近年、急速に認知度を高めつつある「AGA(男性型脱毛症)治療」。すでに薄毛は治る時代になっているらしい……が、実際のところどうやって治せばいいのか、その治療法の詳細まではまだ浸透しきっていない。

AGA治療の大枠を紹介した前回に続き、今回は、1日の治療で半永久的な効果が得られると言われている「自毛植毛」にフォーカス。薄毛に悩むマイナビニュース社員・Aが実際に湘南AGAクリニック新宿南口院を訪れ、笠井敬一郎院長に手術を施してもらった!

  • 湘南AGAクリニック新宿南口院、笠井敬一郎院長。自毛植毛の全国NO.1ドクター。2,000件以上の自毛植毛をサポートしてきた第一人者。著書に『AGA治療革命 飲む発毛剤から自毛植毛、そして毛髪培養へ』(幻冬舎)

■自毛植毛の最大のメリットは「一度定着すれば半永久的に生え変わる」こと!

AGA治療の一種、自毛植毛。簡単に言うと、「AGAの影響を受けにくい元気な毛を、AGAで生えてこなくなった箇所に新たな毛穴を作って移植する手術のこと」だと笠井先生は言う。

「髪の毛にも男性ホルモンのレセプター(受容体)に違いがあって、前頭部や頭頂部はAGAの影響を受けやすく、側頭部や後頭部はAGAの影響を受けにくくなっているんです。ちょうど『サザエさん』に出てくる波平さんをイメージしてもらえるとわかりやすいと思います」

つまり、側頭部や後頭部に残っている元気な毛を、禿げてしまった前頭部や頭頂部に分散することで、髪の毛が生えているエリアを全体的に均等化していくというわけだ。

「植毛のいい点は、手術すれば8〜9割の確率で髪の毛が生えてくること。AGAの影響を受けにくい髪の毛を移植するので、一度定着すれば半永久的に生え変わるというメリットがあります。だたし、植毛した毛は残りますが、その周りにある植毛していない毛はAGAの影響を受け続けるので、植毛後も『プロペシア』(AGA治療の飲み薬)を飲む必要があります」

ちなみに、移植元の髪の毛は二度と生えてこない。これは、ただ単に抜いた髪の毛を移植するのではなく、毛が生え変わっていくのに必要な「毛包幹細胞」ごと移植することによる影響で、自毛植毛手術には何よりこの部分が重要になってくるのだという。

では、今度は逆に後頭部が薄く見えるのではないかと心配になるが、そういうことではないらしい。

「体毛はひとつの毛穴から1本しか毛が生えていないのですが、頭髪だけは基本的にひとつの毛穴から2本以上生えています。通常、後頭部の毛は4〜5万本ほど生えていて、自毛植毛手術ではそのうち4分の1程度、毛穴にして約5,000個であれば移植しても問題ない(後頭部が薄くなったようには見えない)とされています」

当然、手術費用は病院によって異なるが、基本的にはどれだけの数の毛包を植毛するかに比例して金額感が変わってくるのだという。

■実際に自毛植毛手術にトライ

ざっくりと自毛植毛の概要がわかったところで、いよいよ手術当日の午前8時、Aさんがクリニックを訪問。今回は1,500グラフト(毛穴の数に相当。1グラフトあたり約2本の髪の毛)の自毛植毛手術に臨む。

まずは笠井先生と相談しながら、生え際のかたちを調整していく。あまりキレイな横一直線になっているとそれはそれで不自然なので、少しギザギザにしてみたり、角額に自然な丸みが出たりするよう手鏡を見ながら認識をすり合わせていく。

続いて、1平方センチメートルごとにラインを引き、マーキングしていく。

笠井先生曰く、「通常、1平方センチメートルあたり50から100の毛穴があり、ひとつの毛穴から約2本の毛が生えているので、100〜200本の髪の毛が生えている計算になります。自毛植毛手術では、1平方センチメートルあたり30から40個の毛穴しか作れないので、60~80本くらいが新たな毛として生えてくる計算になります」

続いて、移植元である後頭部、側頭部の髪の毛を採取しやすくなるよう刈り上げていく。ここまで約1時間。

頭部に部分麻酔をかけるが、これがかなり痛みを伴うようだ。よって、まずは麻酔を打つための麻酔をかけていく。

移植元となる後頭部、側頭部もマーキング。

麻酔で意識が落ちたタイミングで、頭部へ麻酔をかけていく。やはり激しく痛むようで、時折、無意識ながら「痛い!」と声を上げるAさんだったが、意識を取り戻したあとは痛みがあったことなどすっかり忘れていた。

頭部への麻酔が終わったら、さっそく1グラフトずつ採取スタート。

採取した毛包は、すべてが植毛に回せるわけではないようだ。利用できるものとそうでないものを看護師さんたちが顕微鏡で取捨選択していく。

植毛に利用できる髪の毛。毛の周りに付着している白い膿のようなものが、先ほど「毛が生え変わっていくのに必要」だとお伝えした「毛包幹細胞」だという。

毛包を採取したら、今度は毛包の移植先となる穴(スリット)を開けていく。

「うちはラインスリットといって、少し縦長の切れ込みを入れていきます。穴で開ける病院もあって、実際に穴で開けるほうが技術的には簡単ではあるのですが、皮膚に対する影響が強く、移植先周辺に生えている毛にダメージを与えてしまいやすいんです。

一方、ラインスリットの場合、下手な人がやると毛根を傷つけちゃうのですが、ちゃんと技術がある人が行えばこちらのほうが美しく、自然な見え方になります。また、手術後も傷が閉じるように塞がっていくので、移植した毛が抜けにくいというメリットもあります」

拡大して見ると、縦長にラインが入っていることがわかる。

ちなみに、毛包を採取した後頭部、側頭部はこんな感じ。麻酔からここまで約5時間が経過。このあと小休止を挟み、いよいよ植毛へ。

午後2時頃から植毛をスタート。植毛は看護師さんが二人一組で担当してくれた。

左手の親指の爪あたりに採取した毛包を乗せておき……

先ほど開けたラインスリットに一株ずつ植え込んでいく。

拡大してみると、生え際の最前列に新たな毛が植え込まれているのが確認できる。すごい技術……精巧すぎる。

植え込みにかかった時間は約3時間半で、午後5時半頃には1,500グラフトの植毛がすべて終了。

短い毛がびっしりと埋め込まれていることがわかる。植え込んだ毛は数日ですべて抜けるが、頭皮の中には毛包がしっかり残っているので、1年くらいかけて徐々に新たな毛が生えてくるのだという。

湘南美容クリニックでは、1年後に8割以上の植毛が定着していなかったら再手術できるという保証がついているが(今回は1,500グラフトの植毛だったので、1,200グラフト=髪の毛で約2,400本)、実際に再手術を望む患者は年1%いるかどうかという程度だという。

手術後は、だいたい3日間で植毛が定着するので、それまでは患部をひっかいたり、こすったりしないことが重要で、手術後は逐一頭部の出血を綿棒で吸っていくなどのケアも大事になってくるのだという。また、激しい運動やヘアカットも術後2カ月くらいは控えるなど、とにかく毛包へのダメージを最小限に抑えることも重要なのだとか。

術後のAさんに、この日の感想を聞いてみると……

「疲れはどっときましたが、痛みは全然ありませんでした。基本的には常に意識がある中で施術が行われたので、もしかしたら怖い思いをするのかと思っていたのですが、常に看護師さんたちがメンタルケアもしてくださったので、終始安心しながら手術を終えることができました。

笠井先生は症例数もすごく多い方なので、本当に頼りがいがある病院だと感じましたし、何よりみなさんのチームワークのよさには脱帽です(あっ、これから帽子を被って帰るんですけど)。

事前に一番懸念していた痛みに関しては本当に全然感じなかったので、自毛植毛を考えている人は、その点を心配する必要はないと思います。1年後が楽しみです!」

ちなみに、この日被ってきた自前のベースボールキャップはキツめのサイズ感だったため、患部への刺激を考慮し、病院で販売されていたニットキャップを購入。患部に当たらないよう慎重に被って帰路についたAさんであった。

もしこれから自毛植毛を考えている人がいるならば、手術日はゆるめのニットキャップなどを持参するとよさそうだ。