「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」というビジョンを掲げるTENGA社のプロダクトは、多くの人々に活気と潤いを与えているのではないでしょうか。『月刊TENGA52号 人には言えないオトコの性の悩み』の発刊記念トークセッション、「森林原人さんと語る TENGA茶会」。前編ではAV男優の森林原人さんが、男性の約7割が性の悩みを友人に話さないこと、20代から60代まで性のお悩みにあまり変化がないといった、男性の性の悩みの実態を分析。後編は、男女間の悩みの意識のズレについて、さらに深掘りしていきます。
【前編】サイズを気にしているのは男性だけ…‟オトコの性の悩み”のリアル
緊張から「興奮」へ向かう男性、「不安」に向かう女性
森林原人さんが‟男女の描く感情の違い”に気づくきっかけになったのは、7~8年前に「性的同意」という言葉を知ったことだそう。「それまでのAV撮影の現場では、同意がない中でどう攻略していくのかというのがメインテーマで、いかにそこで刺激をするのかという内容のコンテンツばかり。また、僕は『相手を気持ちよくしたい、相手に好かれたい』という気持ちで臨んでいましたが、その基準がそもそも違っていた。女性は『相手が何をしてくるかわからないから怖い』という状態なんです。初めてするときの心理状態は、男性も女性も最初は‟緊張”。どんなことが起きるのかなという緊張から、興味という前のめりな気持ちがベースとしてある男性は、‟興奮”に上がっていく。でも女性のほうは‟緊張”が、『何をされるのかな』という不安、防衛のほうにはたらくんです」と、この一段階ずれていることが、男女の性行為におけるすれ違いのすべての原因になっている、と森林さん。
自分のテクニックで相手を気持ちよくしたいという気持ちは前のめりであって、「相手を気持ちよくしよう」の前に、「不安を取り除こう」というのが重要だと気づいたそう。料理で例えるなら、「美味しいものを食べてもらいたい」の前に、まずは「お腹を壊さない、安全安心なものを出さなきゃいけない」と説明します。
また「性交痛」の悩みに関する他社の調査で、「性交痛がある」と答えた女性は、男性の2倍いたそうです。にも関わらず、「性交痛があったときにどうしたか」という質問で、女性のほとんどが「そのまま続けた」と答えたのに対して、男性の回答は「そこで止めた」だったことも紹介。「性行為で痛みがあるというのは、男性にとっては‟緊急事態”。でも女性にとって性交時の痛みは、よくあること、耐えるべきこと、乗り越えなきゃいけないこと、‟我慢するのが当たり前”だという認識だったんです」。男女でスタート地点がそもそもずれているからこそ、男性は「気持ちよくさせよう」の前に、相手の嫌なことをしない、相手の体と気持ちを傷つけることをなくさなければならない、というのが大前提だと森林さん。
AIコンテンツの台頭で、性のリアリティはどう変化する?
また、AIが作成した性的コンテンツが本格的に登場していることも紹介されました。TikTokなどのSNS上では、AIで作られた可愛い女の子の動画にほとんどのユーザーは気づかずに課金しており、今後この手法がさらに拡大していくだろうことは必然。騙して課金させるなんてというのはいったんおいて、実在しない人に性的なことをさせることは、傷つく人がいないとすれば悪くないことのようにも思いますが、「被害者がいないんだから何をやってもいい、というコンテンツが作られかねない。その行きつく先は決してハッピーじゃない」と、森林さんは警鐘を鳴らします。
暴力や残虐行為に発展する危険性はもちろん、あまりにも精巧な没入感たっぷりのコンテンツを若いうちから見慣れると、現実の生身の人間に対して、肌がツルツルしてない、お腹が出てる、ニオイがする……という違和感や拒否反応が出て、リアルな性行為を受けつけなくなってしまっても不思議はありません。
すでに、若い人が興奮するリアリティを感じるポイントは変化しているそうで、「性的なコンテンツを楽しんでない、というわけではなく、違う楽しみ方、AVに比べるとかなりライトな内容のコンテンツが消費されていると聞きます。パンチラや自慰といった‟微エロ”で、実際の性行為はそこまで要らないんだと。若い人たちは性的コンテンツをTikTokやインスタなどで探して、‟SNSにいる人がエッチなことをしている”ことにリアリティがあるんですね」と森林さん。実際の性行為はハードルが高くリスクも学習している彼らは、そもそも性行為に「憧れがない」という話を聞いて、ほおーーっとざわつく会場。
では、シンプルに性的欲求を満たすなら一人で簡単に満足感を得られるこの時代に、生殖目的以外で、あえて性行為をする意味はどこにあるのか。「僕は『身体性』がキーワードになると思っています。実際にカラダが存在していて、そのカラダに触れていくということは、なにものにも代えられない喜び。手間だしリスクだけれど、そこにある温もり、やさしさ、それは人間が根源的に持っている喜びだと思います。けっして挿入じゃなくていい。抱っこして喜ぶとか、つながるとか、ポカポカとか、子どもでもわかるような単純な言葉が、最後に残っていくんじゃないかと思っています」。
男性はきっと100年前も同じような悩みを持っていた
最後に、‟男性の性の悩み”を取り巻く環境について。「おそらく100年前の男性も、同じような性の悩みを持っていたと思うんです。でも、言葉に意味ができて『包茎はかっこ悪い』などという色がついてしまって、それがごく当たり前の悩みとして言語化されていない。話そうよという空気感ができてくると、もっと話しやすくなるんじゃないかな。そうなると、みんなが笑う下ネタも変わってきます。今は自虐ネタで笑っていても、『何が面白いの?』となっていって、男の性も笑いをとれなくなってくる。そうしてみんなが話しやすい空気になれば、体質的な悩み、機能形状的な悩みと細分化されて解決の道筋が敷かれていき、ずっと同じところでぐるぐる回ることはなくなるのでは」と語った森林さん。
ここ数年で「フェムテック」という言葉が浸透し、女性が性について語ることは「はしたないことではない、ごく当たり前のことだ」という意識が芽生えて、女性の性のトピックスは確実に、日の当たる場所に出てきています。対照的に、男性が真面目に性の悩みを話すことはほとんどない現状。もっと気楽にもっとフランクに、男性が自身の性の悩みを語れる環境が醸成されることを願ってやみません。