに意識が向きがちですが、そこについては監督やカメラマンのようなプロの方々に、判断を委ねるべきだと思うんです。むしろ僕ら俳優がもっともこだわらなければいけないのは、普通の人が見てもどこが違うのか全くわからないけど、見る人が見たら絶対にすぐにわかるような、細かい芝居だったりするんですよ。見え方とか繋がりみたいなことは全く気にせず、そこにどれだけ注力できるかに尽きるような気がします。

  • Photo: James Lisle/WOWOW

――Season1のラストでは、笠松さん演じるヤクザの佐藤が何者かに襲われます。「あの後、佐藤はどうなったのか…?」と、佐藤の安否が話題になっていましたが、今回こうしてSeason2を前に笠松さんが取材稼働されているということは、佐藤はひとまず無事だということで……(笑)。Season2でも大いに活躍すると思っていいんですよね?

いや、これは答えるのが難しい質問ですね。僕のことを大好きな人が読むなら、「活躍します」って言うし、僕のことをそれほど好きじゃない人が読むなら、「あ、僕じゃなくて、僕以外の他の人たちが、どんどん活躍しますよ」って言いたいです。もし僕が「活躍します」って言ったことで、「佐藤が活躍するなら私は見ない。私は別の俳優のファンだから」って、その人がドラマを観る機会を逃してしまったら、もったいないじゃないですか。

――いやいや(笑)。佐藤=笠松さんの活躍を快く思わない人は、いないと思いますよ。

まずは観てもらわないことには始まらないし、作品を観てくれる人や、僕のことを応援してくれる人たちのことを「ガッカリさせないようにしよう」という一心で作品と向き合っている気がします。とはいえ、人はどんなことにもすぐに幻滅してガッカリすることができるから、それを目標に掲げてしまうとなかなか難しいところではあるんですが(苦笑)。

それこそ昔は、何にでもなれるような「テクニカルな俳優」に憧れたりもしてましたけど、最近は「お芝居をしている」という感覚がどんどんなくなってきて。「自分ってこういう人間だからね」って、叩きつけに行っているような感覚の方がむしろ近いのかもしれません。「俳優」という仕事に対する意識が、少しずつ変わってきているとも言えますね。

――笠松さんのように「海外でも活躍したい」と考えている若い俳優陣は、きっと少なくないと思います。もし彼らに何かアドバイスを送るとしたら、どんな言葉をかけますか?

「海外作品に一発出たらまた次も呼んでもらえる」と思われているかもしれないですが、現実はそんなに甘くない。僕にとってハードな道のりであることはいまも変わらないんです。選択肢が増える分、自分で選ばなければいけないものも確実に増えるので、より自分の内面と向き合ってメンタルを武装しておかないと、本当に何屋だか分からなくなるし(苦笑)。より大きな世界を泳ぐためには、確固たる自分を持たない限り、あっというまに溺れます。

「笠松くん、日本でやってたらもっと大スターになれたのに」とか「海外の作品に出てたけど、チョイ役だったね」とか言われようが、別にそんなの全然構わないんですよ。先がわからないのがおもろいんだよって。 それでも諦めずにやるのか。それとも諦めるのか。5年とか10年とか、それこそ20年とか経ってから振り返った時に、誰の人生が一番面白いと思えるか。それこそが俳優業の醍醐味だと思っているから。僕にとってのその新たな人生の幕開けがまさにこの『TOKYO VICE』だったという感じなんですよね。

――なるほど! まさにいま、最前線で戦っている笠松さんならではのアドバイスですね。

僕としては自分から何かを狙いに行くというより、どんな時でも常に作品と精いっぱい向き合うことができれば、向こうから自然と声がかかると思っていて。「日本で一旗揚げてから、海外に行こう」という発想は危険だと思います。なぜなら、それは自分で日本と海外は「箱が違う」と認めてしまっているということだから。ただ、僕自身が実際にそうだったんですが、言葉が話せないと不安に感じるし、同じ芝居を100回やらされたりするから、セリフもだんだん出てこなくなってめちゃくちゃキツいです。日本でもハリウッドでも、トップクラスの製作チームであれば撮影自体のレベルに正直それほど大差はなくて、英語圏だったら英語、中国語圏だったら中国語、韓国語圏だったら韓国語が話せてトップレベルの深い部分で芝居ができる俳優なら、世界中どこの国でやっても変わらないと思います。

トップクラスと出会った時に、自分もそれに見合うような芝居ができる俳優じゃなければ即座にふるい落とされるけど、逆に高い要求に応えられる器があってスキルも身についていれば、相手がハリウッドだろうが、マイケル・マンだろうが、一切ビビる必要はない。結局のところ、これまで自分がどんな風にお芝居と向き合い、どうやって生きてきたのかが、一流の人たちを目の前にすると露骨に出てしまうだけのような気がします。しっかり積み上げてきたものがありさえすれば、いつかきっと報われる。たとえセリフ一言の役しかもらえなかったとしても、腐らずやってきた結果がいまの自分につながっている。大丈夫。ちゃんと地道に頑張ってれば絶対誰かがどこかで見てるから。才能あるヤツが。