「Future of Music」日本代表25組を発表 世界各国のRolling Stone誌がアーティストを選出

世界11カ国/地域の編集部が選ぶRolling Stone誌の「Future 25」。日本版が独自にピックアップした25組を一挙紹介。

【写真を見る】MAZZEL、ME:I、明日の叙景、紫 今、花冷え。

本国アメリカ版で2023年より始まった「Future of Music」は、 ”未来の音楽のあり方”にフォーカスを当てた同誌の特集プラットフォーム。その看板コンテンツとなるのが、ジャンル/ルーツの境界を越えて新進気鋭アーティスト25組を選定する「Future 25」。米テキサス州オースティンで毎年3月に開催される世界最大級のカルチャー/テック見本市「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)とも連動した同企画は、NewJeansやおとぼけビ~バ~が昨年リスト入りしたことでも話題を集めた。

そして2年目を迎える今年、「Future 25」は国際化が進む音楽シーンの現状をより反映すべく、US版、UK版、スペイン語圏版など世界11カ国/地域の編集部が独自にレコメンドするグローバル・プロジェクトへと発展・拡張することに。それを受けて、Rolling Stone Japanも音楽シーンの明日を担う25組を独自に選出。J-POP、ロック、メタル、ラップ、ハイパーポップ、アイドル、2.5次元アーティストなど「Gacha Pop」時代の百花繚乱ぶりも踏まえつつ、カバーを飾ったMAZZELを筆頭とする”日本代表”を一挙紹介していく。新時代のクリエイティブ・マインドがもたらす活気をここから感じ取ってほしい。

※3月25日発売の「Rolling Stone Japan vol.26」では全54ページの巻頭特集「Future of Music」をフィーチャー

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◆「Future of Music」日本版選出アーティスト

MAZZEL

多彩な「色」を武器に持つダンス&ボーカル

Photo by Kentaro Kambe

MAZZELとは、SKY-HIがCEOを務める音楽事務所・BMSGに所属し、グローバルヒットを生み出すためにユニバーサルミュージックと共同設立したレーベル・BE-Uより、2023年5月にデビューした8人組。最新号のインタビューの中でもメンバーのKAIRYUから「ダンス&ボーカルグループっぽくないと思う」という言葉があったが、MAZZELは、アートパフォーマンス集団と呼びたくなる存在感を示している。音楽やダンスのルーツが異なる8人が集い、全員がメインボーカリストでありメインダンサーであるMAZZELは、曲ごとに、もっといえば1曲の中のパートごとに、ジャンルや感情の異なる表現や表情で魅せていく。しかもただ「歌って踊る」のではなく、鳴っている音を人間の身体を使って視覚的に浮かび上がらせるパフォーマンスやクリエイティブを磨き続けているのがMAZZELなのだ。(矢島由佳子)

※3月25日発売「Rolling Stone Japan vol.26」に巻頭特集インタビューを掲載

ME:I

等身大でクリエイティブな11人

Photo by Kentaro Kambe

『PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS』で国民プロデューサーにより選ばれた11人ガールズグループ、ME:I(ミーアイ)。グループ名には、新しい日本の世代を代表する”未来のアイドル”という意味がこめられており、デビュー前の現段階からその貫禄を沸々と感じさせる。圧倒的な自己プロデュース力はもちろん、表現力やスキル、クリエイティブ能力まで磨いていくというのだから、期待せずにはいられない。(坂井彩花)

※3月25日発売「Rolling Stone Japan vol.26」に巻頭特集インタビューを掲載

明日の叙景

J-POPとブラックメタルのその先へ

Photo by Jun Tsuneda

2022年発表の『アイランド』が絶賛された明日の叙景。「J-POP? それともブラックメタル?」というCD帯コメント通りの複雑なニュアンスを示しつつ、音からアートワークまで絶妙に親しみやすい同作は、アジアやヨーロッパでも歓迎され、近年は国内外でソールドアウト公演を連発している。そんな4人に音楽的バックグラウンド、ライブに臨む姿勢の変化などを語ってもらった。(s.h.i.)

※3月25日発売「Rolling Stone Japan vol.26」に巻頭特集インタビューを掲載

紫 今

圧倒的な歌力を誇る、稀代の音楽アート表現者

Photo by Kentaro Kambe

2022年11月に初のオリジナル楽曲「ゴールデンタイム」をSNSにドロップし、昨年5月に「凡人様」を含む1st EP『Gallery』をリリース。アフリカンミュージック、ゴスペル、R&B、ロック、J-POP、ボカロ、K-POPなど多彩な音楽ジャンルに対する深いルーツと、生活の中で育んできた映像、アート、ファッションセンスを兼ね備える「紫 今(むらさきいま)」は今、人々の趣味嗜好が多様化する時代にあらゆるリスナーの心を一気に掻っ攫い、大きなうねりを起こし始めている。(矢島由佳子)

※3月25日発売「Rolling Stone Japan vol.26」に巻頭特集インタビューを掲載

花冷え。

カオスでポップなバンド道

Photo by Mitsuru Nishimura

東京発のラウドロック・バンド、花冷え。昨年リリースした代表曲「お先に失礼します。」は現在までYouTubeで610万回以上の再生回数を誇り、その後、ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア、アジアと文字通り世界を股にかけた活動の狼煙となった。2024年もドイツの「ROCK AM RING & ROCK IM PARK」など、6月以降、数多くのフェス出演が決まっている。世界中のメタルヘッズをワクワク・ドキドキさせてくれるポップな存在が、この花冷え。なのだ。(上野拓朗)

※3月25日発売「Rolling Stone Japan vol.26」に巻頭特集インタビューを掲載

Ave Mujica

アニメ発の仮面ゴシックメタルバンド

メディアミックス作品『BanG Dream!(バンドリ!)』の最大の特色といえば、キャラクターを演じる声優が実際にバンドとしてライブを行うこと。そんな『バンドリ!』から2023年に新たに生まれたバンドがAve Mujicaだ。マスクで顔を覆ったミステリアスな装い、ゴシックメタルをベースに激情と優美を兼ね備えた音楽性、幕間劇を挿むシアトリカルなステージによって生み出される重厚な世界観は、役者にして歌手や演奏家といった出自を持つ彼女たちだからこそ表現し得るものだろう。2023年放送のTVアニメ『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』での登場をきっかけに日本のみならず海外でも注目を集めるなか、2025年にはAve Mujicaをメインにした新作アニメの放送も決定しており、例えばBABYMETALが日本特有のポップカルチャーとメタルを融合したサウンドで世界に受け入れられたように、彼女たちの音楽もアニメの物語と共にさらに大きな広がりを見せることだろう。(北野創)

HALLEY

世界に羽ばたく新世代R&Bバンド

2021年5月、早稲田大学のブラックミュージックサークル・The Naleioにて結成された現役大学生5人組バンド、HALLEY。初めてインタビューした時から「このバンドは何か違う」と感じさせられた。音楽へのリスペクトとスキルが圧倒的で、「音楽の力とは何か」「表現者とはどうあるべきか」ということに5人ともが高い視座を持っている。グローバルなアイデンティティを持つメンバーが在籍し、クラシック、ゴスペル、ファンク、ソウル、ジャズ、ヒップホップ、ヘヴィメタル、K-R&Bなどそれぞれのルーツを絡ませながら、プロダクションに真摯に向き合うことで豊かなサウンドが完成。セッション要素のあるライブもグルーヴや歌力が抜群で、3月にはSXSWにも出演。同月リリースの『From Dusk Till Dawn』は1stアルバムらしからぬクオリティと確かなポテンシャルを感じさせるもので、Suchmos『THE BAY』、WONK『Sphere』を聴いた時に似た高揚感を覚えた。(矢島由佳子)

大森日向子

夢と現実の狭間へ誘なうアンビエント作家

陶酔感のあるシンセ・サウンドと幽玄なボーカルを武器に、アンビエント、クラシック、ドリームポップの間を軽やかに往還する大森日向子。横浜出身で現在はロンドンを拠点に活動する彼女は、ケイ・テンペスト、ジョージアといったミュージシャンのライブやレコーディングに参加し、その音楽的感性に磨きをかけてきた。森林浴にインスピレーションを得た2022年のデビュー作『a journey...』では、日本の環境音楽に通底する静けさを感じさせながら、イマーシブなアンビエント・スペースを構築。そして、昨年の『stillness, softness…』では、脈動するボーカルと仄暗いシンセ、流麗なメロディを緻密にコラージュしながら、ドラマティックで複雑なサウンドスケープを描いてみせた。そんな夢と現実の狭間へ我々を誘なうような親密感のあるサウンドはフローティング・ポインツやロ・レインを魅了し、コンサートやツアーで共演。更に活躍の場を広げている。(坂本哲哉)

星熊南巫

ダークで優美な世界観を描く、和製ハイパーポップ

トラップ以降の感覚で、電子音楽やEDMを飲み込んだようなラウドロックが全世界で流行中の2024年。バーチャルでアンドロジナスな感覚を世界観に反映した上でコンセプチュアルに表現する試みは、BMTHといったアーティストを筆頭として、たとえばSpotifyの人気プレイリスト「misfits 2.0」でも可視化されてきた。星熊南巫は、昨年「新羅DARKPOP」で本プレイリストにキュレーションされ、この2020年代を席巻するムーブメントの日本代表としてグローバルで大きな注目を集めている。特筆すべきは、妖艶な日本語詞が絡むラウドなサウンドからほのかに香ってくる、唯一無二とも言える幽玄さ。他にも、ソロ・プロジェクトであるDEATHNYANNではオンラインゲーム「Fortnite」のロビーミュージックを担当、さらに4人組グループ・我儘ラキアの中心人物としても活躍中。ファッションブランドとのコラボレーションも多く、まさしく新世代のカルチャー・アイコンとして圧倒的な存在感を誇っている。(つやちゃん)

jo0ji

無限のポテンシャルを秘めた異色の大器

自然体のままで胸を掴んでしまう才能の持ち主。フォークやソウルなどいろんなジャンルの素養を感じさせつつ、シルキーな声と伸びやかなメロディセンス、心の深い部分に触れるような歌心に惹き込まれてしまう。現在24歳、鳥取在住のjo0jiは漁師の家に生まれ漁港で働いてきたという異色の経歴のシンガーソングライターだ。友人のために作った曲だという「不屈に花」をYouTubeに投稿すると話題となり、WONKのメンバーを迎えて制作したEP『475』など続く曲も高いクオリティを持つ。ルーツに挙げるのは忌野清志郎や中島みゆきやRADWIMPS。わかりやすい言葉で親密なムードを醸し出しながら、ときに死生観など深遠なテーマもさらりと表現する世界観、チャーミングなルックスも魅力だ。まだ知る人ぞ知る存在だが、アーティストの本質が国境を超えて広がった藤井 風のようなブレイクの可能性とポテンシャルを感じる。(柴那典)

Khaki

予定調和を拒むオルタナ·ロックの使者

もし「オルタナティブ·ロック」というものを、現義通りに純粋培養し、それを日本語によって表現したとするならば? 東京を拠点に活動するこの5人組は、そんな妄想を掻き立てる異色の存在だ。2021年に1stアルバム『Janome』をリリースして以降、ライブハウスを中心にその評判が瞬く間に伝播し、独力での活動ながら現在最注目の若手バンド=Khakiとして確固たるブランドを誇っている。手垢のついた進行やアンサンブルを断固として拒否する姿勢と馴染みあるメロディの同居は唯一無二であり、例えば3つのパートによって構成されている「Undercurrent」は、ライブの度に演奏順がシャッフルされ、場合によっては他の楽曲ともリンクするという縦横無尽な一曲。最新シングル「お祝い/萌芽」からは、バンドとしての幅を中塩博斗·平川直人という二人のソングライターの対比から窺うこともできる。彼らを目撃した瞬間こそ、疑うことなくオルタナシーンの最前線だ。(風間一慶)

ミームトーキョー

ボーダーを越えていく6人の”ミーム”

2019年に”でんぱ組.inc Jr.オーディション”を経て結成されたでんぱ組.incの妹分ユニット、とだけ聞くとアキバ系をイメージするかもしれないが、彼女たちが打ち出すのはその枠に留まらない、より広範なポップカルチャーを横断するスタンスだ。メンバーはMEW、RITO、SOLI、SAE、MITSUKI、NENEの6人で、RITOは天沢璃人名義ででんぱ組.incのメンバーを兼任、SOLIは韓国出身・在住。その意味でもグループや国境の垣根を越えたスタイルを確立しているわけだが、音楽面においてもGiga&TeddyLoidやウ山あまねなどを起用して、最先端のEDMからハイパーポップまでを昇華したエッジーな楽曲を続々と届けている。2023年には気鋭のボカロP・STEAKAが手掛けたハードなエレクトロクラッシュ「GAV RICH」やchelmico、国士無双、ryo takahashiが手掛けたレイヴィーなラップ曲「AGAIN AND AGAIN」でそのボーダーレスぶりを誇示。彼女たちの”ミーム”が東京から世界に伝播する日もきっと近い。(北野創)

MONJOE

エッジーな最先端プロデューサーとして覚醒

2015年にデビューしたDATSのボーカル&シンガーソングライターとして知られる一方、近年はトラックメイカー/プロデューサーとしての存在感を高めているMONJOE。MAZZELの1stアルバム『Parade』収録のワイルドなラップ曲「K&K」の作曲や、「Future 25」に選出された花冷え。のデスボイス轟くラウドロック「Tales of Villain」のアレンジなども手がけている。MAZZELと同じBMSG所属、BE:FIRSTの「Milli Billi」「Grow Up」「SOS」でも知られる。最近MONJOEの才気が大きく注目された代表曲といえば、Number_iのデビュー曲「GOAT」だろう。平野紫耀、神宮寺勇太、岸優太の凄みのあるスキルフルなラップとノイジー且つインダストリアルな手触りのトラックと暴力的なビートが入り乱れたサウンド·プロダクションは唯一無二のエッジーさと革新性がある。K-POPグループDRIPPINの楽曲にも携わっており、ジャンルや国籍の壁をぶち壊し、音楽シーンを活性化していく第一人者だろう。(小松香里)

NENE

音楽を通じて世界と交信する、ヒップホップ界の超越的存在

2016年より、Ryugo Ishida、プロデューサーのAutomaticとともにヒップホップ・ユニット、ゆるふわギャングとして活動。サイケデリックな世界観と詩的なリリック、アバンギャルドなファッションスタイルで注目を集める。海外でのライブ活動に加え、イギリスのNTS Radioへの登場、ケミカル・ブラザーズの楽曲に参加するなど、ボーダーレスな動きを見せる。インドのゴアを訪問し、トランスにも傾倒。2022年よりシークレット・レイヴも主催するなど、ヒップホップ・シーンに新たなトレンドを作り出した。NENE名義としては、ソロのアルバムやEPのリリースに加え、AwichやKID FRESINO、STUTS、MonyHorseなどの国内気鋭のアーティストの楽曲に参加。2023年リリースの「Bad Bitch 美学」が大ヒットしTV番組『ミュージックステーション』に出演。破壊的かつ美しい、カテゴライズ不可能な独自の道を進む。(MINORI)

乃紫

次世代のクリエイティブでTikTokを席巻

TikTokが音楽の消費や流行のあり方を大きく変えた今、それをクリエイティブの出発点に据えた新世代のシンガーソングライターが次々と登場している。なかでも乃紫は非常にユニークな発想の持ち主だ。代表曲「全方向美少女」は”正面で見ても横から見ても下から見てもいい女”というフレーズに乗せて様々な角度で顔を映す動画がTikTokでバズり、日本国内のみならずTWICEやaespaのメンバーが投稿するなど反響は韓国にも広まった。もともと音楽活動を始めたのとTikTokへの投稿を始めたのがほぼ同時。動画を撮りやすいフレーズがバズの決め手になったというこの曲を筆頭に、作詞作曲はTikTokのUGCを意識した方法論で行っているという。韓国を中心にアジア各国のバイラルチャートを席巻したのを受けて「全方向美少女」の韓国語バージョンをリリースするなどアクションも素早い。キャッチーなメロディセンスとしたたかな戦略性が武器だ。(柴那典)

ぺろぺろきゃんでー

ギャル魂で鼓舞する兄妹ポップラップ

ぺろぺろきゃんでーは、文脈を超える力を持ったユニットだ。日米をルーツに持つSUNNY-PLAYとJanet真夢叶の兄妹は、よそ者扱いされたり心ない言葉を投げかけられたりといった経験をする中で、自分たちにコンプレックスを抱くように。それをラップで表現し……というところまではよく聞く話かもしれないが、実は音楽性はダークと見せかけてポップ、歌詞もネガティブではなく前向きな明るさに満ちている点が新しい。そのポジティブさを二人は「ギャルマインド」と呼んでおり、そのギャル魂を感じる魅力が最も詰まった曲「話題のGAL」はTikTok内楽曲再生が3億8千万回超え、ティーンの人気を席巻中。次から次にリリースされる楽曲には「地球の隅っこにいるあなたへ、ギャルマインドをお届け」という価値観が流れており、多くの人の背中を押している。ラップシーンも国境も、既存の文脈を軽やかに超えていく力を感じる二人から今後も目が離せない。(つやちゃん)

REJAY

JQ(Nulbarich)初のトータルプロデュース

NulbarichのJQにその歌声を発掘された、REJAY。Nulbarichは年内での活動休止を発表しており、JQが自身の次のプロジェクトとしてトータルプロデュースを手掛けるのが彼女である。2月7日にシングル「Too Late」でデビューし、3月22日にはEP『18』をリリース。デビュー翌日にNulbarichのZepp Haneda公演にオープニングアクトとして登場したのだが、いきなり「Toms Diner」(スザンヌ・ヴェガ)をアカペラで歌い切ったことには驚いた。日本のメインストリームにNulbarichというオルタナティブなスタイルを持ち込むことに成功したJQが、現在はLAを制作拠点とする中で日本とグローバルの現行シーンへの嗅覚を鋭く持ち、オーストラリアと日本のダブルであるREJAYという稀有な感性と声を通して音楽を世界に響かせるのがこのプロジェクト。まるで国境などないかのような広がりを見せるのではないかと、新たな音楽の誕生に期待が高まる。(矢島由佳子)

SATOH

東京のロックを斬新な形で塗り替える2人組

クラブやヒップホップシーンを出自に持つSATOHは、アジカン、ELLEGARDEN、RADWIMPSなどの「邦ロック」からの影響を背景に、昨年リリースの『BORN IN ASIA』で新たなスタンダードを提示した。東京のユースカルチャーの先頭を突っ走るLinna FiggとKyazmの2人組は、日本のロックを塗り替えようという気概に満ちている。メジャー1stシングル「OK」の音楽性は、過剰なデジタル加工と異なるジャンル要素の組合せをポップに響かせる100 gecsやunderscoresとも共振しつつ、よりラウドでパンキッシュだ。”ニヒルやめろ my friend”という率直で鋭い一節には背筋が伸びる。NYで撮影を敢行したというMVも、等身大の街を映すことに長けた彼らの強みが発揮されている。また、主催イベント「FLAG」では同世代アーティストを巻き込み、シーンを形成する力も充分。楽曲を共同制作した、中国/ベトナムにルーツを持つNYのHarry Teardropも招聘するなど、その輪を国内外に拡げている。

(最込舜一)

Skaai

一人の表現者として新たな領域を開拓するクリエイター

アメリカで生まれ、幼少期から韓国やマレーシアでの生活を経験し、九州大学の大学院へ進み研究者の道を志すという道を歩んできたSkaaiは、コロナ禍を契機にするようなかたちで徐々にラップへと傾倒しSoundCloud上に楽曲をアップロードするようになる。2021年に人気オーディション番組「ラップスタア誕生!」で注目を浴びるようになった彼のリリックは繊細で文学的な味わいを持つと同時にラッパーとしての確固たる自信も顕著で、聴くほどにSkaaiという人間の複雑さを思い知る。楽曲制作を始めて間もないタイミングでラッパーとしてのキャリアをスタートさせたSkaaiだが、Daichi Yamamotoを迎えた「FLOATING EYES」ではその不安や葛藤をストレートに表現。挑発的なタイトルのEP『WELL DIE THIS WAY』では、若さゆえの歪さや不安定さといった感情の発露を見事にまとめあげた。以前、これからはラップ以外の表現にも挑戦していきたいと語ったSkaai。無限の可能性と才能を秘めたクリエイターである。(渡辺志保)

TAMTAM

世界が発見したニューエイジポップス

レゲエ/ダブを一大ルーツとしながら、R&Bやヒップホップ、ジャズ、エレクトロなど多様な音楽性を吸収し、マジカルなポップスを奏でてきた東京の4人組、TAMTAMが転機を迎えている。今年1月の最新EP『Ramble In The Rainbow』で米レーベルPPUより海外デビューを果たすと、ジャイルス・ピーターソンが即座に反応し、Bandcampも大きく取り上げるなど海外メディア/リスナーの間で注目の的に。Stones Throw譲りの宅録サイケデリア、サン・ラのスピリチュアルな浮遊感など国内外の文脈とシンクロしつつ、ニューエイジ的な要素をバンド演奏に盛り込み、万華鏡サウンドはますます先鋭化。童歌とネオソウル、シティポップが溶け込んだKuroの歌も郷愁を誘う。リスナー気質ゆえに海外シーンの最深部へアンテナを張り、個性的なサウンドであり続けた結果、結成15年を経て世界に発見され、今まさに新たな扉を開こうとしている。その数奇なキャリアにも「音楽の未来」を感じずにいられない。(小熊俊哉)

VivaOla

日米韓のルーツをもつオルタナティブR&Bの寵児

VivaOlaは2019年のデビュー以降、確かな音楽性によってアジアを代表するR&Bアーティストへと成長を遂げてきた。韓国生まれ、東京育ちという出自を持ち、バークリー音大でソングライティングを学んでいた経歴も。R&Bの歴史を理知的に捉えた上でアップデートしていくその才能は、グローバルにおける同時代の音楽を独自に解釈したような、先進性とユニークネスを備えている。ゆえに、同世代の音楽家からのリスペクトも厚い。2021年リリースの1stフルアルバム『Juliet is the moon』では、グラミーのノミネートプロデューサーであるstarRoを起用した「All This Time」で、昨今トレンドとなっているアフロビーツ解釈のR&Bにもいち早くアプローチ。2023年にはSXSWにも出演し、国内外において大きな注目を集めた。この3月には待望の2ndフルアルバム『APORIE VIVANT』を発表、ブライソン·ティラーの『T R A P S O U L』をはじめとした2010sオルタナティブR&Bの再解釈に挑んでいる。(つやちゃん)

VMO

メタルとテクノを融合させる暗黒アート集団

ブラックメタルとクラブミュージックを自在に融合する総合アート集団、VMP。その実力は世界的にも高く評価され、2018年のRoadburn Festivalや2019年のCTM Festival、2023年のNEX_FESTといったジャンル越境型フェスに出演。幅広い注目を集めてきた。「自分たちがやっていることはポップだと思っている」「アートしたい人と遊園地したい人のせめぎ合い」と言うように、暗黒舞踏的なパフォーマンスを強烈な電子音響で彩るステージは、無理やりぶち上がるうちにそのテンションが本気に至る様子、言葉本来の意味でのレイヴ感を美しく具現化しつつ、不思議と開かれた親しみやすさにも満ちている。そうしたスタンス=『DEATH RAVE』を冠する今年3月発表のニューアルバムには、メイヘムのアッティラ·シハーや、インドネシアのガムラン·ガバ·ユニットGabber Modus Operandi、フル·オブ·ヘルといった強力なゲストが世界各地から参加。この快作で更なる躍進を遂げるに違いない。(s.h.i.)

Xansei

自由なマインドで躍動する、創造性全開のビート職人

20代にして国内外から注目を受ける”逆輸入”プロデューサー、Xansei。2017年よりトラップの聖地、米アトランタを拠点にラトーやサブリナ・クラウディオ、ワーレイ、NLE・チョッパなどの有名アーティストとレコーディングを経験。また、KOHHやGottz&MUDとも共演し、日本国内での注目も高まった。攻撃的な音を使ったバイオレンスなビートを特徴としている一方、SNSなどを通して世界的にヒットしたガールズグループ・XG「Shooting Star」をプロデュースするなど、柔軟で新しい音楽性を持つ。2023年にはラッパーのLeon Fanourakis、SANTAWORLDVIEWとともにアルバム『XEONWORLDVIEW』をリリース。同年開催された日本最大級のヒップホップフェス「THE HOPE」に出演し、約3万人の前でパフォーマンスを披露。2024年、村上隆の国内8年ぶりの大規模個展「村上隆 もののけ 京都」の主題歌となるJP THE WAVY「Mononoke Kyoto」にビートを提供した。(MINORI)

由薫

ハイブリッドなルーツと心を音楽に

幼少期をアメリカ、スイスにて過ごしたバイリンガルシンガー。「星月夜」は累計再生数が4億回を突破するほどのヒットに。日本語と英語、それぞれから生まれ得るメロディやグルーヴとは何かを探求し続けているシンガーソングライターであり、音楽を届ける先は国内だけに留まらない。SXSWに2年連続出演し、今年はLAにてワンマンライブも成功させた。1stアルバム『Brighter』にはスウェーデンにて現地のクリエイターとコンポーズした楽曲たちも収録。ギターを始めた頃はテイラー・スウィフトをカバーしていたといい、自身の心を素直に音楽に投影し、グッドメロディと歌の力を柱としながらもジャンル感はその時々の自分のヴァイブスに合うものを選んで音の中で弾けている由薫の姿には、オリヴィア・ロドリゴとの重なりも見える。何より、音楽には人間の無自覚な部分も揺らす力があると信じ抜いていることが彼女の楽曲の強度になっていると感じる。(矢島由佳子)

長瀬有花

バーチャルとリアルの境界を跨ぐ表現者

日本発祥の新たなエンタメとして、海外でも北米やアジアを中心に人気が加速しているVTuber/バーチャルタレントの文化。キャラクター性の高い楽曲やバーチャル空間ならではのライブ演出など、音楽面においてもおもしろい取り組みが次々と登場するなか、いま特に注目したいのが、2次元と3次元の境界を越えて活動する”だつりょく系アーティスト”の長瀬有花だ。3DCGなどの”二次元の姿”で活動する一方、リアルアーティストとしても配信やライブを行っている彼女。その自由なゆるさは音楽性にも通じており、パソコン音楽クラブ、mekakushe、笹川真生、いよわといったアーティストと共に作りあげた楽曲は、いずれも彼女特有のまろやかな歌声とポップなストレンジ感に満ちたもので、聴いていると程良く脱力させてくれる。AiobahnやネットレーベルのLocal Visionsとのコラボなどフットワークの軽さも魅力で、彼女の創意工夫に富んだ自己表現を追えば色々な発見に出会えるはずだ。(北野創)