大谷翔平の元通訳・水原一平氏の事件から見えてきたのは…? プロスポーツ…

 ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手が3月25日(日本時間26日)、自身の通訳を務めた水原一平氏の違法賭博関与の発覚に伴い、初めて記者会見に応じた。だが、賭博に関することは、疑問が残る内容も多くあった。ここでは、プロスポーツにおけるコンプライアンスとガバナンスの観点から、今回の騒動を解説していく。【第1回】
 

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大谷翔平の元通訳・水原一平氏の違法賭博関与から見えてきたもの

 近年は、他のプロスポーツでも賭博に関しての摘発が相次いでいる。NFL(プロフットボール)でも、ギャンブルポリシー違反者へのペナルティが近年連続して課されている。
 
 賭博とプロスポーツは本来隔絶されなくてはならないことである。理由は「八百長」と近接領域にあるためだ。プロスポーツ選手および、プロスポーツチームにおけるリスク管理、すなわちコンプライアンスとガバナンスに関する質の向上が見られないのは、日本もアメリカも同様である。
 

 
 この背景には、公私混同の環境が、特に高額年俸のスター選手に与えられることが大きい。簡単に言えば、活躍する選手の意向に沿った形でスタッフも入れ込めるし、対応も併せてもらえる。いわゆる「わがままの効く」チーム環境になってしまうことが影響している。こうしたことが通用するのは、スター選手とよばれる者しか通らない。
 
 「甘え」は結果としてコンプライアンスをほころばせ、ガバナンスをゆがめてしまう。例外を「金」になる選手が買っているような構図だ。自分が入れたいスタッフには、公私の区別なく様々な仕事をさせてしまう、特に日本人が海外でのサポート受ける際の特徴でもあるが、こうした境目のないサポートには常に危険が潜んでいる。そのためにも本来はチームやMLBなど組織全体でコンプライアンスなどについて、確立したものを提供する必要がある。






プロスポーツのコンプライアンス・ガバナンスについて
 
 アメリカでは日常生活に、賭博が溶け込んでいる。だから、容易に関わりやすいのが現状である。ただ、その身近な存在は、中毒性のあること、経済的な影響が大きくなること、社会的にも影響が大きくなりやすい、
 
 そして犯罪行為に最接近することを考慮すれば、避けることが望ましい。自制心をもってできるならば問題ないが、この問題はたびたびクローズアップされているし、特にスター選手がこれにかかわることは、イメージの損失が大きい。
 

 
 選手たちが競技以外のことに対して、知識がない前提で、何がいけなくて、何がゆるされるのか、特にアクセスしてはいけないことは何か、判断に迷った時に、相談するのはクレジットのついた、第三機関であろう。決して知り合いやなじみの通訳や友人ではない。その第三機関の設置義務付けはMLBや各チームが行う必要があり、公私混同の慢性化を断ち切る必要がある。
 
 人物の身辺調査として、逮捕歴や通院歴など、調べるのはもとより、交友関係などもしっかり調査すべきだった。チームとそれに関わる関係者(ステークホルダー)には継続して監視できるように、やはり第三機関に権限を与えておくべきだ。
 
 問題はその際に選手らのプライバシーとの垣根をどうするかである。今回の事件のようにおそらくプライべートの中で、選手と関係者が現金に関して授受があるのか、その対象が違法賭博に関することであり、この辺まで踏み込んで監視するのは現実としては難しい。しかし、先述の人物の裏付けと、これだけの大金が絡んでいる中で、事前になんらかの情報は「その筋」から入ってきていたのではないかと推察される。
 
 今回は、元通訳の話が先行して、当の「被害者」であるはずの大谷選手が後追いの状態になっている。そうではなく、情報をつかんだ時点で、関係者にどういう対応をさせるか、チームでの対応、MLBなど機構としての対応、捜査機関への届、プレスでの発表をシステマティックに事前にリスク対応として決めておく必要がある。また、これには訓練を定期的におこなっておくべきだろう。






プロスポーツチームが構築すべきことは?
プロスポーツのコンプライアンス・ガバナンスについて
 一般企業では緊急事態や災害時に活用するBCP(業務継続計画)を作ることが推奨されている。プロスポーツチームでもそれを構築すべきである。
 

 
 コンプライアンス違反や事件など、またゲームでのマスギャザリングと称される事故などにも対応し得るもので、このプロスポーツチーム用BCPを構築し、かつ定期的な訓練と並行して、選手らへの教育や研修、そしてアップデートを繰り返して、質を向上させる。
 
 プロスポーツチームはこうした分野で課題が多いのに、このBCPの整備と関連した訓練等で遅れている。






プロスポーツ選手を取り巻く現状と課題

 今回の事件では約7億円の被害とのことだが、7億円もの被害が出るまでになんとかならなかったのか、という疑問もある。
 
 先述のBCPでも被害軽減は最重要事項で項目を入れるべきだが、ここまでの高額被害になるまで、大谷選手自身も気が付かないような手法だったのか、口座そのものを元通訳に管理させていたとしたら(あるいは容易にアクセスできるようにしていたか)、それは庶民感覚からはずれていると言わざるをえない。
 

 
 個人のレベルから教育が必要なのもプロスポーツや芸能の特徴だろう。野球などには精通しスペシャリストでも世間、特に「魔の手」が手ぐすねを引くプロスポーツの「取り巻き」に、無知な状態で飛び込ませることのほうが無謀なのかもしれない。かれらは「カモ」を待っているようなものなのだから。選手自身が判断できないことに、関わらない。そして判断に迷った時に相談できる組織・機関の設置が必要だ。繰り返しだが、それは知り合いの通訳ではない。

 
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プロフィール
古本 尚樹(ふるもと なおき)

 
学歴
・北海道大学教育学部教育学科教育計画専攻卒業
・北海道大学大学院教育学研究科教育福祉専攻修士課程修了
・北海道大学大学院医学研究科社会医学専攻地域家庭医療学講座プライマリ・ケア医学分野(医療システム学)博士課程修了(博士【医学】)
・東京大学大学院医学系研究科外科学専攻救急医学分野医学博士課程中退
 
職歴
・浜松医科大学医学部医学科地域医療学講座特任助教(2008~2010)
・東京大学医学部附属病院救急部特任研究員(2012~2013)
・公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター研究部 主任研究員(2013~2016)
・熊本大学大学院自然科学研究科附属減災型社会システム
実践研究教育センター特任准教授(2016~2017)
・公益財団法人 地震予知総合研究振興会東濃地震科学研究所主任研究員(2018~2020)
・(現職)株式会社日本防災研究センター(2023~)
 
専門分野:スポーツ選手やチームの危機管理・コンプライアンス・ガバナンス、防災、BCP(業務継続計画)、被災者、避難行動、災害医療、
※キーワード:防災や災害対応、被災者の健康、災害医療、地域医療
 
(株)日本防災研究センター
(医学博士、阪神・淡路大震災記念人と防災未来センターリサーチフェロー)
古本 尚樹
個人ホームページ https://naokino.jimdofree.com/

 

 
【了】