東急電鉄は昨年8月から、東横線で平日夕夜間に有料座席指定サービス「Q SEAT」を開始した。大井町線・田園都市線で好評だった「Q SEAT」を東横線にも波及させ、運行開始前の報道公開では、担当者から「乗車率は70%くらいを見込んでいる」とのコメントもあった。

  • 東急東横線「Q SEAT」の車内。2023年8月10日からサービス開始した(2023年8月8日の報道公開で筆者撮影)

サービス開始から半年以上が経過し、その間に指定券の半額キャンペーンやドリンクのプレゼントキャンペーンを行うなど、東横線「Q SEAT」のPRに力を入れているように見える。ドリンクキャンペーンが行われていた2月の平日、渋谷を訪れた筆者は帰りに東横線「Q SEAT」を利用した。

大井町線で好評の座席指定サービス、東横線にも導入

東急電鉄の有料座席指定サービス「Q SEAT」は、ロングシート・クロスシート転換車両を使用し、平日夕夜間に運転される一部の急行で実施。指定されたクロスシートでゆったり座って移動できる。大井町線の「Q SEAT」車両は7両編成の3号車で、側面全体をオレンジ色でラッピング。東横線の「Q SEAT」車両は10両編成の4・5号車で、2両とも側面全体を赤色でラッピングしており、遠目で見ても十分なほどわかりやすい。

「Q SEAT」の利用にあたり、座席指定券が必要で、料金は乗車区間を問わず大人・こども一律で500円。座席指定券は急行停車駅の窓口で購入(現金のみ)するか、「Qシートチケットレスサービス」に会員登録し、その際に設定したクレジットカードで料金を支払う。指定券の前売りは行わず、当日分のみの発売となっている。

  • 5050系4000番代の一部編成に「Q SEAT」車両を連結(2023年8月8日の報道公開時に筆者撮影)

  • 「Q SEAT」車両は4・5号車。赤色のラッピングを施した(2023年8月8日の報道公開にて筆者撮影)

東横線の「Q SEAT」サービスは、平日夕夜間に渋谷駅を始発駅とする元町・中華街行の急行に適用され、渋谷駅19時35分発を皮切りに、30分おきに計5本を運行している。東横線内の停車駅から「Q SEAT」車両を乗降りする際、座席指定券が必要だが、みなとみらい線内はフリー乗降区間となり、座席指定券がなくても「Q SEAT」車両に乗車できる。

元町・中華街駅に到着した後、「Qシート」車両を連結した編成は座席の向きを変えることなく、渋谷行の急行として折り返す。この列車は座席指定を行わないため、渋谷駅まで指定券なしで「Q SEAT」車両に乗車できる。

サービス開始から3カ月ほど経った昨年11月、東急電鉄は東横線「Q SEAT」の座席指定券を半額にするキャンペーンを実施。年明けの1月にも半額キャンペーンの第2弾を行った。2月5~29日の平日、渋谷駅と中目黒駅から乗車する人限定でキリンのドリンクをプレゼントするキャンペーンも行い、月~水曜日は「生茶 リッチ」、木~金曜日は「イミューズ ヨーグルトテイスト」を配布した。

東急電鉄は2月29日から1カ月にわたり、「東急線アプリ」利用者を対象に無料クーポンの抽選を行うことも発表。日曜日から木曜日までの各日17時に「東急線アプリ」で抽選を行い、当選すると、翌日の東横線「Q SEAT」を無料で利用できる。乗車する列車と区間は自由に選択でき、座席は乗車時に案内されるという。

東横線ユーザーにとってみれば、こうしたおまけ要素が加わることで、「試しに乗ってみよう」と考え、乗車機会の増加につながるかもしれない。しかし裏を返せば、それだけ利用率が芳しくないこともうかがえる。では、現在の東横線で「Q SEAT」の利用者はどれだけいるのだろうか。

渋谷駅から元町・中華街駅まで、「Q SEAT」の乗車人数は

渋谷駅で鉄道各線の乗換え時間と経路について調べた日の帰り、筆者は元町・中華街駅まで東横線の「Q SEAT」を利用し、帰路についた。先述の通り、座席指定券は乗車区間に関係なく、大人・こども一律で500円。渋谷駅の窓口で座席指定券を購入した後、渋谷駅を20時5分に発車する急行「Q SEAT 201号」に乗車した。

「Q SEAT 201号」は20時1分、渋谷駅4番線に入線。発車まで短時間ながら車内の準備が行われ、乗車口で駅係員に座席指定券を見せた後、車内に入る。筆者は紙の座席指定券を提示したが、他の乗客を見た限りだとスマートフォン提示のほうが多く、チケットレスの利用者が多いようだった。「Q SEAT」サービスを提供する4・5号車はそれぞれ渋谷方のドア1カ所からのみ乗降でき、他のドアは横断幕で封鎖される。ちなみに、渋谷駅ヒカリエ改札の窓口にて、東急線キャラクター「のるるん」ぬいぐるみを使ったポップアップが飾られ、懸命に利用を促していることがうかがえた。

  • 19時以降の渋谷駅、明治通り地下のホームから「Q SEAT」の急行が発車

乗車した日はドリンクキャンペーン期間中だったため、車内に入ってすぐ、クーラーボックスを抱えた係員から飲料を受け取った。「Q SEAT」車両のクロスシートは一部座席を除き、ドリンクホルダーを使用可能。もらった飲料をドリンクホルダーに置き、少しずつ飲み進めながら車内で過ごした。ドリンクホルダー以外にも、全席で電源コンセントと無料Wi-Fiサービスを利用できる。

この日、筆者は4号車を利用したが、20時5分に渋谷駅を発車した時点で、4号車の乗客数は見える範囲で11人(筆者を含む)だった。次の中目黒駅では、東京メトロ日比谷線の列車とほぼ同時に入線。ここで新たに2人乗車し、キャンペーンの飲料を受け取って着席した。その後、自由が丘駅でも1人乗車。一方、学芸大学駅、田園調布駅、多摩川駅で「Q SEAT」の4号車に乗降する人はいなかった。

  • 座席指定サービスの提供時、「Q SEAT」の座席はクロスシートに。一部の席を除いてドリンクホルダーも利用できる(2023年8月8日の報道公開で筆者撮影)

  • 電源コンセント、無料Wi-Fiサービスも利用可能(2023年8月8日の報道公開で筆者撮影)

車内を見た限り、乗客たちはスマホを見たり読書したりしながら過ごしていた様子。一般車両のような混雑がないので、どの乗客もゆったりくつろいでいるように見受けられた。貫通扉越しに後ろの車両の様子を見ると、立席客が密接するほど混雑している。

武蔵小杉駅に到着すると、中目黒駅から乗車した1人が「Q SEAT」車両から降りた。続いて日吉駅でも3人が降りるなど、次第に乗客が減り始めた。綱島駅では、4号車から下車する人は見られなかったが、一般車両から多くの人が降りたため、依然として席が埋まっているとはいえ、一般車両の車内もだいぶ余裕ができてきたように見えた。菊名駅でも一般車両から多くの利用者が下車。菊名~横浜間を走行中、フリー乗降を可能にするため、6カ所のドアに張られた横断幕を乗務員が畳み、乗降口を開放した。

20時40分、横浜駅に到着。ここから元町・中華街駅まで、座席指定券なしで「Q SEAT」車両を利用でき、すべてのドアから乗降りできる。東横線内で乗車した「Q SEAT」利用者が2人ほど下車し、代わって3~4人ほど新たに乗車した。その後、馬車道駅で「Q SEAT」利用者の大半が下車し、最終的に筆者も含め数人を残した状態で、終点の元町・中華街駅へ20時49分に到着した。

  • 元町・中華街駅(元町口)すぐそばの元町ショッピングストリート

筆者が乗っていた4号車は、最も多いときで14人乗車していたが、それでも着席定員(1両あたり45人)の約3割。残念ながら、昨年の報道公開で担当者が話していた「乗車率70%」には及ばなかった。JR線が乗り入れない中目黒駅、自由が丘駅、日吉駅での乗降もたしかにあったものの、数えられる程度にとどまった。

大井町線と東横線で考えられるさまざまな違い

先に「Q SEAT」サービスを開始した大井町線は、2009年に溝の口駅まで延伸して以降、混雑の激しい田園都市線から大井町線の各駅を経て都心へアクセスするバイパスの役目を担うようになっていった。加えて、大井町線内の急行停車駅で池上線、目黒線、東横線、田園都市線(渋谷~二子玉川間)に乗換え可能であり、各路線と接続する駅から「Q SEAT」に座って帰ることもできる。

大井町線の停車駅は乗車専用、田園都市線の停車駅は降車専用と分けているため、たとえば大井町駅から「Q SEAT」を利用した場合、溝の口駅までの約20分間、必ず車内で過ごすことになる。都市部とベッドタウンを結んでいることを考えると、昨年の報道公開が行われた時点で、大井町線の「Q SEAT」利用者が平均8割というのもうなずけた。以前、筆者が大井町線で「Q SEAT」を利用した際も、大井町駅はもちろん、途中駅からも満遍なく乗車する人が見られた。

東横線に話を戻すと、大井町線と同様、東横線で座席指定を行う列車も急行で、渋谷~横浜間を約34分、横浜~元町・中華街間を約9分で走破する。通勤時間帯に通勤特急が運行されるにもかかわらず、それより停車駅の多い急行で座席指定を行う理由として、途中駅からの乗車機会を増やす目的がある。しかし、よく考えると、東横線内の途中駅で降りれば乗車時間は30分もなく、中間地点となる武蔵小杉駅まで急行で約18分なので、一般車両で混雑に耐える人も多いように思う。渋谷~横浜間で都市部と都市部を結ぶことも、大井町線・田園都市線とは異なる性格と考えられる。

「Q SEAT」の運行時間帯も、大井町線は17時から始まるが、東横線は最混雑時間帯を避けた19時35分からとなっている。平日夕方以降、渋谷駅を始発とする元町・中華街行の急行は、18時5分発から22時35分発まで30分おきに運行しており、「Q SEAT」もこの枠で運行される。当初は大井町線「Q SEAT」のように人気が出ると見込まれていたが、利用率の低い状態が続くようであれば、運行開始の時間を早めることも一見できそうではある。

座席指定券の料金にも目を向けてみる。「Q SEAT」の座席指定料金は一律500円だが、土休日に東横線・みなとみらい線へ乗り入れる「S-TRAIN」の場合、東横線・みなとみらい線内のみの乗車なら350円で「Q SEAT」より安い。筆者は半額キャンペーン時の「Q SEAT」の様子を見ることができなかったが、同期間中に利用者が増えていたならば、乗車時間に対する座席指定券の料金がネックになっている可能性は十分に考えられる。

「Q SEAT」と「S-TRAIN」で座席指定券の購入場所を比べてみると、各社チケットレスサービスの他に、「Q SEAT」は駅窓口のみ購入可能だが、「S-TRAIN」は改札口および停車駅ホーム上(ICカードのみ)の券売機でも購入できる。各停車駅の券売機でも「Q SEAT」の座席指定券を購入できるようになれば、現金精算の場合に座席指定券を買いやすくなるのではないだろうか。もっとも、ホーム上に券売機がない駅で、それを新設するコストはかかるかもしれないが。

他に考えられそうな策として、相互直通運転を行う東京メトロ副都心線または相鉄線への乗入れも考えられる。その場合、運行間隔のとくに狭い時間帯で、限りある「Q SEAT」連結編成をどうやって運用するか、他社とどのように連携を取るか、鉄道会社を跨いで乗車する際の料金設定はどうするかなど、課題も多数考えられる。

大井町線での好調とは一転、東横線の「Q SEAT」はたしかに利用状況が良いとはいえない。しかし、必ずと言っていいほど混雑する通勤時間帯の東横線において、混雑から解放された上で移動できるという大きなメリットがある。現状だけで失敗だと片づけず、ぜひとも「Q SEAT」が利用しやすくなる策を講じてほしい。